5月26日の朝、この季節にしては冷たい空気に起こされて俺は6時前に目が覚めた。
今日は東京へ帰る日だ。
今回の旅は綾織に始まり、綾織に終わる。俺の遠野での初体験をたくさんくれた街だから、そんな旅への浸り方があっても良い。
始発の汽車が来る前に、朝食を済ませておくことにする。
今回は、シーチキンははごろもフーズの登録商標です、で有名なはごろものシーチキン+コーン&チーズと、サラダによく合うやんわかチキンフレークのふたつ。どちらもやや淡白でヘルシーな味付けだったので、これはごはんよりもパンがあれば良かったかも知れない。
食事は10分程で終わったが、まだ汽車は来ないので少し駅の周りを散歩してみる。
釜石街道から離れている綾織駅は、一昨日も見た通り、小さな街と見渡す限りの水田に囲まれている。朝の火を焚いている家を見付け、其処からだろうか、とても懐かしい匂いが鼻を擽った。
今日の遠野は薄曇りで、遠くの山々の稜線は霞んでいる。
一昨日、昨日と日中は晴れていたので非常に運が良かったが、昨日の朝は曇っていた。この季節はどうしてもそういった天気になり易いのだろうか。
俺はこんな綾織が大好きだ。地元の人程、俺や他の旅行者に対して「自分は東京の方が憧れる」と仰る印象があるが、まず地元の人が地元を愛さなければ、外から来る人に土地の魅力を伝えることは出来ない。
綾織の空気を感じれば感じる程、様々な感情が複雑に絡み合って、永遠にでもこの場所に居たいと思うようになる。しかしそれは未だ俺が願ってはいけないことだ。
やがて、遠野方面から力強い汽笛を響かせ、始発の汽車が綾織駅に到着した。
扉を開き、パティと一緒に汽車に乗り込む。今回もまた、“現実”に帰るための旅路が始まった。