侍村から馬渕川を渡って川久保という集落に入ると、目の前には傾斜10%という仙人峠並みの急坂が待ち構えていた。
馬渕川とその畔に居を構える農家が、目と鼻の先なのに「下に」見える。
坂を下った先は、春先の落ち着いた空気が流れていながらも、住んでいる人の数はかなり多そう。
そういえば此処まで、神社らしい神社に出会っていなかった。たまたまそういうルートを通ってしまったからなのか、それとも遠野や宮守に比べ、元々神社が少ないのだろうか。
御社の中はがらんとしていて、何が祀られているのかも定かではなかった。
これまで、東北といえば遠野が全てだった俺にとって、街も其処に流れる空気も全てが初めての体験だった。大きく冒険心を刺激され、しかし心の何処かで「俺はこの街に来るために今まで旅を続けてきたのかもしれない」という静かに満たされていく郷愁を感じていた。
川久保集落をどんどん奥に入って行くが、姉帯城への道はよくわからない。おかしいな……。
遠野以上に観光地化されていなく、そもそも積極的に姉帯城に人を呼ぼう!という感じでもないのかもしれない。俺も分かれ道の案内を発見するまでは、姉帯さんが城を持っているなんて知らなかったし……。
このままドツボに嵌ってしまわないか非常に心配だったが、やがて民家の裏手の山に続く細い道を発見し、どうにか城に辿り着けそうだとひと安心した。