これまで遠野の果てだと思っていた大出の早池峰神社だが、実はその先にはまだ続きがあった。
未知の世界に踏み入るのに、不安が7割、希望が3割。しかし得てしてそんな心境のときこそ、求めている新しい刺激に出会えるのだ。
此処からは猿ヶ石川とも別れ、滝川という初対面の川と道中を共にすることになる。
これから訪れようとしているのは、現時点で最北端の遠野遺産である又一の滝であるので、滝川という名前ももしかしたら、滝ありきの命名なのかも。
人も滅多に立ち入ることが無い遠野の深淵、川の水は心地良いくらいに澄んでいる。
やがて分かれ道が見えてきた。
薬師岳は向かって右の道なので、そちらへ進む。左の道が何処へ通じているのかは、わからない。
道はずっと厳しい上り坂で、薬師岳の姿を拝む前から息が切れてくる。風景もずっと寂しい峠道で、あまり変化が無いことも精神的に応える。
そんな精神状態に追い打ちを掛けるように、行く手には無慈悲な上り坂……。
息を切らせながら大出から3kmくらい上って来ると、ようやく数軒の民家が点在する大野平の集落に辿り着く。此処は遠野でも最も新しい開拓集落のひとつで、同時に早池峰を目指す道すがらで最後に通る集落である。
大野平から先も、まだ1kmくらい寂しい道が続く。
さらに此処まで来て、急に土砂降りの雨が降り始める。山の天気は変わり易いとはいえ、幾ら何でもヒドイ。これはもう「来ないでくれ」と言われているようなレベルだ。
しかし此処まで来て引き返す選択肢は無い。
折れそうな心と限界間近の身体に鞭打ち、ひたすら急坂を上っていくと、やがて道は未舗装の砂利道に変わった。やっと目的地が近付いて来たのかも……。
俺は念のため、砂利道の入り口にパティを待たせ、此処から先は歩いて目的地を目指すことにした。
又一の滝は、此処から1km程薬師岳を登ったところにある。
天候もかなり荒れ模様だし、薬師岳やその先に待ち構える早池峰山に挑戦することは叶わなさそうだが、折角苦労して此処まで来たのだから、又一の滝にだけは死んでも辿り着きたい。