下附馬牛から大出の早池峰神社まではだいたい10kmくらい。
つくづく附馬牛は広い。
街外れに、馬越峠方面と神遣峠方面の分かれ道がある。
大出を目指すのは三度目だが、前回はZ氏にトラックで運んで貰ったため、自力で峠を越えるのは5年振りだ。
暫くはなだらかな道が続き、地元民が散歩していたりもする。
家も無く、当然人とすれ違うことも滅多に無い。
強まる孤独感と共に、遠野の北端に近付いていることを身に感じる。
近くには、3人の女神と母親がそれぞれの山に分かれていった最後の場所である神遣神社がある。
遠野伝説始まりの場所、今は人気も無く、ともすれば見逃してしまいそうなくらい、ひっそりと佇んでいる。
峠を下ると、小出の集落に到着する。
シンボルの木造橋の姿が懐かしい。今日は帰り道、重湍渓に立ち寄るためにあの橋を渡る予定だ。
なお小出には、待華という場所がある。
花を待つ、という意味の言葉が地名に残っているとは、女神の伝説がどれだけ身近にあったものなのかが容易に想像出来る。
猿ヶ石川沿いにまた寂しい道を暫く進むと、早池峰神社を擁する大出の集落が見えてくる。
橋を渡った先に数軒の民家がある、小さな街。
さらに川を遡れば大野平という集落があるが、そこは近代になって新しく開拓された場所だ。
なので、開拓時代以前から人が住んでいる場所としては、大出が遠野で最北端なのだ。
久し振りの早池峰神社に見送られ、俺はまだ先へ進む。
初めての遠野旅行では、この早池峰神社が最後の目的地だった。俺の中ではずっと、この早池峰神社こそが遠野最後の場所だった。
これからは違う。俺はまだまだ、出会ったことが無い遠野に会いに行きたい。