時計は丁度、午後に差し掛かったところだった。
俺は達曽部に別れを告げ、遠野へ向かう内楽木峠への挑戦を開始した。
達曽部側からの上り坂はそう長くはなく、俺はすぐに峠の頂上に辿り着いた。
これが逆に宮守側からだと、厳しい上り坂をずっと上って来なければならないわけだが。
幸いお昼を境に、空はすっかり晴れ上がった。
春の日差しが山を照らし、峠を越える道はじりじりと熱せられてくる。
このあたりは車の通りもそう多くなく、俺はパティと一緒にスピードを上げて坂を下った。向かい風がとても心地良い。
このまま遠野までずっと下って行ければ良いのだが、この先まだふたつ程の峠を越えなければ、遠野に辿り着くことは出来ない。遠野という存在は、そう簡単ではないのだ。
山深い場所に数軒の家が寄り添い、自然と共にある暮らしを守っている。
くっきりと切り取られた絵画のような世界は純朴であり、何か俺が犯すことの出来ない神聖な世界であるような気がした。
集落を抜けると、宮守方面への分かれ道に差し掛かった。
此処から道は再び上りに転じ、前回達曽部を訪れるときに通った上宮守まで、ふたつ目の峠を越えることになる。
この先には塚沢という集落があるのだが、実は今日の午後の目的地は塚沢なのだ。
12月に宮守を訪れた際に、いい加減な地図に踊らされたせいで発見できなかった塚沢神社が、本当は遠野への道すがらにある塚沢に鎮座していることを知ったので、遠野に帰る途中で探してみようというわけだ。
とはいえ、先程の集落を見た通り、このあたりは高低差が非常に大きい土地だ。塚沢神社が簡単に見付かるとは限らないし、見付かっても辿り着くまでに急坂を上り下りしなければならないかもしれない。
取り敢えず、見落として通過することが無いように慎重に進もう。