遠野放浪記 2013.01.14.-01 始発列車 | 真・遠野物語2

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この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

1月14日、6時前には目が覚めた。

今日は雪掻きをする人も来ず、駅は静けさに包まれている。待合室の外に出てみると、たちまち澄んだ刃のような冷たい空気が顔に突き刺さった。

今日はもう東京へ帰る日だ。


始発列車が来るまで少し時間があったので、昨日ローソンで買っておいたドーナツを朝食に食べた。

今はどうなのか知らないが、この時期ローソンではやたらとドーナツに力を入れていて、何処かで見たような御馴染みのドーナツたちがパンコーナーの主役だった。

甘いドーナツは目覚めたばかりでもしっかり食べることが出来、とても美味しい。コンビニの食事は年々進化しているが、中でもパン類のそれは著しく、専門店のクオリティと何ら変わりない逸品に出会うことが間々ある。


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年末に比べると幾分か日が長くなったのか、列車が来る前に少しずつ空が明るくなり始めた。漆黒から濃い青に変わり、時間の経過と共に鮮やかに澄んでいく世界を敏感に肌で感じることが出来るのは、旅先ならではの体験だと思う。東京ではそれを邪魔する様々な要因によって、その感覚はどうしても鈍りがちだ。

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やがて、遠くの方から綾織駅に一日の始まりを告げる汽笛の音が聞こえてきた。

駅があるところに列車は必ずやって来る。

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遠野駅とは違い、見送る人は誰もいないが、今はそれで良い。

冬の夜の冷たさも、やがて訪れる夜明けによって溶けてしまう。非日常から日常へ戻るため、自動ドアを開け、暖かい車内に乗り込んだ。

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ここから、東京への長い帰り道が始まるわけだが……これが本当に長い長い道程になるとは、このときは想像すらしていなかった。