花巻駅を出発した気動車は、街を離れて広い田園地帯へ向かう。
街外れの似内駅付近では、もう沈んでしまったと思っていた太陽の最後の姿をもう一度見ることが出来た。
街から街へ旅をする列車を見送るという最後の仕事を終え、笑顔で地平線の向こうへ沈んでいく。
淡い炎を残して雪原の彼方へ消えて行く、真冬の優しい黄昏。
北上川を越えると、その先には東和くらいしか大きな街はなく、駅の周辺に数軒の家々が寄り添う姿があるのみだ。新花巻は新幹線が停まる駅だが、逆に新幹線の線路以外のものはあまりない。
昨今赤字路線の縮小・廃止が進んでいるが、こうして実際に列車に乗ってみると、地方に行けば行く程鉄道が地域に果たす役割の大きさを感じる。
今度こそ太陽は地平線の向こうに沈み、ここからは急速に暗くなっていく。
まだ微かに太陽が残していった薄紅色が稜線付近に漂っているが、これも後数分もすれば消えてしまうだろう。
何かに怯えるように走る列車の背後に、夜はぴったりと付いて来る。
花巻市内で最後の駅である晴山を過ぎると、いよいよ宮守との間に聳える峠に挑むことになる。
日向居木山、尤部山、黒日影山に挟まれた険しい道を、猿ヶ石川と共に走る。
誰もいない岩根橋駅を過ぎると、長かった峠道は終わり、列車は宮守の街に到着する。
花巻と遠野の中間くらいに位置することから立地面でも重要な役割を果たし、何より俺の嫁が住んでいることもあって非常に思い入れがある街だ。
真っ暗になってしまう少し前に、列車は宮守駅に到着。
この時間でも乗客の数は多い。これから遠野や釜石に帰る人たちだろうか……。
宮守は今でこそ遠野市に併合されているが、かつては独立した自治体だったことから今でも遠野とは全く違う空気が残っていて、心が疲れているときにのんびり立ち寄りたいと思う街だ(これは遠野のどの街にもある程度共通する感情なのだが)。
所謂観光名所らしい場所は多くないが、ただ街を歩いているだけで、宮守そのものがありのままの自分を受け入れてくれているような気がしてくる。釜石線に乗ったら、ちょっと時間を作って宮守で降りてみてはいかがだろうか……きっとそんな何かに出会える筈だから。