遠野放浪記 準備編-10 年の瀬 | 真・遠野物語2

真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。

12月も下旬に差し掛かり、東京の寒さも日に日に増していった。

仕事はとても順調で、最後の一週間を残して既に年内の後片付けモードに入っていた。


もう少しで遠野と再会する。俺にはそれが楽しみでもあり、昔の恋人と久々に会うような不安な心境もあった。遠野は今でも変わらないのだろうか、それとも俺が知る遠野とは違っているのだろうか。

しかしそれでも俺は遠野に会いに行く。俺自身がそれを欲するから。


あれから1年と11ヶ月、俺の耳にはいつも強い風の音が聞こえていた。土と草木の香りがする強い向かい風だった。ともすれば吹き消されてしまいそうな小さな命の炎、俺はそんなものにも逃げずに必死に立ち向かってきた。いつだって、遠野と遠野の人たちが背中を押してくれた。俺はそれに気付いていなかったのかもしれないけれど、確かにそんな感触が残っていたように思う。

今も向かい風は吹いているのだろうか。いや、どっちだって良いか……心がそこにあれば。


いよいよ出発の時だ。

今度は俺の生き様を、遠野にぶつけに行く。