原子炉を売って儲けるつもりが、ホライズン社という余計なお荷物を背負い込み、
1兆円の事業費が3兆円に膨らんでようやく ただならぬ状況に陥っていることを思い知る。

日立にとって英原発事業は、勝ち目のない博打。
国内でもやったことがない業務を、勝手がちがう海外で挑戦する。しかも採算に合わない原子力事業をだ。

 キーを回せばエンジンが掛かって自動車が動き出すように、一括請負業者は、受注したプロジェクトを、キーを回せばすぐ動くように完成させ、施主に引き渡す。リスクの高いビジネスだが、順調にこなせば大儲けできる。

しかし、施主も請負業者も日立では、どちらに転んでも すべてのリスクを日立が被ることに・・


日立・三菱重工が挑む「原発輸出」のジレンマ

建設の中核を担うベクテル社は、リスクが高すぎると三社連合から降りた。

原発の建設にも運営にも素人の日立、ホライズンプロジェクトが成功する確立はゼロ%。

今までに注ぎ込んだ2700億円を、高い授業料と諦めるのが賢明な経営者。
東芝という、格好の反面教師がいるではないか。

コスト高の原発「正当化難しい」:福島原発製造メーカー 米GEのCEOが発言
幻の「原発ルネサンス」に踊らされ、親会社・東芝まで道ずれに・・米ウェスチングハウスCEO反省の弁
リスクの塊・原発輸出=採算悪化、事故時の賠償責任からも逃れられず・・
 
 ダイアモンドONLINEより
日立、英原発共同事業で米社離脱は「名誉ある撤退」の潮時だ
【原発事業の施主はホライズン。三社連合は建設業者として発電所の設計、機器の調達、土木建設、工期管理などを請け負い、建設に関わる全責任を負う。業界で「フルターンキー」と呼ばれる仕事だ。

 キーを回せばエンジンが掛かって自動車が動き出すように、一括請負業者は、受注したプロジェクトを、キーを回せばすぐ動くように完成させ、施主に引き渡す。リスクの高いビジネスだが、順調にこなせば大儲けできる。

 ところが原発工事は、キーを回すまでにおびただしいリスクと直面するようになった。

リスク高い仕事とベクテルが外れる

 ベクテルが外れ、フルターンキーで受注するはずだった三社連合が解散したのも同じ構図だ。

 三社連合の内部を見ると、日立は原発やタービンなど主要機器のメーカー。日揮は配管などのエンジニアリングを担当。建設の総合調整、つまり土木・建設から工期、安全基準の適合など中核を担うのはベクテルだ。

「三社連合の解散」はベクテルがリスクの高い仕事から降りた、つまり建設コスト膨張の責任を負わされる立場から離脱した、ということでもある。

 原発事業は、今やリスクの押し付け合いになった。アメリカの原発事業で生じた損害を東芝が背負い込まされたことが業界の現状を象徴している。

 トルコでフランスのアレバと組んで原発建設を計画していた三菱重工のグループからは伊藤忠が離脱した。「採算が取れない」と事業リスクに巻き込まれることを回避した。

日立にとって、英国事業は大きな冒険である。発電機メーカーなのに、英国で電力会社を経営しようというのである。

 国内でもやったことがない業務を、勝手がちがう海外で挑戦する。しかも採算に合わない原子力事業をだ。

 取り巻く環境は、原子力ムラでもたれ合う国内のように甘くはない。まともな経営者ならとても踏み切れない案件だが、日立は成り行きに任せここまで来てしまった。


世界の見直しの動きに逆行「原発ルネッサンス」に色めき立つ

 始まりは、米国のブッシュ政権が掲げた「原発ルネッサンス」だった。

 スリーマイル島の事故で途絶えていた原発を、温暖化対策と絡めて「クリーンなエネルギー」として復活させる政策だった。途上国の台頭も重なり、世界の原発需要は拡大するという絵が描かれ、日本の原子力業界は色めき立った。東芝がウエスティングハウスを買収したのもその流れである。そこに福島事故が起きた。

 日立がホライズンを買収したのは福島事故の翌年。原子炉やタービンを作り続け、原子力技術を絶さないことに力点を置いた。だがすでに世界は原発を見直す方向に動いていた。

 原子力の先駆けであるGEでは、イメルト会長が「原発を事業的に正当化するのは非常に難しい」と語り、ドイツではシーメンスが原発から撤退を表明した。

 ホライズンが売りに出されたのは株主であるドイツ企業が、原発は採算に合わないと判断し、撤退を決めたからだ。日立の登場は、英国にとって渡りに舟。温暖化対策と電力不足を乗り越えるために英政府は、ホライズンの発電事業を継続することを買収の条件にした。

 日立は原子炉を売るつもりで買った会社で売電事業まで背負い込むことになる。

 1兆円で済むと思っていた事業費が3兆円に膨らみ、日立は原発がただならぬ状況に陥っていることを思い知った。「今や原子力事業は民間企業だけで継続できる事業ではない」。中西会長はことあるごとに強調する。

 遅まきながら日立は「採算に合わない」と日本や英国の政府に泣きついている。

社内からも強まる「ゲームチェンジ」の声

「採算に合わない高い電気」となった原発事業は血税の投入なしには動けない。一方、風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる電力は劇的に安くなった。

「ゲームチェンジ」は自然の流れだろう。

 事故が起きたら制御不能な原発による、採算の合わない電力ビジネスを海外でやる。英国プロジェクトは日立にとっても危険極まりない事業だ。中西会長はじめとする経営陣も、本音では「撤退したい」と思っているのではないか。

 推進の条件は二つ。採算が取れるような支援を日英政府から引き出せるか。もう一つは子会社のホライズンを決算の連結対象から外すことだ。事業が失敗した時、日立本体に損失が及ばないように日立の持ち株を50%未満まで下げるという。だがそのためには損を覚悟でホライズンの増資に応ずる投資家を探す必要がある。

 そんなことまでして日立は危ない橋を渡るのか。

 世界の重電メーカーが次々と撤退するには理由がある。製造業の技術革新は激しい。新時代のビジネスを育てることが経営の課題だ。従業員は「東芝の轍」を踏むことを心配している。日立は「東芝」になる前に引き返すことができるだろうか。

 賢明な経営者なら社内の「声なき声」に耳を傾ける時だ。】一部抜粋