【Wahoo!スポーツ】イベリアの侍、静かに牙を研ぐ | 欧州野球狂の詩

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日本生まれイギリス育ちの野球マニアが、第2の故郷ヨーロッパの野球や自分の好きな音楽などについて、ざっくばらんな口調で熱く語ります♪

【管理人注】

 この記事は、管理人自身の頭の中にあるものをそのまま文章にした、完全な創作です。急になんだか書きたくなったので、文章を書く練習も兼ねて、SLUGGERあたりで執筆している、スポーツライターになったつもりでやってみました。実在の人物や団体などとは、一切関係ありません。あらかじめご了承ください。以下のような設定や世界観を前提に、読んでいただければ幸いです。


・主人公は、ポルトガル代表の主力打者(27歳、右投左打、マドリード・スーパースターズに所属)

・舞台は2044年7月のスペインとポルトガル

・スペイン6、ポルトガル4の合計10球団からなる、「リーガ・プロフェシオナル・デ・ベイスボル・デル・イベリア」というリーグが存在している(オランダやスペイン、チェコなどの32チームが加盟するEUBLの、実質的な下部組織)


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 3年ぶりのリーグ制覇に向けてスタートした今季、その目標通りに順調に白星を重ねている、マドリード・スーパースターズ。144試合中86試合を消化した現在、2位のBCポルトに3ゲーム差をつけ、リーグの首位を快走している。その中心にいるのが、5ツールを兼ね備えた27歳のポルトガル人外野手だ。


 「今年はここまで、ずっと気持ちよくプレーできているよ」と、チームの三番を務めるリカルド・ロベルト・デ・ソーサは語る。「打撃でも守備でも走塁でも、驚くほど調子がいい。僕だけじゃなく、チーム全体として上昇気流に乗っている感じがあるね。今は暑い盛りだけど、投手陣にも夏バテしている面々は少ないし、離脱者が少ないのは大きな強みだろうと思う。このまま、秋口まで突っ走っていきたいね」


 リカルドの役回りは、去年の「一番・二塁」から「三番・中堅」へと、大きく様変わりした。彼自身が秘めるスピードとパンチ力を、さらに生かしたいという考えがあっての選択とはいえ、打順と守備位置の「同時コンバート」は、プレーする側にとっては大いにタフなことだったはずだ。しかし、リカルド自身は「センターは(古巣BCポルトの)ユース時代にもやっているし、それがチームのためなら」と、文句ひとつ言わずにその選択を受け入れた。そしてその選択はここまで、驚くほどに彼自身やチームに対して、大きな成功をもたらしている。


 現時点でのリカルドの成績は、86試合全てにフルイニング出場して、打率.327、16本塁打、57打点、27盗塁。打率自体は昨季の.346からは下がっているものの(それでも十分に高打率だが)、既に本塁打数は自己最多の13本を超え、打順変更が正解だったことを物語っている。母国ポルトガルのデータ会社は、彼の今季終了時点での成績を「打率.334、25本塁打、79打点、42盗塁」と予測した。5ツールを備えた三番打者としては、十分すぎるほどの数字で、彼のコンバートを決断した指揮官、ディエゴ・フエンテスにしてみれば、まさに万々歳だろう。


 そうした活躍ぶりを買って、既に「欧州トップリーグ」たるEUBLの多くのクラブが、リカルドに対して触手を伸ばしている。既に判明しているだけでも、イタリアのダネッシ・ネットゥーノ、チェコのテクニカ・ブルノ、イギリスのクロイドン・パイレーツとロンドン・メッツ、そしてつい2週間ほど前には、ライバル都市であるはずのバルセロナに本拠を置く、ベースボール・バルセロナまでもが、獲得を前提に本人と接触したと伝えられた。チームの財政状況から、今季限りでの移籍は確定事項とみられており、そのためスペインや母国ポルトガルのファンの間でも、リカルドの移籍先がどこになるのかが話題となっている。しかしリカルド自身は、現時点でその答えを口にする気はないようだ。


 「今の段階で、来年の自分の所属チームがどこになるかについて、語るつもりはない。なぜなら、現時点での僕はまだ、マドリード・スーパースターズの一員なんだからね。今はとにかく、チームのタイトル獲得に集中したいんだ。どんなアスリートにとっても、キャリアと移籍の問題は避けて通れないテーマだけど、僕がそれについて口にするのは、今シーズンが終わってからでも遅くはないはずだよ」


 リカルドの気質は、一般的に「陽気で楽天的、良くも悪くもファジー」とイメージされるラテン系プレーヤーのそれとは、大きく毛色が異なっている。いたって真面目で慎重な性格で、チームのためにハードワークを惜しまず、自分自身の不満をぺちゃくちゃと口にすることもまずしない。両親ともポルトガル(父はリスボン、母はアブランテス)出身で、純粋なポルトガルネイティブであるにもかかわらず、チームメイトから「まるでドイツ人みたいだ」と評される彼が生き残ってきたことは、溢れる才能を持ちながらも、メンタル面の欠陥から表舞台を降りていく、他の数多くのラテン系プレーヤーとは対照的だ。


 もっともリカルド自身も、時には大きな「爆弾」を投下することもある。3か月前には、自身も選出されているポルトガル代表の在り方について「移民の割合が高すぎる」と発言し、大いに物議をかもした。現在のポルトガル代表において、本国出身のネイティブプレーヤーは、3分の1にも満たない。ブラジルやカーボベルデといった、同じポルトガル語圏の旧植民地、隣国のスペイン、そしてキューバやパナマなどの中南米諸国からの帰化選手が、代表においても主力を務めているだけに、この一言はなおさら衝撃的なものとして伝わった。結果的に、協会から厳重注意処分を受けた彼自身は、この発言について次のように釈明している。


 「僕がああいう風に口にしたのは、自分と同じネイティブの若手選手が、ここ数年台頭していないことに対して、危機感を持っていたからさ。確かに、実力のある移民を受け入れれば、短期的には強くなるだろうけど、長期的な視点で見れば、選手の供給源を外に頼らざるを得ないことは、決していいことじゃないと思う。あくまで、ポルトガル代表のベースはポルトガルにあるべきだよ。もちろん、今一緒にプレーしている選手たちには他意はない。彼らは、人間的にも能力的にも素晴らしいチームメイトで、心からリスペクトしているよ。でも、彼らがある意味半自動的に、代表でのポジションを確約されている現状は問題だ。ネイティブと移民の選手同士での競争状態が生まれて、お互いに高め合うような環境がなければ、結果的にどちらのためにもならない」


 トップリーグ所属ではないとはいえ、今やイベリア半島を代表するプレーヤーとなったリカルド。スペインでもポルトガルでも、早くもその人気はトップレベルだ。そして彼の上昇志向は、クラブレベルにおいても代表レベルにおいても、非常に強いものとなっている。さらに上のステージを目指し続ける彼の眼は、一体今どこに向いているのだろうか。


 「さっきも言った通り、来年以降の所属クラブがどうなるかについては、まだ語る予定はない。ただ、例えどのクラブでプレーすることになっても、見る人を大いに沸かせられる、楽しませられるプレーヤーでありたいとは思っているよ。そのための努力は惜しまないつもりさ。そして、僕自身はポルトガル代表の一員であることを、本当に誇りに思っている。目標は、まずヨーロッパ選手権の本大会に出ることだ。そして、その先にあるWBCにも出場したい。ポルトガルは、まだどちらにも到達したことがないからね。できれば、この目標は自分が現役のうちに叶えたいと思っている。自分がチームを引っ張る立場であることは自覚しているし、そのためにベストを尽くすつもりだよ」


(本文ここまで)


 いかがでしたでしょうか。今回は、ポルトガルに焦点を当ててみました。現在でも、欧州4強に数えられる隣国スペインと比べると、ポルトガル野球は欧州レベルにおいても、まだ目立った存在とは言えません。しかし一方で、インターナショナルコーチングクリニックの開催に動くなど、徐々に強化に向けての動きが出てきていることも、また事実。いずれはリカルドのような、才能にあふれた選手が出てきてほしいですね。もっとも、記事の通りに移民に依存してる状態であっては困りますが(苦笑)。


 実はこの移民依存のテーマは、同様にネイティブの割合が非常に少ない、イギリス代表に対して掲げたものでもあります。近々、イギリス野球の将来がどうなるのかというテーマで、分析記事を書こうかと思っているので、その時にまた、この問題には触れる予定です。ご期待ください。