(20) 渡辺五郎を知っているのは涼子だけではなく、弘美も知っていた。隣のクラスの彼はやはり人気があった。
運動場で主将として野球をやっていたのも知っている。渡辺くんは意識してないが廊下ですれ違うだけとドキドキしたものだ。
試合の時はクラスで応援に行ったこともあって、あの時の気持ちは恋心だったのだろうか。
その渡辺くんが冬子の旦那なら、どんな気持ちで会ったらいいのか迷う。この歳になれば普通なら喜びを言葉に変えて「キャー会えて嬉しい」
きっと歓喜するに違いない。"五郎"と言う名の響きは、高校時代に戻ってしまうほどのインパクトがあるのだ。
あの時の渡辺くんならワクワク・ドキドキするけど、冬子の旦那だったらショックは隠せないし、普通のおばさんのように我慢するしかない。当時、丸坊主だった渡辺くんは格好良かったのだ。
弘美が「ねぇ、一組の渡辺くんだったらどうする、ちょっとドキドキしない?」
「そうね、野球部でいたよね」
涼子は冷静なフリをした。
すると「らっしゃい!」と店員の掛け声と共に背の高い男性が入店。もしかして渡辺くん?と思ったが、冬子が居ないので確認が出来ない。LINEを見ると「旦那が行くのでよろしく」
「え?」
見落としていたLINEには「息子が熱を出して行けなくなったけど、旦那は行くのでよろしく」
それに気が付いた時は、もう目の前に「失礼ですが、鈴木さんと滝口さんじゃないですか?渡辺です」
「え、やっぱり渡辺くんなの?」
「はい、うちのがお世話になってます」彼は当たり前だけど髪を伸ばし、かっこいい大人に変身していた。
「二組だったでしょクラスは違っても良く知ってますよ。いつも冬子と一緒でしたよね。ガッチリしている体格で座らずにいる。
「お酒は飲むんですか?」
「ほぼ毎日飲みますよ。不器用だから酒以外は楽しみがないんですよ」
男のよく使うセリフだ。
「冬子とは何処で知り合ったんですか?」
「妻とは小中高と同じで幼なじみなんですよ。それで親しくなって・・」
実家も近いらしく「そうなんだ」
その流れの中でお酒が運ばれてくると、弘美が席を移動、彼も座り始めた。
「あのぉ〜冬子には内緒ですけど、最初は付きまとわれているようで嫌だなと思ってたんですけどね」自分の緊張を解くように笑わせる。
言わなくてもいいことを言うので、それが良かったのか25年前に戻った気がした。
そうか!好きだったのは冬子なのか? つづく


