69 クルクルと揺れて回転 | 身近な大人たちの疑惑

 良美は、上田の別荘に来ていた「ねー、折り鶴は?」

 

ボウリングのトロフィーのカップの中に入れたと気が付き 「ここだよ」と指差した。

 

 「なんでここに、入れたの?」

 

「鶴が飛んだのかな?」と誤魔化す。


その折り鶴たちを眺めてみると、良美と母親の良子、そして絵描きの圭子・・さらには元妻が石川に折ったと思われる鶴が・・上田自身の折った鶴と一緒に複雑に重なりあっていた。



他人は紙で折った鶴としか思えないのに、カップの中は色んなに人生が混じり合ってみえる。


 

昔、山岸夫婦と石川夫婦との旅行では、夜中に旅館を抜け出して、駅前の居酒屋で朝まで飲んでいたというのを、石川課長の奥さんから聞いていた。きっと 課長らは、久美と朝まで一緒に居たのだろう。

 

折り鶴は保養地近くのリゾートマンションの案内広告で折られているが、同期の山岸も同じ広告の折り鶴を持っていると思われた。

 

折り鶴に久美を宿らせるように、息を吹き込んで完成させた?その折り鶴は、上田にも家庭があった時、妻が居て娘が居た時代に、毎日のように見ていたのだ。


あれは、石川と山岸が折った鶴だったのか。



 ・・

 良美が嘆く「せっかく折ったのに、見えるとこに飾ってよ」と聞こえて現実に戻される。


ご機嫌を取るために、良美の鶴を取り上げて糸を通して吊るして飾るが、クルクルと回転、そのうちに逆さまに。

 

 「この折り鶴、私の今の心境ね」と笑う余裕があった。


慣れたのだろうか、絵に関心もあり「奥さんが描いたんでしょ。絵の中に香川久美さんのKKとサインがあるから知ってたよ」

 

「え?、そういうことか!」 その時、病院で知り合った小泉圭子も「KK」であった。

 

「あ、そうだったかな?」

 

「上手だね。素敵な奥さんだった?」

 

 油絵から久美の話が出るとは思わなかったが、小泉の存在が知れると面倒くさいので「もう離婚してるから忘れたよ」と興味なさそうに応えた。

 

「私は、経験不足で羨ましい、こんなに素敵な絵も描けて」 そんな言葉が戻ってきた。