第53期王位戦7番勝負/第1局・一日目「意地と戦略と。封じ手は羽生王位」
羽生善治王位に
藤井猛九段が挑戦する第53期王位戦7番勝負が
本日より、長野県は松本市「ホテルおもて」にて開幕。。
振り駒の結果、先手は羽生王位。
初手から▲7六歩~△3四歩~▲2六歩~と進行し。。
4手目△4二飛。
上図での持ち駒
▲羽生王位: なし
△藤井九段: なし
2年ぶり のタイトル戦開幕を
後手でむかえた藤井九段は上図4手目に飛車を振り
代名詞でもある「四間飛車」に構えました。
8手目△8八角成。
上図での持ち駒
▲羽生王位: なし
△藤井九段: 角
藤井九段の「四間飛車」を確認してから
羽生王位は5手目▲4八銀とし、居飛車を明示。
後手に続いて(6手目△6二玉)
先手も居玉を避け、寄せに行こうとした(7手目▲6八玉)
その瞬間、藤井九段は角交換を敢行。。
次に先手は▲8八同銀と応じるしか無い訳ですが
銀が上がると同時に角も手に入る、とも言えます。
逆に後手は自ら一手かけて角の交換をしたことになり
文字通り「一手損する角換わり」。。
ただでさえ後攻めの後手番で
さらに一手を損するこの定跡は、手損を気にするプロの世界では
否定的な見方をする棋士も多く存在します。
にもかかわらず
このタイミングで「角の交換」を成立させる理由は。。
9手目▲8八銀。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
先手にこの「壁銀」と言われる「悪形」を強いるため。
そうすることによって
例えば後手は△7二玉~△8二玉~△7二銀~の3手で
玉を「美濃囲い」におさめることが出来ますが
玉がおさまるべき8八の地点に銀が居座る先手は
スムーズに玉を囲うことが出来ません。
つまり
先手が後手以上に固く玉を囲おうとすると
必ず後手以上の手数がかかってしまうことになります。
「角を交換した瞬間は手損でも
しばらくすれば元を取ることができる」というのが後手の主張。
もともと振り飛車に構えた場合
ずっと持っていると標的になりやすい角は早めに捌いた方が
気楽でもあり、藤井九段がこの「角交換四間飛車」を好んで使う
大きな理由の一つとも言われています。
15手目▲5八金右。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
10手目から
△7二玉~▲7八玉~△2二銀~▲7七銀~△3三銀と
この戦型を指される方にとっては「見慣れた風景」
これしかないという確立された定跡手順での進行となりました。
そしてむかえた羽生王位の上図15手目は
自陣中央を厚くする▲5八金右。。
ここで藤井九段は手を止め、40分の長考に耽ります。
16手目△2四歩。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
そして指された一手は△2四歩。
定跡手順から一転、いきなり新しい展開となりました。。
ただ、藤井九段が意図して局面を引っ張ったというより
羽生王位がそうさせたという印象。
なぜなら
この戦型では
先手は飛車先の歩を突きこし(▲2五歩)
後手は2筋へと飛車を振り直す(△2二飛)のが一つのパターン
なのですが、羽生王位は2筋の突きこしを保留したまま。
私もこの戦型が好きでよく指しますが
△2二飛から△2四歩~▲同歩~△同銀~からの
飛車先棒銀カウンターが決まった時の気持ちのよさと言ったら
そりゃあもう。。
しかし、本局では羽生王位が飛車先を決めてこないので
藤井九段から2筋の歩を突き、自ら動く構えを示しました。
ちなみにこの局面の前例は
昨年の4月に行われた女流名人位戦B級リーグ戦
「▲野田澤彩乃女流1級-△室田伊緒女流初段」の1局のみ
とのこと。
偶然の一致か、まさかのインスパイアか。。
前例局があまりにも意外かつインパクトがありすぎて
何だか局面が可愛らしく感じられます。。
もちろん実際には
すでに水面化で細かい駆け引きの始まっている難しい局面で
羽生王位が長考に入り、そのままお昼休憩となりました。
【 お昼のメニュー 】
羽生王位: 親子丼、焼き茄子、味噌汁、漬物、フルーツ
藤井九段: ざるそば、焼き茄子、漬物、フルーツ
17手目▲4六歩。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
午後開始の一手は
早くも前例を離れる羽生王位の17手目▲4六歩でした。
「飛車を振りなおさず、4筋から攻めて来い」
羽生王位のそんな挑発がみてとれる
だからこそ慎重な決断を要する難しい一手。。。
18手目△2二飛。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
しかし、この戦型のエキスパート・藤井九段は
迷うことなく飛車を2筋へと振り、己の切り開いた道を行く
覚悟を示しました。
23手目▲1六歩。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
羽生王位は
右の銀を早々と繰り出し臨戦態勢を着々と築きます。
藤井九段は
その間に玉を「美濃囲い」におさめ安定を計りました。
次に羽生王位は端歩を突き
美濃囲いには欠かせない「端歩」を突くことを強要。
後手の指し手を指示し
「主導権を握っているのは俺だ」と言わんばかりの
羽生王位の挑発に対し、藤井九段は。。
24手目△5二金。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
「端を押さえに来いよ」と逆に先手を挑発。
端歩を受けずに、中央の安定を優先させました。
しかし、端歩の突いていない「美濃囲い」は
手がつくとあっという間に逃げ場なしとなりがちですが。。
リスクを承知で強気に出た藤井九段
何か秘策が用意されているのでしょうか。。。
26手目△4五歩。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
「では、お言葉に甘えまして」
と、すぐに▲9五歩とはしないのがプロの将棋であり呼吸。
剣先が鼻先をかすめるギリギリのタイミングを読みあいます。
羽生王位は先に7筋の歩を突き越し。
すると藤井九段は3筋の位を確保。
△3四銀からの飛車先カウンターの骨格がみえてきた
効果的な一着。。。
と思われましたが
28手目△4二銀。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
羽生王位の27手目▲8八玉をみて
藤井九段は好所に居たはずの左の銀をなな何と
前進させるのではなく、自陣にジッと引いてみせました。。
これはすごい発想。。。
どういうことなのでしょうか。。。
30手目△5四歩。
上図での持ち駒
▲羽生王位: 角
△藤井九段: 角
藤井九段の銀引きをみて
羽生王位はすかさず7筋の歩を突きあわせ仕掛けを開始。
藤井九段は玉のコビンを開くの避け同歩とは応じず
王手・飛車取り(▲5五角)を防ぐ△5四歩と対応。
上図の局面までで、終了時刻となり
羽生王位が次の31手目を封じて一日目は幕を閉じました。
終了局面での棋譜中継コメント欄によると
藤井九段が△7四歩を呼び込んだ、つまりは予定通りだったと
いうのがプロ棋士の見解となっていますが、相手が羽生王位なだけに
お互いにハイレベルな返し技の応酬となりそう。。
わずか30手の進行とはいえ
一日目から実に面白い、駆け引きと意地が見え隠れした開幕戦
明日の決着となる二日目が楽しみです。