1つ足りない賽は投げられた。

賽は投げられた。

ほんとうに賽は投げられた。

遠い未来だと思っていた、望月さあやのデビューである。

それはつまり、僕自身の10年近くぶりの引越しが終わったということを意味する。

 

実際、引越しは終わった。デビュー戦の前日である。

New home,New idol,New identity.

なんというか、一種の生まれ変わりみたいな気分がしていた。僕の人生にとって大きな転換点だろうとは思っていた。

 

 

 

 

Spotify O-nest。

個人的にはサンミニラストライブの舞台である。

だからどうということもない。

 

それよりなにより、待ち望んだ望月さあやの再デビューの舞台である。

なんだかんだ、嬉しい。

自分の好みでないアイドルであっても、嬉しい。

自分の元の趣味というか、いわゆるアイドルらしいアイドルを、ヲタク生活の最後(最後だぞ)に推す、それがなんだか何とも言えない気持ちになる。というのは前にも書いたとおりである。

 

結構、嬉しかった。

オレンジの光る棒を振るのだな、オレンジの何かを身に着けるのだろうか、何か色を選べるときはオレンジを優先的に選んでいくようになっていくのだろうか、それはもっちゃんがオレンジということが発表される前から思っていたことだ。彼女の色に支配されるのだろうか、と。

そのような生活を迎えられることが、結構、嬉しかったのだが、そう、嬉しかっただけに、浮ついていた。

 

早めに現地入りした。1缶、ビールをあおった。

アイドルに不慣れな運営による不慣れな前物販があり、不慣れそうながらも目的の品はさして苦労もなく仕入れられた。

最初からアクリルキーホルダーを売り出す、やる気のみなぎりようである。

 

多少押したが、無事に開場と相成った。

どうやって入るのか、この番号は何なのか、どうやって席は決まるのか、それらをすべてその仕組みを大してわかっていなさそうな、アイドル若葉マークの高須賀氏に質問して、必死の懸命の回答をそれに向けてしていた高須賀氏、その一群は無事に入って無事にライブを見たのだろうか。

ライブが行われて、MCがあって、元ベビレの高見氏が仕切って、ずいぶん大人になったものだ(そりゃあ大人だろう)と感心して、そしてライブがまた行われて、終わった。

特典会はまた不慣れな運営による混乱のもとに執り行われ、しかし無事に終わった気もする。無事?

そんな具合で、狂騒的な一日は終わっていった。

 

その後に僕はもちづきの前世のをたくと、僕の前前前世(数えてみればこうなる)のをたくと浴びるように酒を呑み、したたかに酔っぱらいながら帰宅し、メンバーの一人・みねちゃんの配信を布団にもぐって聞いているうちに寝てしまった。

その日もその後も含め、感想をネットの海に放つことも、メンバーへの各種SNSでの返信で知らせることもしていなかった。

その日に関してはまあ酔っぱらっていたというのが一番だが、その後も含めるとわけが違う。

 

言うことがないわけでもないが、言うことが溢れすぎて何も言えない、というのではない。

なんというか、実にぼんやりとしていた。

オレンジ色の光る棒も振ったし、もっちゃんに対して懸命に伸ばすシーンもあった。しかし彼女のソロ歌唱シーンにすべて敏感に反応して光る棒を振れたのかと言えば、そういうわけでもない。

振れなかったシーンはダンスに歌唱に見とれていたのか、そういうことでもない。

ただ、なんとなくふわふわしていたのだ。

 

最前列、真ん中、前からの付き合いである知り合いが譲ってくれて(向こうも譲るしかなかったであろう、申し訳ないとともに、大感謝である)そんな格好の位置に居ながら、しかしただふわふわしていた。

最前ど真ん中などという位置に滅多にいることがない、それも一因ではあるかもしれない。しかしそういうことではない。

自身が惚れこんだ女の子がまたアイドルとして帰ってくる、本当に自分の前で歌って踊る、それを目の当たりにしている、それを見て、ぼうっとしていた。

もっちゃんを見ながら、ほかの子を見ながら、パフォーマンスを分析しながら、どこかでぼうっとしていた。

なんだか雲をつかむような気がしていた。そうしているうちに、その祝福されるべきステージが終わっていた。そして望月さあやがアイドルだった。

 

特典会は実に望月さあやだった。…そうだったのだと思う。渋いレギュレーションと、すっかり佐藤はんな…佐藤めりのゆっくりなテンポに慣れ切った僕には、もっちゃんの呼吸はハイテンポすぎたし、多少戸惑ってもいたし、いや、なすがままでそれでいいやと思っていた、その様子はどうやら彼女にも伝わっていたらしい、確か彼女の配信で聞いた気がする。

もう少しいろんな話を聞くべきだったのだろうが、ただ丸腰で彼女の前に立ち、こちらから問い詰めることもなくただ立っていた。それでも十分幸せだった。

この幸せが当分の間は続くのだ、歌って踊ったもっちゃんと話せる季節がしばらくは続くのだ、そんな彼女に持てる力を尽くして対峙する季節、全力で僕の思うをたくをできる季節がしばらくは続くのだ、それが幸せだった。

質問らしい質問を何も拵えず、ただ彼女の前で呆然としていたのはもはや衰えかもしれない。それでも別によかった。

そんな体たらくだから、特段の感想も書かなかったわけだ。

 

メンバーのファーストインプレッションを記しておく。

それぞれ、その呆然としていた特典会で一度話をしただけだから、この印象からおおいに変わっていくこれからの行程だろう。

まあ、一度話しただけで印象を書くのもなかなか難しい気もしているが。

 

 

・榎本雅

アイドルでは赤かピンクがエースの色だと思っているが、この人はエース枠というよりは飛び道具、なのか、でも与えられし最初の曲「Re:Start」では堂々のセンター。

元名古屋のメイド。アイドルは初体験。

四六時中コスプレで自撮りをし、四六時中その画像や動画をあげる。四六時中胸を強調している。へむへむ、きのみあって何?

そして完全なる天然。ずっとはにかんだような笑顔を浮かべている。

 

1回特典会で話した限りでは、割合普通の人だという印象だったが、単に固くなっていただけかもしれない。もっともメイドならば白兵戦は得意だろう。まあ苦手なメイドもいるかもしれないし、知らんが。

ファンのベース層が名古屋であり、なおかつ元々アイドルではなかった、というところからすれば、序盤は集客には苦戦するかもしれないが、気長に折れずにやっていってほしい。給料体系が特典会の結果が反映される歩合制であるならそちらも苦労するだろうが、水に慣れてくればそのうち客も増えるだろう。

 

今のところはグループ一番のぶっ飛んだ個性。どうアイドルにフィットしてくるか楽しみである。

そして、どういう人なのか正直一番見えていないので、それがわかっていくことも楽しみである。

 

・冬野れい

シンプルに美人。誰もが紫を献上したくなる妖艶さ、高貴さ。

元アイドルだという。そんなに前世ではうまくいかなかったという。

往々にして美人はアイドルとしては苦労するものだけれど、れいちゃんは適度に年齢相応の可愛さを備えた美人だと思うので、どうか頑張ってほしい、というかほっといても人気が出るのではないかと勝手に思っている。

 

1回特典会で話した限りでは(全員1度ずつは行った)、まあなんだか圧が強かった。無邪気な圧だった。年相応の無邪気さだった。

本来、そのように年相応に可愛い人なのだろう。最年少らしく気を張らずにお姉さま方に甘えながらやっていけばいいのだと思う。

もうアイドルの文法は身に着けている人だと思うので、即戦力として思う道を思うようにバリバリ進んでいってほしい。

 

・峰島紬

最年長。頼れる最年長ではあるけれど、マザーシップというには脆いというか。

悩みも思うことも多き最年長。年中配信で凹んだ姿も何もかも見せて、まあそういうのに絡むのは僕は好きなのだけれど。そういう人と小難しいことを延々あーだこーだと語っているのは嫌いじゃない。

それでも前世でもしっかりアイドルをやれてきた人なのだから、奥底では何か強いものがあるというか、潰れきるまではいかない人なのだろうと思う。

 

峯岸みなみに似てるなあと思ったりする。かわいいガチャピン。

メンタルの健康には気を付けて、最年長らしくいざという時に最後まで立っているような、頼れる人として、赤ん坊リーダーの良き補佐役としてそこに居続けてほしい。

 

・高須賀友香

華麗なる経歴と圧倒的なSNSのフォロワー数を引っ提げて、地下アイドル界に舞い降りたルーキー。

というか、この経歴でよく新規事務所の新規地下アイドルを選んだよなあ、どうして選んだんだ、そう思う。この人を地下のステージで見られることはまた僥倖なのかもしれない。

 

気が強くなくちゃ、しっかりしていなくちゃ、そんなところで食ってはいけない。アッパークラスで経験してきた片鱗を随所に感じるような。1度話した限りでは、なんとも話しやすい人というか、しっかりした人だなあという印象。

歌とダンスは当然ド素人だったようだけれど、もう最初のPVに比べれば不安げな表情もなくなって、すっかりしっかり1人のアイドルとしてステージに立てているようで、ルーキーの成長具合というのは手に取るようによくわかって楽しいものだな、などと思ったり。

 

こちらもまたファン層が地下アイドルのをたくではないだろうから、当初自分が思うよりは毎回のライブで客は来ないのかもしれないけれど、そうなったとしても腐らず頑張ってほしい。

 

・望月さあや

この人のことはもうすっかり信用しきってしまっているし、安心しきってしまっている。

心配も何もなかったのだが、例えば重心を低く落とすような振付の際の、その重心の低さ、落とし具合を見て、ああ、これが望月さあやの作法だ、望月さあやの踊りだ、と安心していたような。

前世だってそうだったが、このグループではより一層、もっちゃんのパフォーマンスには生真面目な字で望月さあやと名前が書いてある。

パフォーマンスに拘ることは売れることと直結するわけでもないが、それでもこの人は絶対に拘りぬいてくれる、そういう信頼がある。

 

リーダー、らしい。

確かにMCでは最後にしっかりまとめていた。それだけの経験は確かに積んでいるし、この日以外にもこの子は大人だなあと思う機会は数多くある(そしてその大人な望月さあやにお世話になってしまっている僕がいる)のだが、それにしても目の当たりにすると感慨深い次第。

 

特典会ではただ無邪気にはしゃいでいて。そういえばこれが望月さあやだったなあ、と反芻していた。

そして前述通り、そのハイテンションに対し遅れてしまっていた。まあ呼吸はそうかからず合ってくるだろう。

とにもかくにも、日常の中にこの人がいる生活が帰ってきたのだ。それだけでこの日はよかった。

衣装がしっかりした生地で本当に良かった。心なしか、前世よりさらにアイドルにシフトした気がする。

今度こそ、思う存分アイドルが出来ればいいし、納得できるまで努力が出来ればいいね。

 

 

このように、各メンバーに対してもぼんやりとした印象しかない。

とにもかくにも、ただうすぼんやりと、望月さあやがアイドルとして帰ってきたことが嬉しかったのだ。

ここまで書いてきたが、この一行だけですべては終わったのかもしれない。帰ってきたことが嬉しかった、ただ漠然とそう思っていた、それだけだと。

これから陽の当たる道が始まるのだ。いや、太陽が僕等の行く先を照らしていくのだ。