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クラウド時代と<クール革命> (角川oneテーマ21)/角川 歴彦

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ぼくの評価





(出版業界の重鎮にして現役経営者本人が語る出版とメディアの未来)
本書を読んでまず驚いたことは、
角川氏がiPadやキンドルを否定するどころか肯定していて、Webにも積極的な考えを持っていることです。
ぼくがこの本を手にとった理由は、iPadやキンドルなどの登場で出版社の経営者はなにを考えているのだろう、とふと疑問に思ったことからです。
まず触れられているのは、iPadやキンドルのような革新的デバイスがなぜ日本から生まれないのかということ。
その理由の一つに角川氏は「グローバリゼーション嫌いでイノベーション下手」な日本人の心理を挙げています。
iPhoneも発売当初はタッチ操作主体のスマートフォンに懐疑的な意見も多くありました。
しかし操作性の高さや当時の予想をはるかに超えるアプリケーションの充実などから圧倒的なシェアと注目を集めています。
それこそがまさにイノベーションの真髄であり、時代を引っ張っていく力だということです。
日本にはソニー、パナソニック、シャープ、日立など世界でも高い技術力を誇る企業がたくさんあります。
そこから世界を席巻するような革新的デバイスが生まれないことや技術がガラパゴス化していると言われる理由の行き着く先はグローバリゼーションへの理解と野心が足りないからではないのか?と、警鐘を鳴らしているのです。
ちなみに角川氏は技術のガラパゴス化には懐疑的ですが、日本独自のカルチャーはむしろ伸ばしていくべきだと語っています。
さらにそこからグーグル、アップル、アマゾンなどの戦略に触れていくわけですが、
その次のクラウドの章には目をひく箇所があります。
ITの登場でコンテンツはどんどんデジタルコンテンツへと形を変えているわけですが、
クラウドの登場によってデジタルコンテンツがバンドリングされていくというのです。
さらに端末もパソコンだけでなく多様化し、移り変わっていくといいます。
クラウド×端末を考えた場合、ここ最近ではおそらくiPadがいい例でしょう。
お気づきの方は多いと思いますが、iPadは高性能なチップや部品を使っている割に一部物足りなさを感じる部分があります。
HDの容量です。
なぜあれだけパソコンにも引けを取らないスペックなのに最高でも64GBのタイプしかないのか。
これは近い将来訪れるクラウドの時代を見越して、HDの容量を抑え、CPUやグラフィックなどの操作性能に注力することで、できる限りの低価格とデザイン性や薄さを実現し、普及を優先するという戦略が見え隠れしているようにも感じます。
元々アップルはディテールと性能重視の商品開発をしてきましたから、iPadは自然な流れで生まれた製品だといえると思います。
このような仕様にすることで我々コンシューマーが個人で抱えるデジタルコンテンツは否応なく迎えるクラウド時代によってHDから仮想化された空間へと自然と移行し、容量を気にすることなく、安全に管理・閲覧することができるようになります。
現在はパソコン、ケータイ、スマートフォン、iPadを代表するタブレット端末などデバイスの多様化が急速に進んでいます。
デジタルコンテンツがクラウドから利用されることで、これからはより端末を選ばずともシームレスに利用・閲覧できる環境がより重要性を増してくると思います。
App Store、Android Marketのようなオープンで誰でも参入できるマーケットが成長し続けることは必至で、コンテンツの幅も映画、TV番組など、これまでになかったコンテンツも次々と統合されバンドリングされていくかもしれません。
もちろんここに挙げたすべてが統合され利用されるようになるかはまだわかりませんが、デジタルコンテンツとして利用価値のある場合はその需要がある限り、法制度や著作権などの問題もあるかとは思いますが、移行していく可能性は十分にあると思います。
最後に角川氏は著書「ブラックスワン」からとってブラックスワン現象を紹介しています。
グーグルのような急速に成長する企業の登場や、ハリー・ポッターのような強力なコンテンツなどです。
これらにどういった共通点があるかというと簡単には説明のつかない常識を超えた現象のことです。
最近ではニューヨークマーケットで原因不明の株価乱高下もありました。
これからの世界は突発的に急成長もしくは急降下する乱高下の時代を迎えており、その振れ幅は年々スピードや周期が早まっているようにも感じます。
それは株価や景気なのか、企業業績なのか、それとも世界を揺るがすイノベーションなのか。
もしくはグーグルやアップルのような企業が世界を掌握し、勝者総取りしてそのほかの企業を急速に駆逐していくのか。
日本も急成長するアジアの一員として、GDP世界2位の経済大国のプライドとして、世界のマーケットで模索し成長できる企業の環境づくりやグローバリゼーションと正面から向き合う企業の意識が待ったなしに求められていることを実感します。
