三人兄弟の医者と北守将軍(韻文形) 宮沢賢治 | ScrapBook

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宮沢賢治全集〈6〉 (ちくま文庫)/宮沢 賢治

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ある日の、昼頃のことだった。グレッシャムの町の北の方からたくさんのチャルメラの音が聞こえてくる。豆太鼓の音もする。北守将軍プランペラポランが三十年ぶりに凱旋してきたのであった。

愛馬はすでに三十五歳となり、将軍も七十歳をむかえていた。百万人いた軍隊は一万人だけ減ってしまって九十九万人が無事帰国した。

将軍を迎える、王の使いである大臣がやってくる。馬から下りようとする将軍の服と鞍はすっかり結合してしまい、将軍は馬から下りることができない。王の使いの大臣はだんだん近づいてくる。将軍は手足をばたばたするが、やっぱり馬から下りられない。王の使いがやってくるのに、馬から下りないとは何事かと訝った大臣は、将軍に謀反ありと考え、くるりと向きを変えて王宮に引き返す。

将軍は全軍に命じる。将軍プランペラポランはこれから医者に行ってくるのだと。ホトランカン人間病院では頭を清洗してもらい、次にサラバアユウ馬病院では鞍と服をはずしてもらい、しまいにペンクラアネイ植物病院では顔一面に生えた「さるをがせ」をとってもらった。

すっかり支度の調った将軍は、全軍に号令する。「前へ進め」。


宮沢賢治の作品は、シリアスなものばかりではない。この作品は、ナンセンスユーモアがぎっしりとつまった作品である。渡部芳紀は本作を「奇想天外なイメージを繰り広げることにより、読む楽しさを知ってもらいたかったのである」、「賢治を読む際には、特に作品の意味や主張、象徴性などが問題にされがちだが、賢治作品の多くが、ただ読む楽しさを目指しているといっていいのである」と指摘しており、まったくもって正しい意見である。

とりあえずあらすじを書いたが、これは物語ではない。読んで楽しむ作品である。
軍隊が鳴らす豆太鼓とチャルメラの音、
「タンパララタ、タンパララタ、ペタンペタン、ペタン」
「ピーピーピピーピ、ピーピーピ」
不思議な人名、
北守将軍プランペラポラン、ホトランカン先生、サラバアユウ先生、ペンクラアネイ先生。意味さえ分からない。

現存する草稿は、「四百字詰原稿用紙三十九枚(途中三箇所欠落あり、現存第一葉の前にももと題と導入部を含む一、二枚あったかもしれない)、ブルーブラックインクで清書ののち、1 同じインク、2 細いペンと濃いインクで手入れがされている」。2以降にも3~6手入れの原稿が残っているが、これは後に散文形として創作される「北守将軍と三人の兄弟」へ改作のためであった。本作には本来タイトルがなく、異稿である本作の先駆的作品にある「三人兄弟の医者と北守将軍」の題を転用している。草稿が創作されてから、散文形である「北守将軍と三人の兄弟」が「児童文学」に発表されるまで十年の月日を要している。