ビッグ・サーの南軍将軍 | ScrapBook

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読んだ本についての感想文と日々の雑感、時々音楽のお話を

ビッグ・サーの南軍将軍

¥780
株式会社 ビーケーワン

ブローティガンの名を知ったのは昨年の8月だった。ちょうど新潮文庫から彼の代表作である「アメリカの鱒釣り」が発売された時と重なる。僕はこの詩人、作家の名を全く知らなかった。

1935年、ワシントン州タコマに生まれ。
1956年、はサンフランシスコに移る。
1967年、代表作「アメリカの鱒釣り」を発表。世界的に200万部のベストセラーとなる。
1984年、ピストル自殺。

本作は「アメリカの鱒釣り」とほぼ同じころに執筆された作品。舞台は60年代のアメリカ。読みながら、ふともうひとつの「風の歌を聴け」を読んでいる感じを受けた。「ビッグ・サーの南軍将軍」ことリー・メロンとジェシーの関係は、どこか鼠と僕を彷彿させる。

しかし、ここに描かれた「アメリカ」は自由の国、アメリカンドリームとはほど遠い姿で描かれている。食べるものにもことかく二人の廃屋のような山小屋での生活、アルコールとシケモクを求めてふらつき、頭のおかしくなったビジネスマン、不思議なコールガール、マリワナ。南北戦争に登場する英雄伝説はすでに消え失せてしまっている。リー・メロンがパシフィック瓦斯電力会社の敷設したガス管からガスを拝借したことは騎兵隊の攻撃で、服にぶらさがったワニは勲章と見なされる。

マリワナで引き起こされた幻想がいくつもの結末を生み出す。第一の結末、第二の結末……。「さて、まだまだちがう結末がある。第六の、第五十三の、第一三一の、第九四三五の結末、どんどんとスピードを増して、さらにさらに増え続ける結末、ついに毎秒一八六、〇〇〇種の結末がうまれるときがくるまで、ひたすらスピードを増しながら。

60年代、アメリカがむかえた「崩壊」をするどく描いた作品ではなかろうか。