ゴッホの手紙 小林秀雄全作品20 | ScrapBook

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小林秀雄全作品 20

¥1,600
株式会社 ビーケーワン

テオより母親宛の手紙の一節──「この悲しみをどう書いたらいいかわかりません。何処に慰めを見つけたらいいかわかりません。この悲しみは続くでしょう、私の生きている限りきっと忘れる事が出来ますまい。唯一つ言える事は、彼は彼が望んでいた休息を、今は得たという事です。」

何度も読み返したい本の一冊が、この小林秀雄の書いた「ゴッホの手紙」だ。

彼はゴッホの膨大な書簡を読み、彼の作品を画集で眺めながら、簡単な年譜を元にこの著作を書き上げたのだろうと思う。シンプルな作品だ。

著者は自らの作品に自らを投影するものだとはよく言われるところである。ゴッホは、いつも生き迷い、答えを見つける事も出来ず、他者とはうまくやっていくこともできず、経済的には落後者として生き、生前ほとんど誰からも認められなかった。この世界にたった一人自分の心を開く事の出来た弟に送った膨大な量の書簡の中に、小林秀雄はこの画家の「告白」を読んだ。
「だからこれは告白文学の傑作なのだ」

誰からも認められない苦しみやいらだち、創作上の苦悩、絶えず襲ってくる金銭上の悩み。生活費をはじめとするすべての金銭を弟からの仕送りに頼らざる得ない肩身の狭さ。孤独の淵に自らを沈めながら。創造とは孤独の中でしか為しえない行為であるのなら、彼はそう運命づけられていた。

テオはビンセントにとって他者ではなかっただろう。ビンセントは自らに語った。自分の意識が構成する世界は、日々新たにされ留まり続ける事象などなにもない。自らを含めた人間の感情も刻々と移り変わるだけだ。移り変わる事象はキャンバスに描き、めくりめく自らの感情や思索を文字に書き留めた。一切の余分なものをすべて剥ぎ取られた芸術家の姿に心を動かされた小林秀雄の軌跡が、この作品である。
「書けない感動などというものは、皆嘘である。」