読書録:YA本3冊②「漫画 君たちはどう生きるか」吉野源三郎/原作・羽賀翔一/漫画 | 隠居ジイサンのへろへろ日誌

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九州北部の街で、愛するカミさんとふたり、ひっそりと暮らしているジイさんの記録

図書館にヤングアダルト(YA)向け図書のコーナーがあります。ヤングアダルトというのは、おおむね中学生~高校生の年代を指します。これから社会という大海原に向けて出港していく青少年向けの本がずらりと並んでいます。分かりやすく書かれた哲学書や歴史書、科学、詩歌、小説、古典文学・・・さらに、職業紹介などの実用書も含め、理系・文系を取り揃え、広範囲にわたっての基礎知識が学べるコーナーです。

海原を航海し終わり、もうすぐ向こう岸に到着しそうなわたしのような爺さんが読んでもためになります。

ヤングアダルト(YA)向け図書3冊を借りてきました。

・「正しい目玉焼きの作り方」森下えみこ/イラスト   毎田祥子/監修

 

 

・「漫画 君たちはどう生きるか」吉野源三郎/原作 羽賀翔一/漫画

・「歴史とは靴である」磯田道史

 

・15歳向け(主人公が15歳)

「漫画 君たちはどう生きるか」吉野源三郎/原作・羽賀翔一/漫画

主役は、父親を亡くした中学2年生・15歳のコペル君。裕福な家庭で育ち、学業優秀で運動もそこそこできる悩める中学生。学校や地域の暮らしの中で直面するさまざまな問題を通して、立派な大人になるにはどうすればいいかを考えていく物語です。

コペル君の母の弟で、倒産した出版社の元編集者のフリーター叔父さんがナビゲーダー役として登場し、交換日誌のようなノートでコペル君の悩みにアドバイスをしていきます。「コペル」というあだ名も、あることがきっかけで叔父さんがつけたもの。地動説のコペルニクスから。
 

1937(昭和12)年に児童文学として出版されたものを漫画化したもので、新聞の広告欄によく載っていましたね。ベストセラーになり、宮崎駿監督によりアニメ化されました(未見)。

昭和の年表を見たら、小説として最初に出版された年の4年前(昭和8年)に、日本が国際連盟を脱退、出版前年の昭和11年には、陸軍将校によるクーデター未遂事件(2.26事件)が起こり、本が出版された昭和12年には、盧溝橋事件(日中戦争)が勃発しています。太平洋戦争に突入していくキナ臭い時代を背景に書かれた物語ということを念頭に読まないと、「きれいごとばかり書いてる」と上滑りの解釈をするかもしれません。

コペル君の亡き父親から、臨終の際、「息子を立派な大人にしてほしい」と依頼された叔父さんが、同級生のイジメ事件に遭遇して悩み苦しむコペル君に、ものの見方や社会の仕組みを説き、ほんものの友情とは、正義とは、勇気とは、貧困とは、人の強さとは・・・についてアドバイス。悩めるコペル君に、自らが考え行動する人になってほしいというメッセージを1冊のノートに書いて贈ります。実は、そのノートが、のちのち、編集者としての叔父さんの仕事にもつながっていきます。

 

ノートの内容は、中学2年生むけにしては知的水準が高く哲学的です。戦前の15歳の常識(知識と教養)と、わたしたちが15歳のときの常識とはかなり違いますから、もしわたしが15歳の時に読んでいたら、理解できなかったかもしれません。重力を発見したニュートンのリンゴの話や、ナポレオンを英雄として持ち上げる話も、いまの時代とは違う感覚なんだなと思いました。

叔父さんのノートには、「立派な大人」になるための重要な指標がたくさん書かれていました。いつの時代でも人間としてのだいじな心掛け・・・正義だとか、友情だとか、向上心・向学心だとか、拝金主義に陥るなとか・・・基本は変わりありませんよね。ただ、いまの時代、自分の子どもに対して「立派な大人になれ」なんていうメッセージを送る親はあまりいない感じがします。大人がそれじゃいけないのかもしれませんが、わたしも、子どもたちに「立派な大人になれ」なんて言ったことはありません。さらに不思議なことに、この本では、恋愛や性の悩みがまったく出てこないんですよね。その時代、恋愛や性の悩みは枝葉末節だったんでしょうか?

 

大海原の航海も終わりに近づいてきた爺さんも、久しぶりに背筋が伸びた気がしました。

これを読んだ今どきのセイショーネンの感想ってどんなんだろう?

 

・・・15歳かぁ?

半世紀前の遠い昔のことやけど・・・ボーっと生きてたなぁ(苦笑)。

だから「立派な大人」になれんやったのかも。