目次
前の話
高2の夏
バイト先が新店舗へ移転オープンした
たくさんの人が訪れ
忙しい日々が続いた
内心
「もう来ないでくれ・・・」
と思いながら接客をしていた
平日昼間も忙しかったらしく
主婦のパートさんも来るようになった
そこは家族経営のお店だった
優しい大おばちゃんと
怖い若おばちゃんが居た
その怖い若おばちゃんのことが嫌で
友達たちは辞めていくのだが
わたしはその後もバイトを続けた
不器用ながらも
毎週休まずバイトに来るわたしに
優しい大おばちゃんは
「日楽ちゃんあんた社員にならへんか」
と言った
なんと言ったか覚えていないが
お断りした
若おばちゃんは怖いけれど
わたしは家に居るよりも
バイトに行ってる方が快適だった
しかし
高3の春に全身に原因不明の発疹ができ
そのタイミングでバイトを辞めた
急に辞めてしまったことに
後ろめたさを感じていた
だから店には
2021年まで行ったことがなかった
その頃
母は入院しており
もう長くはないというような時期だった
元バイト先のことは
少し前から気にはなっていたが
なんだか一人で行くのは心細かったので
父と食事に行こうとなった時に
この店を選んだ
高校生以来25年ぶりの来店
注文したのは母との思い出の
『親子丼とウドンのセット』
変わらず美味しく懐かしい味だった
写真の日付が母の亡くなる1週間前だった
怖い若おばちゃんが接客
調理して下さった
若おばちゃんとか言っているが
母より少し若いくらい
わたしと同じ年のお子さんがおられる
少し背中が曲がり
身体が小さく
力弱さが感じられた
おばちゃんに
勇気を振り絞って
「昔アルバイトをさせていただいてました」
と言ってみたが
「もう覚えてない」
と言われた
たくさんの学生との出会いがあり
長い年月が流れたのだから
覚えてないのも当然だ
当時おそらく40代の働き盛り
きっと今の私くらいの年齢だっただろう
あの頃のパワフルさはもうない
おばちゃん
そしてそのお店や
大型スーパーそのものにも活気はなく
全盛期の中に居た
わたしとしては
寂しくせつなく
ジワリと涙がにじんだ
それからも実家に帰ったついでに
1、2度ほど店の前を
通ってみたりしたのだが
その大型スーパーのテナントが
少しずつ閉店していたり
小さな規模に変わるというような噂も聞き
もしかしてと思っていた
2022年5月
店を覗きに行くと
看板の電気が消え貼り紙があった
「5月○日をもって閉店いたしました」
なんと前日で閉店だった…
店の中を見ると
ご夫婦で片づけをされていた
わたしは一度通り過ぎたが戻り
「閉店されたんですね
大昔にアルバイトさせてもらってました
お世話になりありがとうございました
長い間お疲れ様でした」
とお二人に伝えた
おじさんが
「ご丁寧にありがとうございます」
と返事をして下さった
おじさんまた弱々しく
当たり前だけど
あの頃とは違った
あぁ
わたしの青春の場所がひとつ無くなった
寂しさに涙を浮かべながら
足早に駐車場へと向かった
年賀状だけの間柄になっており
SNSではつながっていない
毎年のように
また会おうね
と書いてるだけになってしまっている
それでもつながっているのだから
年末に書く
年賀状にこのことを書こうと思う
あーーー
もう一度
親子丼が食べたかったなーーー