ともえ先生

 社会保障法は、健保法、厚年法、国年法のいずれも簡単だったわね。

 

まさ

 健保法は、空欄A、空欄B、空欄Cが基本知識だね。これで3点。

 

さき

 厚年法は、空欄A、空欄C、空欄Eが基本知識ですね。これで3点。

 国年法は、空欄Aから空欄Eまですべて基本知識ですね。5点取れます。

 

ともえ先生

 そのとおりね。だけど「5点」という表現はいらないわ。

 

さき

 そうでした。「3点以上」でした。

 

ともえ先生

 そういうこと。じゃあ、ここで選択式の解説を終わりにして、来年に向けてあたしの解法をまとめるわ。繰り返しの部分は聞き流してもいいわよ。まず、一番大切なことは?

 

まさ

 選択式の得点は「1点」「2点」そして「3点以上」の3つしかない。3点を確保できた以上は、その他の空欄を正解する意味がない。

 

ともえ先生

 そのとおりね。むしろ、その他の空欄は「受験生の回答時間を削るためだけの問題」であることもあるわ。いたずらに細かい知識を聞いてくるような、いわゆる悪問よ。

 

、、、

 これはあたしの解法の本質だから繰り返して言うけど、社労士試験は知識だけで合格できるような簡単な試験ではない。ある空欄が正解できなかったとして、それは知識不足で正解できなかったのかどうかをよく考えなさい。あるいは、そもそも正解する必要がなかった空欄なのかもしれない。「3点以上」を取るためには、どうすればよかったのか。それを徹底的に考える。

 

さき

 来年に向けて、ともえ先生のオススメの学習教材を教えてもらってもいいですか?

 

ともえ先生

 あたしは、基本書はLECのテキストよ。このテキストに載っていない知識は、合格には必要のない知識と割り切っていいと思う。今年で言うと、「えるぼし」とか「確定拠出年金法の障害者給付」はこのテキストには載っていなかったわ。あと、このテキストに載っている知識でも、過去5年以上出題されていない知識も、優先度が落ちるわね。まあ、基本書はなんでもいいわ。

 

まさ

 過去問は? 

 

ともえ先生

 過去問集はLEC一択ね。社労士業界は、なぜか問題と解説が見開きになっている(見開きの左側が問題、右側が解答解説)。こんなの社労士業界だけよ。普通は、問題を解いているときに解答が見えてしまわないように、問題の「裏に」解答解説が載っているわ。「業界の常識は世間の非常識」とよく言うけど、これは社労士業界の過去問集のスタイルのことね。ということで、過去問集は、唯一社労士業界のスタイルに馴染んでいないLECの過去問集以外にはありえないわ。

 

さき

 10年分解く必要がありますか?

 

ともえ先生

 あんたたちは択一の基準点を突破している前提でいいのよね? それなら過去問はほぼ頭に入っているでしょ? だったら、3年分で十分よ。そもそも択一の基準点を突破しているなら、知識を補充するために過去問をやる必要はないわ。過去問を解いて、「その問題を解くためにどの知識が必要なのか」をテキストで確認する。過去問を利用して知識を確認するイメージよ。「過去問を学ぶのではなく、過去問で学ぶ」ってヤツ。これは受験の王道ね。

 

まさ

 テキストと過去問以外にも必要かなぁ?

 

ともえ先生

 もちろん、必要よ。社労士試験で最も重要なのは一般常識でしょ。あたしは、労働法の一般常識を身につけるために「リーガルクエスト労働法」、社会保障法の一般常識を身につけるために「はじめての社会保障」を勧めているわ。これらの本で、労働法や社会保障法の「ものの考え方」というものを学ぶことができるわ。知識をつけることは目的じゃないわよ。これらの本で学んだ「ものの考え方」が、見えない力となって、最後の1点を取るきっかけになるのよ。

 

さき

 労働法は「リーガルクエスト労働法」、社会保障法は「はじめての社会保障」ですね。分かりました。

 

ともえ先生

 年内に知識をインプットしても忘れちゃうから、年内は上記2冊をしっかり読み込めば十分よ。受験に直接関係しない書籍を読むことには抵抗があるかもしれないけど、一般常識で「なんとかギリギリ3点をもぎ取る」ためには、これは避けて通れない学習過程だと思っているわ。

 

、、、

今年の社労士試験は、こんなところね。またしばらくしたら会いましょ。

ともえ先生

 社一は、あたしも3点よ。空欄Cを【⑭自立した日常生活】、空欄Eを【⑫初診日から65歳に達する日の前日】にして間違えたわ。空欄Dは、基本知識だから正解できて当然だとして、問題は、空欄Aと空欄Bね。あたしが、知識以外で、どうやって空欄Aと空欄Bにどう対応したかを説明するわ。

 

まさ

 いきなり船員保険法はキツいよ。国保、介護、後期高齢、社労士法とかであればそれなりに細かい知識もインプットしているけど、船員保険法の個別の給付についてまで正確に暗記なんてしないじゃん。

 

ともえ先生

 そうね。だから、これは「推理問題」よ。まず、基本知識は、船員保険法の法的位置付けよ。さきちゃん、船員保険法は労災法や健康保険法とどういう関係にあるの?

 

さき

 健康保険法の知識ですが、船員保険法の被保険者は健保法の適用除外です。だから、船員保険法は、健康保険法が適用されない船員のための特別法です。

 

ともえ先生

 そうね。船員保険法は、船員のための医療保険法よ。まさ君、労災法との関係は?

 

まさ

 船員も労災保険法の適用労働者になるよね。その上で、労災保険法の給付とは別に、特別に船員を保護するための法律だね。たとえば、行方不明手当金とか、労災保険法にはない給付があるよ。

 

ともえ先生

 そのとおり。まとめると、船員保険法は医療保険という観点からは「健康保険法の代わりの法律」で、労働保険という観点からは「労災保険法に加えて労働者を保護するための法律」よ。健康保険法の代替給付、労災法の上乗せ給付、みたいなイメージね。

 

さき

 船員保険法は、「健康保険法が適用されない船員のための特別法」と「労災保険法が適用される船員のための特別法」という二面性があるんですね。そこまでは基本知識ですか?

 

ともえ先生

 そうね。船員保険法は、健康保険法や労災保険法の「特別法」よ。じゃあ、何が特別なの?

 

まさ

 傷病手当金が3年間支給されること(健康保険法では1年6か月)、待機期間がないこと。

 

さき

 あと、行方不明手当金もあります。

 

ともえ先生

 できればもう一つ。

 

まさ

 療養の給付の種類が、健康保険法は5つだけど、船員保険法は更にもうひとつ「自宅外生活費(宿泊及び飲食)」があるね。

 

ともえ先生

 そうよ。船員保険法で重要な知識は、その3つね。あとの細かい給付は知らない。

 

、、、

 それでいいのよ。それだけで。空欄Aと空欄Bは推理できるのよ。

 

さき 

 空欄Aは、「資格喪失後の葬祭費」ですね。健康保険法だと「資格喪失後3か月以内」が要件です。でも、船員保険法でどうなっているかは分かりません。知識として覚えていません。解けません。

 

ともえ先生

 だからそれでいいのよ。「知識として覚えていない」ということは、「知識として覚える必要がなかった」ということでしょ。船員保険法で覚えておくべき知識は、「傷病手当金3年、待機期間なし」「行方不明手当金」「自宅外生活費(宿泊及び飲食)」の3つよ。逆に言うと…

 

まさ

 この3つ以外は、健康保険法や労災保険法と同じ内容だから覚えておく必要がない、ってこと?

 

ともえ先生

 そのとおり。厳密にいえば、これら3つ以外にも相違点はあるのかもしれないけど、試験の現場で推理するために重要なのは、「これは覚えていない→覚える必要がなかった→よって、健康保険法や労災保険法と同じ内容だろう」と推理することよ。

 

さき

 健康保険法と同じと言われれば、空欄Aは【⑯資格喪失後3箇月以内】、空欄Bは【②50,000円】しかありえないですね。

 

ともえ先生

 そうよ。あたしはそうやって推理したわ。この解法で空欄Eにも挑戦したわ。確定拠出年金の障害給付金。「覚えていない→覚える必要がない→よって、障害基礎年金や障害厚生年金と同じはず」。こうやって推理した。その結果、空欄Eは【⑫初診日から65歳到達日の前日】と解答したのよ。

 

まさ

 でも、正解は⑫ではなく⑪だよ。ともえ先生の解法だと、解けない問題もけっこうあるよね。この前の労一もそうだし。

 

ともえ先生

 そうね。悪いけどあたしの解法では、これが限界ね。でも、大切なことは「それでも3点を確保できている」ことよ。たしかに、たまたまかもしれないし、確実性はない。後付けと言われると反論は難しい。それは認めるわ。

 

、、、

 でも、じゃあどうするの? 出題される可能性が極めて低い船員保険法の給付についてもしっかり暗記していけばよかったの? 確定拠出年金法の障害給付金や遺族給付金についても、正確な知識を押さえておくの? あたしのテキストには障害給付金の給付内容は載っていないわよ。

 

、、、

 もちろん、知識で解けるなら、それが一番確実よ。でも、この問題を知識で解くことはできたの? それは実現可能なの? あんたたちも仕事をしながら社労士試験にチャレンジしているんでしょ。だったら可処分時間なんてたかが知れているじゃない。合格できない理由を知識不足と考えるのは楽だけど、本当にそれでいいの?

 

、、、

 あたしはいつも言っている。社労士試験は知識だけで合格できるような簡単な試験ではない。得点順に合格者が決まるような公平な試験ではない。だから、知識に頼らない解法、高得点は取れなくてもなんとか3点を死守できる解法をあんたたちに教えている。あたしのスタイルを取り入れるかどうかは、あんたたちの自由だけど、あたしはこれが最も合格可能性の高い解法だと思っている。今ある知識で基準点を突破することができなかったかどうか、もう一度真剣に考えなさい。敗因は本当に知識不足なの?

 

 

なお、社一の救済は確実なので、空欄D以外にどこかひとつ正解できれば基準点突破です。

事前に合格基準点が「3点以上」と告知されている以上、救済とは問題が「不適切」であることを意味するものです。人生を掛けて受験している受験生もいます。試験委員さんには「適切な問題」を作成していただきたいです。

ともえ先生

 空欄Aから難しいわね。これは明らかに知識問題ではないわ。

 

さき

 ともえ先生の言うところの「推理問題」ですね?

 

ともえ先生

 そうよ。で、どうやって推理したかなんだけど、まず、「⑬技能士」と「⑭技能検定士」の二択に絞るまではいいわね。とすると、問題は「検定」の二文字が入るかどうか。まさ君、推理してみて。

 

まさ

 その検定試験の合格者は「技能を有している人」であって、「技能について検定する人」ではない。よって、「検定」の二文字は入らない。したがって、正解は「⑬技能士」かな。

 

ともえ先生

 そんなところね。あまり論理的ではないけど、そうやって推理する問題だと思うわ。少なくとも、この問題をみて「もっと一般常識のテキストを読み込んで、知識をインプットしなければならない」と考えるのは間違っている。あたしはそう思う。

 

さき

 空欄Bはどうですか?

 

ともえ先生

 これもなんとなくの肌間隔だけど、一般に「若年者=20代」とは考えないわね。一昔前は、「若者=20代」みたいな時代もあったけど、今は全然そんな時代じゃないわ。初婚の平均年齢だってほぼ30歳でしょ。よって、推理の結果、これは【⑦35】よ。

 

まさ

 「えるぼし」とか知らないよ。

 

ともえ先生

 そうね。あたしも知らなかったわ。これはあたしも間違えた。隙間時間に厚生労働省のホームページを見ておけば対応できたかもしれないけど、これは知識でも推理でも解けないわ。さきちゃん、この問題を出題した出題者側の意図は、どういう意図だと思う? 想像でいいわよ。

 

さき

 「一般的な社労士試験用のテキストには載っていないけれども、新聞等で何度か特集されたことのある国の労働政策、社会保障政策についての情報についても敏感な受験生を合格させたい」という意図ですか?

 

ともえ先生

 そんなところね。何にせよ、あたしのスタイルでは対応できない問題だった、ということね。申し訳ないわ。ただ、この問題をみて、「もっと知識を…」と考えたり、「〇〇予備校のテキストにはえるぼしは載っていなかった。〇〇予備校はイマイチだ」と考えたりするのは、違うと思うわ。一昔前の「鶏卵」とか「パネル調査」と同じね。正解する必要のない問題よ。だから今後の学習方針としては、この問題に気を取られることなく条文や判例を正確にインプットする方が、有益だと思うわ。さて、逆に、空欄Dは簡単ね。

 

さき

 あたしもこれはできました。「女性の社会進出は進んでいる」という知識がありました。その知識から素直に推理すると、女性の年齢別有業率は【⑱すべての年齢階級で上昇】していると考えることができました。

 

ともえ先生

 そうね。これは統計の数値を知識として暗記しているかどうかを問う問題ではない。「女性の社会進出は着実に進んでいる」という知識、これは基本知識よ、この基本知識から正解を推理できるかどうかを問う問題なの。この問題をみて、「マニアックな統計を含めてもっと広く正確に暗記しなければ…」と考えるのは間違いよ。これは知識で解く問題ではないわ。

 

まさ

 最後の「起業者総数に占める女性の割合」は知識問題なの?推理問題?

 

ともえ先生

 あたしは「推理問題」と考えたわ。なぜなら、あたしの推すTACの直前テキストに「就業構造基本調査」なんて載っていないからよ。そして、この問題を「推理問題」と判断し、その上で、「女性管理職割合が約1割」という知識から、「女性起業者数割合も同程度だろう」という推理をして、【①1割】を選択したわ。

 

さき

 正解は【②2割】だから、ともえ先生も間違えたんですね?

 

ともえ先生

 そうよ。これも空欄Cと同じで、あたしの「推理」では太刀打ちできなかった問題ね。結局あたしは、空欄A、空欄B、空欄Dで3点を確保しただけ、空欄Cと空欄Eは間違えたわ。

 

まさ

 でも、それでいいんでしょ?

 

ともえ先生

 そうよ。今年の労一は難関だった。知識では解ける問題はなかったし、推理によってもギリギリ3点取るのがやっとだった。空欄Cと空欄Eが対応不可能な問題だから、実質的には3問中3問を正解しなければならなかった。しかも、その3問はいずれも推理問題だった。かなり難関だったと言えるわね。

 

、、、

 でも、この労一をみて「もっと勉強範囲を広げなきゃ」と考えるのは、間違っているわ。これはあたしの意見であって、それが正しい学習方法かどうかは分からない。歯切れが悪いのも分かっているし、論理的な根拠を示すこともできない。でも、それでも「知識が足りなかった」という敗因分析は間違っている。あたしはそう思う。

 

、、、

 傾向が変わったと言えるかもしれない。でも、そうだとしても、その変化に対応するためには、せいぜい隙間時間に厚生労働省のHPをチェックする程度で十分よ。もっと細かいことを暗記しよう、と考える必要はないわ。大切なのは、そもそも知識で解く問題ではないにもかかわらず、「知識が足りなかった」という的外れな敗因分析をしないことよ。マニアックな知識が増えすぎると、基本知識がぶれる。そして、来年はそこを突かれて、また2点になる。

 

、、、

 知識以外の観点から、「どう工夫すれば今年の労一で3点を確保できたか」を一生懸命考えなさい。あたしの解法はそのためのヒントにすぎないわ。これが正解かどうかは分からない。だから、自分でその答えを見つける。そして、その答えは、かならず普遍的な「知恵」となって、あなたの武器になる。社労士試験は、知識だけで合格できるような簡単な試験じゃない。現場で対応するための「知恵」が必要なの。「知恵」が試されたという意味で、今年の労一はかなりの良問だったと思うわ。じゃあ、社一に行くわね。