さて、5月の帝劇ですべてのキャストを見たのは、ジャベールとマリウス。
エポとテナ夫妻はあと一人がまだ。
本当に今回は帝劇の組み合わせすら偏ってて、全員観るのはなかなか厳しいわ。
それでもアクシデントがなければ、アンジョ以外は全員観られるんだから恵まれてるよね、私。
というわけで、今回はジャベール。
最初のプレビューで観たのが伊礼ジャベ。
5月でちょっと印象変わったんですけど、初見で観たときは2幕の狂乱っぷりが凄かった!
1幕とかは青二才過ぎてうっかりもいいとこの、エポ曰く「あのおまわりはいつでもドジ♪」そのものなジャベール。
そもそも市長であるバルジャンを欠片も疑ってなくて、「24653」って高らかに歌い上げて去っていくバルジャンを見送る顔のポカン具合ときたら(笑)
面白いシーンでもないのに、思わず笑いそうになる間抜けっぷり。続く、バルジャンとの対決は、どう見ても虚勢張ってるようにしか見えなかったし(伊礼さん曰く、小鹿と熊の対決らしい)
対するバルが吉原さんだったから余計そう見えたのかも。シュガーさんだったらどうだったのかなぁ。シュガーバルは割りとお人よしっぽいから、一歩間違えばお花畑になりかねない組み合わせではあるな。
それが、2幕でバルジャンに逃がされた後、落ちたバリケードに戻ってきた時の激しい息遣いと唸り声、乱れた髪、マリウスを抱えたバルジャンを逃がした後の「あいつはどんな悪魔だ」と言いながら自分のしたことが信じられないという表情、自殺を歌いながらどんどん増していく乱れっぷり。
乱れれば乱れるほどに増していく狂気と迫力がすさまじいジャベールで、1幕は正直物足りなくて腐ってたんですけど、2幕で瞠目いたしました。
最初からこういう演技プランを組み立ててたんなら、伊礼彼方、すげえ役者だ!と感動を覚えましたね。
帝劇で1ヶ月半やってちょっと変わってきてるみたいなんですが、初回の衝撃は中々のものでした。変化球ではあるけど、これはこれでアリなジャベールだと思います。
次に観たのは理生ジャベ。
当初、とっても期待していたジャベ。観てみたら、彼の悪いところが凝縮されたようなジャベで、がっかり……
理生さんのいいところはなんといっても、声と歌。少し低めのイイ声で、きちんと専門に学んできただけあって音も取れるし、声量も十分。
アンジョだったときはカリスマ性もたっぷりで、革命失敗するのが意外だって声もあったくらい。
なので、きっと素晴らしい歌唱を披露してくれるんだろうなと思ってました。
はい、その通り。素晴らしい歌唱でした。……これがコンサートやライブだったら、文句なく拍手を送ってスタオベしていたことでしょう。
けどね、ミュージカルなんです。ミュージカルって、芝居なんです。いや、歌が一番で、歌が上手けりゃいい、という方もおいででしょう。
ですが、私はそうではありません。芝居ができてるかどうかを重視するタイプの客なんです。
その私には、理生ジャベの芝居が全く意味不明。
そんなに多くの人のジャベールを観てきたわけではありませんが、今まで観たどのジャベも、そのジャベなりの正義や信念が見えるジャベでした。ですが、理生ジャベにはそれが見えない。何を正義とし、何を神と仰ぎ、何を信じて生きてきたのか。さっぱり分かりませんでした。
分かったのはただ、バルジャンに異様なまでに執着しているということだけ。何故執着するのか、その理由はさっぱり???そして、あまりにも執着が過ぎて、最後にバルジャンを見逃すのがいかにも不自然。あのジャベならマリウスが死のうがどうしようがどうでもいいとばかりにバルジャン捕まえるでしょ?!って感じ。
いやね、後でいろんな媒体のインタビューとか読むと、彼は彼なりに色々考えていることが分かります。すごく一生懸命考えて役作りしてきたんでしょう。
ただ、それを全く表現できていない!
思うに、彼は音楽の勉強はずっとしてきたけど、芝居の勉強を全然してきてなかったんでしょうね。某プリンスが「ミュージカルはとにかく楽曲が素晴らしいのが多くて、きちんと歌えば8割は伝わる。ただ、残りの2割をどうするか」と仰ってたらしいですが、理生さんはソレで言えば8割はまあ相当にできるわけです。が、残りの2割がさっぱり……それが、今後の彼の課題なのだろうと思います。
今のままだと、ただの歌上手大根だよ!
あとね、何が何でもフォルテ!フォルテ!フォルテッシモ!!!なのはやめて欲しい…
緩急なさ過ぎて、きいてるほうは苦痛だよ。
折角のいいお声と歌の実力、どうぞ宝の持ち腐れにしないでください。今はそんな気持ちです。
レミゼ終わったら、ちゃんと演技の勉強してください。
さて、最後が川口ジャベ。
もうね、観る前から続投組ならではの信頼感がありましたが、その信頼に違わない、どころか更に一層磨きのかかったジャベールでございました。
まずね、芝居と歌のバランスがいい。きちんと歌ってなおかつ歌い上げ過ぎない。どの場面でも、ジャベールが何を考え何を思ってその歌を歌っているのか、非常に分かりやすい緩急があって、ジャベールの心情を辿りやすい。
その役の心情を辿りやすい、という意味では昆エポと川口ジャベが双璧だなぁと思います。
2017での川口ジャベの魅力は、その傲岸な態度に見え隠れする弱さだったんですが、その強さと弱さのバランスも素晴らしい。「Sters」を歌いながら、自分は正しいのだ、神の道を歩んでいるのだ、と確信していく様、「自殺」でそれをバルジャンに揺るがされて絶望し、そこから立ち直れない弱さ、一人の人間としてのジャベールがちゃんと筋道をもってそこに存在していて、とても納得のいくジャベールでしたね。
あとね、演技力という点で、若いお二人と基礎が違うなぁと感じたのは橋から飛び込むシーン。
あのシーン、伊礼さんも理生さんもなんかやたらと手足をバタバタさせてだんだんゆっくり、っていう感じだったんですが、川口さんはそれほどバタバタはしてなくて前のめりの姿勢で手足をうごかし、やがて後ろに反り返って消えていくんですよ。
実際高いところから飛び込んだらそうなるよね。
目立つのはそこですが、きっとそういう細部のリアリティが川口さんの演技にはそこかしこにあって、それが彼のジャベールを生きたものにしてるんだと思います。
神は細部に宿る、じゃないですけど、そういう細かいところに気を遣ってる人の演技はやっぱり素晴らしい。
お若い二人には是非見習ってもらいたいところです。
折角トリプルなんだもん、いいところはドンドン吸収しあってほしいよね。