【人は老いて想うもの。人生の目的とは】
曹操といえば、『三国志』の英雄の一人です。中国の漢帝国が衰退し乱世となるや、一躍、頭角を現して魏王となります。権力と地位を手にし、思うままに振る舞った曹操は、「短歌行(たんかこう)」と題する詩に、人生の思いを綴っています。
酒に対しては当(まさ)に歌うべし
人生幾何(いくばく)ぞ
譬えば朝露(ちょうろ)の如し…
曹操
気概に満ちた長い詩ですが意訳してみましょう。
酒を飲んだら、歌おうではないか。
人生は短いぞ。まるで朝露のようだ。
あまりにも早く月日が過ぎ去っていく。儚い一生を思うと、
「まだまだやることがある」
と気持ちが高ぶってくる。
しかし、憂い、悩みがこの胸から去ることがない。
この憂いをいかにして解決すればいいのか。
酒だ。ただ酒のみが憂いを消してくれる。
天下の覇者・曹操の言葉には、どこか寂しさを感じます。本当は、
「酒がなくても、憂いを解決できる方法は無いのか」
と叫びたかったのではないでしょうか。
次に、世界最高の権力を手にした男が、「人生とは何か」を詠んだ歌があります。
今から約二千百年前、中国、漢の第七皇帝・武帝は、父祖から受け継いだ領土を拡大し、大帝国を築き上げました。
得意の絶頂にあった武帝はある時、屋形船で黄河を遡(さかのぼ)り、船中で宴会を開きました。この時に詠んだ詩が
秋風(しゅうふう)起こりて
白雲飛び
草木黄ばみ落ちて
雁(かり)南へ帰る
で始まる「秋風の辞」です。
「意訳」
青い空には白い雲がたなびている。深まる秋とともに、岸辺の樹木は赤や黄色に色づき、雁は隊列を作って南へ帰っていく。船の中では、笛や太鼓が鳴り響き、美酒を交わして、楽しい歌声が湧き上がっている…。あぁ、人生は愉快だ。
楽しみが頂点に足した時、武帝の心に冷たい秋風が吹き抜けました。詩をこう結んだのです。
歓楽極まりて
哀情多し
少壮(しょうそう)幾時(いくとき)ぞ老いを奈何(いかん)せん
「意訳」
楽しみが大きいほど、過ぎたあとの寂しさは格別だ。若くて元気な時は、どれだけあるのか。忍び寄る「老い」を、どうすればよいのか…
四十四歳にして、人生の秋を感じ取った武帝。船の上から空を眺め、
「雁は南へ帰る。人はどこへ帰るのか」
と、得体の知れない不安を抱いたのです。
合掌
釈 正輪 拜
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