「テロか?殺人か?」~~安倍元総理死去・全紙一面比較 | 紙風船

紙風船

中学校と高校で社会科を教えています(いました)。街探検や銭湯が大好き。ピクトグラムや珍しいものが好き。でも一番の生きがいは、子どもたちに「先生の授業、たのしい」と言ってもらえることです。

安倍晋三元総理大臣死去が発表されました。 

2022年7月8日午後5時3分,
毀誉褒貶の多い方でしたが,このような最期を迎えるとは意外でしかありません。ご遺族の悲しみに哀悼の意を表します。

「殺人」は許される行為ではありません。
そのことを当然としたうえで,

「社会科のセンセイ」として,気になることを3つ書きます。
 

(1)「この事件は,テロなのか,殺人なのか」
昨日発行の夕刊紙の見出し
「安倍元首相撃たれる 心肺停止」(日刊ゲンダイ)
「安倍元首相銃撃される 心肺停止」(夕刊フジ)
 

そして今朝の主要紙の見出し。

主要紙は当然。

(しかし,トップ見出しの文言が横並び。ボクの記憶にない事態。報道協定が結ばれたか?)


スポーツ各紙も来ました。それだけインパクトのあるニュースという証拠。


スポーツ以外に乗ることは滅多にないこの二紙ですら,小さく掲げています。

 

主要紙。トップ見出し以外に「社説」的な記事が一面に載ります。その見出し。

読売「卑劣な言論封殺 許されぬ」

朝日「民主主義の破壊許されぬ」

毎日「民主主義への愚劣な挑戦」

東京「許さぬ。民主主義の破壊」

日経「許されざる蛮行」

 

茂木幹事長「民主主義の根幹である選挙が行われている最中のテロ行為に断固抗議をする」(8日午後)
共産党志位委員長「安倍晋三元首相への襲撃は、自由な言論をテロで封殺しようという許し難い蛮行であり、強い憤りをもって抗議する」
岸田総理は昨日午後の最初の記者会見以来,繰り返し「卑劣な蛮行」という言葉を使っていますが,「テロ」とは表現していません。この他の党首は「暴力」という表現を使っている方が多いようです。

池上彰氏「テロに屈してはならない」を連呼(テレビ東京「WBS」内で)

しかし,政治家に対する暴力=「テロ」ではありません。
「テロ」とは「テロリズムterrorisme(フランス語)terrorism(英語)」の略語です。政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を用いる行為に対して使用される言葉です。ふつうの「暴力」との違いは「政治的な目的を達成するために」行われた否かにかかっています。(ただし,実は統一した定義は存在しないそうです)

幸い被疑者が射殺されずに身柄を確保されたため,警察での供述が進んでいます。
現在報道されている範囲では,被疑者は「安倍元総理に不満があった。殺そうとした」「政治信条に対する恨みではない」と語っているそうです(7月9日午前6時現在)。
もちろん,供述が真実である保障はどこにもありません。
また,単独犯を装った組織犯罪も数多起きています。
 

しかし,この状況で,今回の事件を「テロ」と断定することは不自然です。


「それがどうした。一人の人間が命を落としたんだ。それをどう呼ぶかこだわって何の意味がるんだ」というお叱りがきそうです。その方のお気持ちは十分理解できます。しかし,ボクはただの「言葉遊び」をしているつもりはありません。
 

センセーショナルな出来事が起きると,しばしば人は不安心理にかられて過剰な防衛反応を示すことがあります。

それが集団心理と化すと,政治の方向を誤りかねません。

国政選挙直前の状況ではなおさらです。

ロシア・ウクライナ戦争が継続している状況で,安心・安全ひいては国防に関して冷静な議論が必要な時です。

 

今回の事件の背景が判明するまでは,安易にある種の結論に飛びついたり,イタズラに憶測を広げないようにしていこう。

--これはボク自身への戒めです。

(2)遺族や被疑者家族への配慮
気になる2点目。日本でもようやく遺族や被疑者家族の権利について認識されるようになってきています。今回の件でもより強い配慮が必要です。

 

自宅や職場に押しかけたり,メディアがカメラやマイクを突きつけ集団で追い回すような行為に対しては,事あるごとに抗議していく必要を感じます。

 

被疑者の属性がよくわかりませんが,事件直後に特定の外国や宗教団体に関わる人物であるかのような情報がネット上に飛び交ったそうです。読むと「~だろ」「~じゃね」「~に決まっている」的な書き方です。それに対して「やっぱり」「だと思った」などのツイートが続々。「それ見たことか」と真偽のほどを確認せずに拡散にいそしむ行為は,名誉棄損に等しいのでは?

(3)模倣犯の出現および選挙運動への影響
3点目。これは特に今日注意したい点です。
センセーショナルな出来事が起きると「模倣犯」が出現します。小田急線内での殺人,放火事件のときもそうでした。

 

現時点では,今回の出来事は組織的犯罪ではなく,単独犯である気がします。それでも,単独犯による模倣犯が出現する可能性は捨てきれません。全国に散らばる千名を越える立候補者全員の生命,安全を守ることは容易ではありません。警察の方をはじめご尽力いただきたいです。

 

そして,また候補者の方々には,とても不安な状況下とは思います。街頭演説会や個人演説会取りやめの動きも理解できます。それでも,ご自身が納得のいかれる形で選挙活動を最後まで行っていただきたいと願います。

 

とはいえ,選挙演説を聴きに集まろうとする皆さんにも怯えの心理がはたらいて当然です。今回は安倍氏のほかに死傷した方がいないのは奇跡的としかボクには思えませんが,模倣犯が出現した場合には,巻き添えになる方が出るかもしれません。
 

長くなってしまいました。
現時点でボクが気にしていること3点を書きました。

まだ,いろいろありますが,

まとまらないのでいったん閉じます。

 

まずは今日一日が無事に終わりますように。