「義勇兵と傭兵と」~~歴史に学ぶウクライナ危機 | 紙風船

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中学校と高校で社会科を教えています(いました)。街探検や銭湯が大好き。ピクトグラムや珍しいものが好き。でも一番の生きがいは、子どもたちに「先生の授業、たのしい」と言ってもらえることです。

「義勇兵」と「傭兵」,

あなたはそれぞれにどんなイメージを持ちますか。

ボクのイメージ。
「義勇兵」=「正義の味方」=「カッコイイ」。
「傭兵」=「あくどい連中」=「うすぎたない」。
 

なんでこんなイメージが生まれたか,

自分で検証してみます(読み飛ばしてください)。

「義勇兵」。ボクに刷り込まれたイメージは「スペイン内戦」。1936年スペインに人民戦線内閣(社会主義政権)が成立。

クーデターを起こしたフランコ将軍派とそれを支援するファシズム勢力(ナチス・ドイツとファシスト党政権下のイタリア)との間で戦争が勃発(1939年フランコ将軍派の勝利で決着)。

 

西欧・米政府は「ファシズム>社会主義(共産主義)」の立場から「不干渉政策」を決め込む。
 

それに憤慨した人びとが「反ファシズム・民主主義の擁護」の大義の下,続々とスペインにはせ参じる。その数55カ国,約4万名に及んでいたとも。著名人では,小説家ヘミングウェイ,オーウェル,写真家キャパ。日本人も「ジャック白井」という人物が記録されています。
(参考「世界史の窓」より「国際義勇軍」「スペイン内戦」の項目)
 

この「国際義勇兵(国際旅団)」を描いた映画や小説,それにキャパが撮影したとされる写真などが,ボクの胸に「反ファシズム・民主主義擁護」=「熱い正義」を訴えかけて来たのでしょう。

 


 

1943年のアメリカ合衆国の戦争映画。監督はサム・ウッド,出演はゲイリー・クーパーとイングリッド・バーグマンなど。アーネスト・ヘミングウェイの小説『誰がために鐘は鳴る』の映画化作品。

「崩れ落ちる兵士」キャパの写真(諸説あり)



 

改めて「義勇兵」の定義を載せます。
義勇兵(ぎゆうへい,英: military volunteer)は,正規軍に所属せず,金銭的見返りを求めずに自発的に戦闘に参加した戦闘員を指す。(Wikipedia「義勇兵」の項より)

ロシア・ウクライナ戦争にも多くの「義勇兵」が参加していると言われています。

「President On Line」2022年3月31日

 

 

ウクライナに加勢しようと,世界から義勇兵が集まっている。ウクライナ当局によると,52カ国から計約2万人が部隊への加勢を志願した。

ウクライナのゼレンスキー大統領は,ロシアによる侵攻からわずか2日後の2月26日,外国人部隊の創設を発表し志願者を募っている。その2日後には,外国人義勇兵のビザを免除した。
これに反応し,世界各地から志願者たちが名乗りを挙げている。

義勇兵のなかには戦闘未経験者も混在していると報じている。大型車両の運転免許をもっていれば物資と人員の輸送を担うなど,経験に応じた役割をこなしているという。


毎日新聞  2022年7月3日

 

 

福島県の自営業の男性とみられる人物が登場します。

●「今,ウクライナに入れました。ここは義勇兵が手続きをするテントです。ポーランドとの国境を出て目の前にあるので,必ず目に入ります」。動画投稿サイト「ユーチューブ」の動画。迷彩色のジャンパーを着込んだ人物は,自身の顔を映さずに語る。後ろにある白いテントの中で,軍服を着た外国人の姿が見える。

●ウクライナで4月中旬から約3週間,ロシア軍と戦う「義勇兵」に参加し,スマートフォンで動画を撮影したと説明している。6月6日,福島県内の自宅で取材に応じた。
ロシアのウクライナ侵攻で「まずは自分が行かなければ」との思いが強まった。在日ウクライナ大使館は2月下旬に義勇兵を募集し,元自衛官ら日本人約70人が志願した。この男性も応募したが,大使館は募集をとりやめていた。日本政府が渡航中止を求めたためだ。

●思いを断ち切れず,現地で義勇兵を募集するウクライナ領土防衛国際軍団(ILDU)に公式サイトから連絡をとり,4月11日に1人で成田空港から出発したという。
男性の説明によると,ポーランド南東部の町メディカから国境を越えてウクライナに入国した。

●男性は自衛官の経験はないが,看護助手の資格を持ち,英語での簡単な面接を経て,義勇兵への参加が認められたという。ILDUとの契約で,現地でどのような任務に就いたかは「詳しくは話せない」と繰り返した。

--以上,毎日新聞の記事より抜粋。


--さて,この日本人男性の行動をあなたはどう思いますか。
ボクは,日本国憲法をもとに考えてみます。
「思想・良心の自由」(日本国憲法第19条)
思想・良心の自由を「侵してはならない」とは,人は内心においてどのような思想を抱こうと自由であり,国家はそれを制限したり禁止したりすることは許されないことを意味する。つまり,誰でも義勇兵として参加したいと考えるのは自由です(ロシア・ウクライナのどちらの正義に与するかは別にして)。しかし,それを実行に移すことはどうなのでしょう。

ボクは,勤務校の高校3年生にこんな話をしました。

「もし,自分も義勇兵として参戦したいと考えている人がいたら,実行する前に相談に来てください。ボクはあなたを止めます。その理由を授業内で話す時間はとれません。その人にじっくり話すので,ぜひ来てください」
 

ボクが義勇兵参加を止める理由は主に3点あります。
(1)国内法に違反する。
刑法第93条(私戦予備及び陰謀)
 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で,その予備又は陰謀をした者は,三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし,自首した者は,その刑を免除する。

実際毎日新聞のインタビューに応じた男性も,帰国後に日本の警察から何度か事情を聴かれたという。起訴されてはいないようなので,「自首した者」とみなされているのかもしれません。あるいは「私的に」ではなく「ウクライナ軍の指揮下に入る」ということで罪に当たらないと解釈されているのかもしれません。(個人的には,曖昧な解釈の余地があることは危険な感じがするので,この法律はもっと厳格化してほしい気がします)

(2)捕虜となった場合,取引材料にされる。
義勇兵が捕虜となった場合,「ジュネーブ条約」は義勇兵も捕虜と同様に扱うことを求めています。しかし,義勇兵とみなすか否か,捕虜とみなすか否かは,ロシア側の判断によります。そして,捕虜と認められたとして,送還もしくは捕虜交換の申請や手続きは,ウクライナ政府の仕事なのか日本政府の仕事なのか,ボクには分かりません。しかし,ロシア政府が何らかの見返りを求める交渉材料にしてくることは当然のこと。
義勇兵はある意味「日本の国益」を損ねることにつながります。

毎日新聞の記事ではこう書かれています。
自衛隊関係者は「自衛隊員と異なり,国際法上は戦うことは認められていない。捕虜としての身分も保障されない。一時の感情で行動すべきではない」とくぎを刺す。
でも,このコメントは❓です。

「国際法上は戦うことは認められていない」

「捕虜としての身分も保障されない」

--「ジュネーブ条約」では認められているのですが・・・。

ただし,先ほども書いたように「義勇兵」とロシアが認めてくれた場合ですが。


(3)その人の命,人生
何より義勇兵となった人の命が大切です。

その後の人生が心配です。


「77年続いた平和国家ニッポン」で生まれ育った人が,自衛隊員でもなければ銃を持つことなど一生ないだろう人が,いざ戦場に飛び込んで,どれだけのことができるのか。
 

命が無事だとして,五体が無事でいられるか。

戦場に出て,戦闘に参加して,「敵」を殺す。

「人を殺すことが英雄となる」--究極の非日常感を経験してしまうことで,この人は精神は病まずにいられるのか。
 

精神を病まずにいられたとしたら、それ自体が実は大変な精神の病のような気がします。

「ウクライナのために何かをしたい。そう考えるあなたの気持ち感情は尊重する。しかし一時の感情で行動すべきではない」

ボクは「義勇兵になりたい」と言ってくる高校生に対して,

こんなことを話して止めるつもりです。

 

あなたは,どうしますか。

もし,知り合いで「義勇兵として参戦したい」という人が現れたら,止めますか。讃えて送り出しますか。

 

今日も長くなってしまいました。

最後までお読みいただきありがとうございます。

 

「傭兵」については,しばらくして,また書きます。