「七夕に想う捕虜のこと」~~歴史に学ぶウクライナ危機 | 紙風船

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中学校と高校で社会科を教えています(いました)。街探検や銭湯が大好き。ピクトグラムや珍しいものが好き。でも一番の生きがいは、子どもたちに「先生の授業、たのしい」と言ってもらえることです。

今日は七夕の日。

遠く離れた人がようやく巡り合える日。

戦場の兵士と家族たち,捕虜となった人と帰りを待つ人。

 

今日は「捕虜」について書きます。
 

あなたは「捕虜」というと,どのようなイメージが浮かびますか?

相手の軍隊に降伏した兵士,戦闘中に負傷したり病気となって,所属部隊が退却する際に取り残されて相手の軍隊に捕獲された兵士・・・だいたいはこういう感じでしょう。

 

ボクにとってのイメージは,少年の頃にはまった映画『大脱走』です(読み飛ばしてください)。

スティーブ・マックィーン主演。他にもキラ星のごときスターが勢ぞろい。舞台はドイツ軍の捕虜収容所。アメリカ,イギリス,フランス,アイルランド各国連合国兵士が収容されています。この面々は各地の収容所で脱走を繰り返すなど,いわばワル中のワルの集まり。そして,もちろん,この収容所でも大脱走を実行し・・・という,少年のボクにとって「カッコイイ」満載の血沸き肉躍る映画でした。

ちなみに,どれくらいほれ込んだかというと,

人生初のアルバイトで稼いだ給料でまっさきに買ったのは

『大脱走』のサントラ盤レコードでしたラブ

 

さて,話を戻して。

「捕虜」に関する国際法に「ジュネーブ条約」があります。

 

以下,読み飛ばしてください

--「ジュネーブ条約」とは,1949年に締結された4つの条約の総称。捕虜に関する第三条約だけで全143条もある膨大なものです。第二次世界大戦前に締結されたハーグ陸戦条約(1899年)やジュネーブ条約(1929年)を更新および補完しています--以上。

「ジュネーブ条約」は捕虜の待遇について,

例えばこのように規定しています。


・「捕虜の人道的待遇」(第13条)
捕虜は常に人道的に待遇しなければならない。
・「捕虜の給養」(第15条)
無償で,捕虜を給養し,及びその健康状態に必要な医療を提供しなければならない。
・「食糧」(第26条)
毎日の食糧の基準配給の量,質及び種類は,捕虜を良好な健康状態に維持し,且つ,体重の減少又は栄養不良を防止するのに充分なものでなければならない。捕虜の食習慣も,また,考慮に入れなければならない。(略)飲料水を充分に供給しなければならない。喫煙は,許さなければならないびっくり
・「被服」(第27条)
抑留国は,捕虜が抑留されている地城の気候に考慮を払い,捕虜に被服,下着及びはき物を充分に供給しなければならない。抑留国が獲得した敵の軍隊の制服は,気候に適する場合には,捕虜の被服としてその用に供しなければならない。

--何だか「至れり尽くせり」感が・・・。

 

そういえば『大脱走』を観ていて,不思議だったことがあります。彼らがそれなりの服装をして,

それなりの食事をして,

タバコを吸って,

密造酒を造り,

カードゲームやキャッチボールを楽しんでいたこと。

買い物までしていた。

捕虜なのになぜこんな暮らしができているんだはてなマーク

でも,「ジュネーブ条約」を読むと,ドイツ軍が最高級の待遇で,最低級の捕虜を懐柔しようとしていたのだと理解できましたビックリマーク
 

実は,「捕虜」を抱えることは交戦国にとってかなりの負担になります。その負担は戦争が長引けば長引くほど重くのしかかってきます。
(1)戦争が長引けば,捕虜の数が増える。収容所を増築新築しなければならない。食糧,日用品の支給が増える。
(2)戦争が長引けば,国内の生産力が低下する。食糧や日用品の不足が深刻化する。

自国民,自国兵士の食糧,被服すら十分でない状況下で,これらの待遇を満たすことはかなり困難。

もう一つ横道にそれます(読み飛ばしてください)。
日露戦争,第一次世界大戦のさい,日本は敵国ロシアやドイツの捕虜に対して,国際法を遵守した待遇をとろうと努力します。西欧列強に日本もまた「文明国」であることを示すためでした。

 

その努力の中から,ドイツ捕虜が収容所において,かのベートーヴェンの「喜びの歌」を披露するという「感動的」な出来事が起きていたのでした。しかし,大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)時の日本には,すでにその余力がありませんでしたし,「鬼畜米英」に染まる中で捕虜の待遇は軽視されましたドクロ

そうそう,第二次世界大戦下の日本軍が捕虜とした連合国兵士の食糧に「ごぼう」を提供したところ,「木の根っこ」を食べさせられたとして,戦後,捕虜虐待の罪に問われたと聞いたことを思い出しました(これは虐待というよりは文化ギャップのお話しかもしれません)。


話を現在に戻します。

ロシア・ウクライナ戦争開戦から間もなく5か月。

どれだけの方が捕虜となっているのでしょうか。

ロシア兵はウクライナで,ウクライナ兵はロシアで,どのような待遇を受けているのでしょうか。

 

気になっていることがあります。
ウクライナで捕虜となったロシア兵が,民間人殺害の容疑で裁判にかけられて「終身刑」の判決を受けました。

この裁判は,「ジュネーブ条約」に照らしてそもそも有効なのか,疑問に感じたので,今回じっくり読んでみました。

 

第3章「刑罰及び懲戒罰」82条~108条に及ぶ内容です。
特に目に留まったのは,以下の条文です。
第八十五条〔捕虜となる前の違反行為〕
 捕虜とされる前に行った行為について抑留国の法令に従って訴追された捕虜は,この条約の利益を引き続き享有する。有罪の判決を受けても,同様である。

ロシア兵が「捕虜とされる前に行った行為」を裁判できるようです。ボクは何となく,戦闘中の行為に関して,戦争継続中は捕虜を裁判にかけることはできないと思い込んでいたので意外でした。民間人殺害が,戦闘中の行為として認定されなかったのかもしれません。また,その裁判が「ジュネーブ条約」の基準を満たすようなものであったかどうかは分かりません。

分からないことは分かりません。

おっとやっぱり長くなってしまいました。最後に一つ。
「捕虜」の定義です。

 

実は,いわゆる正規兵の他にも,以下のような人たちもさまざまな条件下で対象とされています。「民兵」「義勇兵」さらには「住民」など。ところが「傭兵」は含まれていません。今回のロシア・ウクライナ戦争では双方の側に「傭兵」の存在が確認されています。


「捕虜」に認定されると,「ジュネーブ条約」等によって保護の対象となります。

「捕虜」と認定されない人びとは,国際法の保護の対象となりません。

ということは,「人道的な扱い」を受ける権利を失うということです。どんな扱いを受けるのでしょうか・・・


次回は「義勇兵や傭兵」について書く予定です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
もしよろしければ次回もおつきあいくださいニコニコ