随分遠回りをしたね
ずっと待ち望んでいた
どうかまた一緒に帰り道を歩けますように
私はあなたの手をとって
あなたも私の手をとって
二人笑い合って
並んで歩かせて
二人帰った家にはきっとあの甘い甘いケーキが待っている
今度こそ一緒に食べよう
約束しよう
Strawberry Cake 14
全ての記憶が蘇った今。
胸は熱い物でいっぱいだった。
何も声には出ないけれど、そこに恐怖なんてものはなくて。
ただ、ただ、温かいものを感じさせる。
この気持ちを一体どう表現すればいいのか。
苦しいけれど、嫌ではなくて。
目の前で自分を庇う背中が愛しすぎて、視界が滲んでいくのを必死にこらえていた。
「・・・ちっ・・・邪魔が入った・・・・。」
新一が立ち上がると柏村は面白くなさそうに呟く。
「男を襲う予定はなかったんだけどな・・・・まぁ見られてしまったならしょうがない・・・二人まとめて眠らせてあげるから安心していいよ。」
そう言うとクククと笑いだした。
その姿はただの犯罪者でしかなかった。
あの優しい先生はどこにいってしまったのか。
全身に寒気が走るのを感じて蘭は自分を庇う背中を掴む手にぐっと力を入れた。
「・・・バーロ、こっちはもう全部わかってんだよ。」
「・・・・・?」
新一は俯き気にフッと笑うと口を開き始めた。
「被害者は5人・・・その共通点は全員が一人暮らしの女性であること。」
新一がゆっくりと語りだすと柏村はわずかに表情を顰めた。
「ただ女性を狙った愉快犯のように感じるが、今までの怪我を負わせただけの犯行はただのカモフラージュ、犯人の本当の狙いはたった一人の人物。そう・・・・それは5人目の被害者だ。」
「・・・・・。」
「ただ続いただけで、運悪く命まで奪う事になった不幸な事件・・・で誤魔化そうとしているがこれは計画的殺人事件。」
淡々と語る新一の口調は本物の探偵のようだった。
幼き頃、将来の夢を語る新一の姿が今の姿と重なって見えた。
あぁ、やっぱり彼だ。
彼がここにいるのだ。
「・・・どこにそんな証拠があるっていうんだよ。」
「それは一人暮らしの女性を狙っているという理由から推測出来る。5人目の被害者はあんたの元恋人。調べたらすぐわかったよ。」
「・・・・・っ。」
「5人目の被害者にはつい最近別れた恋人がいたという情報・・・・そしてその恋人は一人ではなかったという事も・・・。」
「・・・・や・・・めろ・・・っ。」
新一の止まらない口に、柏村は身体を小刻みに震えさせた。
「被害者はとても男女の交友関係が乱れていた・・・あんたは全く他の男の存在に気付かず被害者に尽くしていた・・・しかし被害者の裏切りを知り別れたものの被害者への憎しみがが生まれた・・・次第に一人暮らしをしている女性を見ては被害者の事を思い出すようになり更に憎悪が増していった・・・そして今回の犯行を思いついたんだ。」
「ー・・・・そうさ!全部アイツが悪いんだ!!俺はアイツだけを愛していたんだ・・・それなのにアイツはアイツは・・・・。」
柏村は新一の問いかけに何かが切れたように頭を抱えて叫びだした。
「女はずるい生き物だ、特に一人暮らしをしている女は何より醜い!囚われるものがなくて何もかもが自由だと勘違いしている。アイツらは俺を嘲笑って楽しむ魔物だ。だから俺が制裁を下したんだ・・・・そう、俺は間違っていない!・・・間違っていない!正義なんだ・・・・ふっ・・・・・あはははは!!」
両膝をついて空を見上げながら柏村は笑いだす。
もうここにいるのはただの人間じゃない。
全身を黒く染め上げた凶悪犯罪者だ。
「・・・俺を悪者扱いするなんて馬鹿げてる。あぁ、そうか・・・君達も俺に裁いてほしいんだろう?」
両手で顔を覆って指の隙間から狂気に満ちた瞳でコチラを見てくる。
足の痛みがズキズキと疼き、身体の身動きがとれない。
今にも襲いかかってきそうだ。
「・・・さぁ、どちらから赤く染めてあげようか。」
「ー・・・・っ。」
ナイフを振り上げてこちらに一歩進もうとした姿を確認したと同時に新一が口を開いた。
「・・・・バーロ、俺が何の準備もしないでノコノコ現れると思ってんのか?」
「・・・・・何?」
「人の命の重みも、犯罪をしでかす事の覚悟も甘くみてる奴が、正義を気取るなよ。」
カッ
「ー・・・・っ!!」
突然柏村の後ろからライトが放たれた。
そのライトの前に立つのは・・・・・・警察だ。
「柏村・・・・お前は完全に包囲されている、無駄な抵抗は止めて、おとなしく手を挙げろ!!」
スピーカー越しに聞こえてきた声に蘭の全身の力が抜けた。
「なっ・・・・何で・・・・!?」
「最後の犯行があった時からすぐにあんたの身元はわれてたんだよ、それからはあんたの素行を探っていたんだ、警察の協力のもとにな。」
「けっ警察の協力?・・・お前・・・一体何者なんだ?」
まさかの事態に取り乱す柏村に向かい、新一はフッと微笑してみせた。
「・・・・・・工藤新一・・・探偵さ。」
「・・・・・たっ探偵?」
そう言い放った新一に思わず見とれる。
「・・・・っ・・・・こんな所で掴まってたまるか!」
柏村はこの場から逃げ出そうと新一に背を向けた。
すると新一はたまたま近くに落ちていた空き缶を見つけるとそれを足元に丁寧に場所を決めて置き口を開き始めた。
「そうそう、あと・・・・サッカーを趣味とする無邪気な中学生男子でもある。」
次の瞬間には新一の右足が蹴った空き缶が見事な弧を描き柏村の後頭部に直撃。
柏村はその場に倒れ込む。
「ゴォーール!!」
倒れこむ柏村に覆いかぶさる警察陣。
その様子を見ながら満足気に新一ははしゃぐ。
あぁ、これも昔と同じ。
彼の見事なボールコントロールは今も健在だ。
「おぉ!工藤君!」
「お疲れ様です、目暮警部!」
恰幅のいい中年男性と新一は面識があるようで蘭の目の前で会話を交わし始めた。
「久しぶりだな!驚いたよ、君から連絡をもらって・・・まさかこっちに帰ってきていたなんてな・・・・優作君から君の活躍は聞いていたんだ・・・いやー・・・実に頼もしい!どうだい?この後、事情聴取に立ち会ってみんか?」
「久しぶりの連絡が事件絡みで申し訳なかったです・・・・有り難いお話なんですが、ちょっとヤボ用が残ってるんでこれで失礼します。」
「そうか・・・それは残念だな・・・まぁその肩の手当て位は受けていってくれ・・・深くはないのか?」
「あっそういえば・・・忘れてました・・・・それほど深くはなさそうです、すぐ近くに医療に詳しい知人がいるので、なんとかなると思います。」
「大丈夫かね?・・・・まぁ無理にとは言わんが・・・・今回は捜査に協力感謝しているよ、今後も期待しているよ。後日、工藤君にも署に来てもらうようになると思うからよろしく頼むよ。」
「はい!あっ・・・あと一つ警部にお願いしたいことがー・・・。」
:::
「・・・・・大丈夫?」
「えっ・・・?」
蘭は突然後ろから掛けられた声に驚き振り向くとそこには湯気の出たマグカップを二つ持った志保が立っていた。
「みっ宮野さん?」
あの後、新一に連れられて、新一の自宅の隣の家にお邪魔している。
風呂を借りて血のついた身体を洗い流した。
「私、ここに住んでいるのよ、彼に頼まれて警察に通報したのも私。」
「新一に?」
「・・・・あら?その呼び方・・・・もしかしてあなた・・・。」
「あっ・・・・はい・・・・全部思いだしました。」
「そう・・・良かったわね。」
持っていた一つのマグカップを差し出しながら、蘭を見て微笑む志保は今までとは違ってどこか優しく一段と綺麗に写った。
マグカップからはほんの少しの苦みとほのかな甘い香り。
カップから伝わる温かさに蘭はホッとする。
「あの・・・新一は?」
「あぁ、さっき治療を終えて、今着替えてるわ。」
志保の答えにそうですか、と返事を返した蘭はどこか心が落ち着かない。
チラっと目の前に腰掛ける志保を見ては視線を自分のマグカップへ戻す行為を繰り返していると、クスッと志保が笑ったのに気付き、顔を赤く染めた。
「気になる事があるならどうぞ。」
志保はマグカップをテーブルに置いて足を組みな直し、蘭に余裕のある笑みを向けた。
蘭はまた顔が熱くなるのを感じたがカップを持つ手に力を入れて決心したように顔をあげて口を開いた。
「あっ・・・あの、宮野さんは新一と・・・その・・・どういう関係なんですか?」
決心はしたもののどこか心細い問いかけに志保は更に笑みがこぼれそうになるのを我慢した。
「私はアメリカである研究所に入っていたんだけれど・・・彼、あっちでも探偵になるために色々な事件に首をつっこんでいてね、あっちでは結構名の知れた探偵になりつつあったの。事件の捜査で私のいた研究所なんかにもよく顔を出すようになって、彼の捜査の協力をするようになって知り合ったのよ。歳も近いし、日本出身ということで話す事も増えたりしたけど、私達の話す内容って言っても事件の事や難しい薬品についての話だったりマニアックなもの・・・まぁ、良く言えばお互い事件の解決のために手を組むパートナーって所かしら。」
「・・・パートナー・・・。」
志保の淡々とした説明に蘭は深く考えないようにと思っても、
歳も近くて事件の話も出来て・・・男と女で・・・
こんなに綺麗な人で・・・
男の人なら惹かれてしまうんじゃないだろうか・・・
と、ひたすらめくるめく不安が頭によぎる。
その様子が伝わったようで志保は再び口を開いた。
「前にも言ったでしょ?私と彼はそんな関係じゃないって・・・大体私と彼がそんな関係だとしたら今頃日本に帰ってきてるはずがないじゃない。」
「・・・・・・。」
「・・・まだ不安?」
「・・・・そんな・・・不安とかじゃなくて・・・。」
「まーいいわ、とりあえず他の疑問は全部本人に聞いてもらっていいかしら?」
「え?」
「大体、正直な所私は本当に関係ないのよね、なのにこんな協力までさせられて・・・安い謝礼じゃ満足しないわよ、工藤君。」
「~っ!?」
その名前に驚いて蘭が後ろを振り向くと、そこには着替えを済ませた新一が気まずそうな表情で佇んでいた。
「・・・・おい、余計な事言ってねーだろーな?」
「あら?余計な事ってどんな事?」
「・・・・っ蘭、行くぞ。」
面白そうに笑みを浮かべる志保に顔をしかめた新一は蘭の手をとり玄関へ向かう。
「え?ちょっ・・・しっ新一?」
蘭は突然の新一の行動に驚く。
「おっお邪魔しました。」
新一に手を引かれながら顔だけ志保を見て蘭は律義に挨拶を告げる。
志保はまたマグカップに口を付けながら軽く手を振っていた。
あっという間の出来事。
部屋の中に静けさが宿る。
羽織った白衣のポケットに片手を入れて窓から夜空を見上げる。
「今夜は星が綺麗ね。」
また一口苦みのある液体を口に含むと口元に軽く笑みをこぼした。
「・・・・・どうぞお幸せに。」
NEXT>>
:::あとがき
うおーーーっと!!
お久しぶりです。
まさかの放置しすぎの・・・そして未だに完結出来ていなかった・・・
本当に本当にお待たせしました。
もうお話忘れてしまってますよね。
お時間に余裕のある時は読み返してやって下さい。
色々ぐちゃぐちゃしててわかりづらいかもですが・・・(泣)
お待たせしたわりに話進んでいないです。
とりあえず通り魔事件解決と新一君と志保の関係を明かしました。
でもまだなんかよくわかんないので次の話で新一君にもー全部すっきりしてもらいましょう!!
次回は多分久しぶりにいちゃいちゃ・・・・になるはず・・・・笑
あと多分本当にちょっとだけお付き合い下さい。
また続き書けて良かった。
2015.07.05 kako