【レコ妖怪向けレビュー】
『バラバジャガ』に続く自前バンドを率いての作品で、神戸のウォータールー・レコーズさんから手に入れたUKオリジナル盤です。ドーン・レーベルのオレンジ・レーベルで型番はDNLS 3009っす。ゲイトフォールド・ジャケでこのレーベルらしいがっしりした作りです。内容についてはだいぶ昔にレパートワー・レコから出ていたCDでとり上げましたが、このオリジナル盤を聴いて真っ先に気づいたのが、4曲目のボサノバ調の”Joe Bean's Theme”の音がえらいちっちゃいことです。この曲だけ極端に奥に引っこんでいるということは、つまりマスタリングの問題のはずなので、先のCDはまさにリマスタリングされていたわけですね。プロデュースはドノヴァン自身があたっているので故意にそうしたのかもしれませんが、ちょっとやりすぎで聴きづらいといえば聴きづらいです。他のトラックはみなぶっといベースにでかいドラムがフィーチャーされていて、飛躍的に音質が向上した70年代初頭らしい生々しいサウンドが最高なだけに惜しいことです。前作以前までの作品群が内容的にも商業的にもあまりにすごすぎて話題に上りづらいところはあるんですが、こちらもアルバムとしてとてもすばらしいし、調べてみたら当時けっこうヒットしてるんですね。マイ・ベスト・トラックは”Roots Of Oak”で、このアルバムの中ではあたまひとつもふたつも抜きんでた傑作です。ホントこれすごい曲なので、ドノヴァン・ファンで未聴の方はぜひYouTubeででも聴いてみてクサい。そういえばアナログ盤では当時の日本盤やアメリカ盤はよく見かけるんですが、UKオリジナルはめったに出てこないと思います。もしかするとマニアには必携の1枚としてけっこう人気高いのかもしれません。

シャーリー・コリンズの新しい本『All In The Downs』入手しました。1935年生れですから今年84歳ですよ。すごいバイタリティですなあ。15年前に出た『America : Over The Water』では、アメリカ人の民俗学者で当時恋人だったアラン・ローマックスと2人で行なったフィールド・ワークの話がメインでしたが、今回は主にバラッドの詩をとりあげて、それにまつわる話をしているようです。「Downs」というのはイングランド南部・東南部の丘陵地帯の呼び名だそうです。つまりシャーリーの故郷、イースト・サセックス州のヘイスティングズのことでしょうね。索引を見てみると、先の本では全く出てこなかったアシュリー・ハッチングスとのアルビオン・カントリー(ダンス)・バンドやエッチンガム・スティーム・バンドとか、インクレディブル・ストリング・バンドやサンディ・デニーやリチャード・トンプソンなんかの名前が出てくるので、これは英フォークロック・ファンにとっては興味深い話が出てきそうで今から楽しみです。ジョー・ボイドの名前もありました。あ、それからもしかするとシャーリー自身にとってはあまり思い出したくないかもしれない、アシュリーとの破局とそれが原因で何年も歌えなくなったっちゅう話も出てくるかもしれません。あと今回は当時の写真がけっこう豊富に載っているのがうれしかったですね。見たことのないデイヴィ・グレアムとのツーショットや姉の故ドリーとの写真、エッチンガムズのライヴ写真など、若き日の女優のようなルックスからおばあちゃんになった現在まで、ありのままのシャーリーの姿を拝めることができます。そういえば未聴ですが数年前にはニュー・アルバムも出してましたし、まだまだ元気でなによりです。
実質トラフィックの作品として認識されていますが、ジャケットには表にも裏にも「Traffic」の文字はどこにも使われていなくて、ただメンバーの名前が羅列してあるだけです。スティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、デイヴ・メイソン、クリス・ウッドのオリジナル・トラフィックのメンバーに、ベースのリック・グレッチ、パーカッションの’リーバップ’クワク・バー、そして名セッション・ドラマーのジム・ゴードンっちゅう布陣による71年のライヴです。トラフィックのナンバーが3曲、デイヴ・メイソンのファースト・ソロ・アルバム『Alone Together』から2曲、ほんでスペンサー・デイヴィス・グループの”Gimme Some Lovin'”の全6曲ですから、たしかにトラフィックとはいえない内容となっています。ジム・キャパルディはもともとトラフィックの前にディープ・フィーリングというバンドでヴォーカリストを務めていたので、ドラムはジム・ゴードンに任せてまた歌いたくなってきたんですかね?ただここではウィンウッドとメイソンという名シンガーが2人もいるので、聴覚上残念ながら彼の存在感は薄いような気がします。ジム・ゴードンならではのファンキーなリズムをフィーチャーした”Medicated Goo”と”Gimme Some Lovin'”と同じくらい、デイヴの”Sad And Deep As You”と”Shouldn't Have Took More Than You Gave”がよくて、特にAメロしかない前者は彼のフォーク・ルーツが前面に出ていて泣けてしまうほどです。ハイライトは11分ある”Dear Mr. Fantasy”だと思いますが、ここでハードなギター・バトルを展開しているのがウィンウッドとメイソンだそうです。どっちがどっちだかようわかりませんが、ブルージーで流れるようなデイヴのギターは大好きでな。個人的にはこれこれ!これがデイヴ!っちゅうトレードマーク的なフレーズがあるんですけど、ここでは残念ながら出てきません。最後のファンキーな”Gimme Some Lovin'”(これも9分あり)を聴いていると、なんかすでにベテランとなった一流シンガーが余裕かましているような安定感まで感じられます。しかしこの時スティーヴはまだ22~3歳ですよ。なんとまあ・・・
セカンド・アルバム『Fairytale』(おとぎ話)のUKオリジナル盤を神戸のウォータールー・レコーズさんより入手しましたよ。まだイギリスのボブ・ディランといわれていた頃の初期の2大ヒット曲、”Catch The Wind”と”Colours”のうち、前者をフィーチャーしたのがデビュー・アルバムの『What's Bin Did And What's Bin Hid』なら、こちらは後者をフィーチャーしたアルバムとなります。同じ65年のビートルズのアルバム『Rubber Soul』を思わせるサイケ前夜のようなタイトル・ロゴは別として、’カラーズ’なのになしてこんな地味なモノクロ・ジャケにしたんですかね?ただでさえ地味な内容なのに。そして一発目の”Colours”にはアコギといっしょにバンジョーが入っていたのを初めて知りましたよ。この曲、昔たしか英シー・フォー・マイルズから出ていたEP集LPをもっていて、それに入っていたはずなのに、いかにいいかげんに聴いていたっかっちゅうことですね。翌年の”Sunshine Superman”以降から一気に面白くなる人なので、たしかに今ひとつこの時期は語られることは少ないんですが、もちろん中にはニック・ドレイクを思わせるストリングス入りの”Sunny Goodge Street”やバート・ヤンシュ作の”Oh Deed I Do”、アメリカのギタリスト/シンガーソングライターのショーン・フィリップス(未聴)の曲があったりと、よく聴くといろいろ注目すべき点はあります。しかも裏ジャケには”Song With Your Name”という曲でショーン・フィリップスがエレクトリック・ギターを担当しているとあるのに、こんなタイトルの歌はどこにも入っていない上にエレクトリック・ギターなんてどこにも使われてないじゃないすか。”The Little Tin Soldier”というのがフィリップスのクレジットになっているので、もしかすると当時ジャケの印刷が終わった後にこの曲に差し替えられたのかもしれません。のちのキラキラ・ドノヴァンに比べれば、当然アコースティック・ギターの弾き語りメインの渋いサウンドですが、メロディなんかにはすでにスコティッシュらしい陰りが漂っているし、65年にしてすでにサイケデリック・フォークを先取りしていて、そこは英フォーク・ファンの琴線に触れまくりだと思います。
ブートCDつかまされました(凹)ちゅうか自分が悪いんですが。でもこれだけビッグネームの彼らなのに、いまだに公式のBBCセッションがリリースされていないのがおかしいですよね。しょせんブートなのでおせじにも音質がよいとはいえませんが、演奏自体はたいへんすばらしいです。最初の2枚のアルバム―『Mr. Fantasy』と『Traffic』―と初期のヒット・シングルのおいしいところはほぼ全てカヴァーされているので、この内容でとっとと公式リリースしてほしいもんです。”Hole In My Shoe”と”Here We Go Round The Mulberry Bush”だけはスタジオ・ヴァージョンのバッキング・トラックを使いまわして、ヴォーカルだけBBC用に別録りされたように聞こえます。5回にわたるセッションが入っているのでダブる曲がけっこうあるんですが、この2曲は1回しか出てこないので残念といえば残念です。バンドから出たり入ったりしていた貴重なデイヴ・メイソンのヴォーカルは聞けるし、スタジオ・ヴァージョンとは違ったアレンジやアドリブに走った部分も少しだけですがあるので、ファンはたまらんと思います。レア・トラックは真っ黒なブルースの”Blindman”です。改めてスティーヴ・マリオットと並ぶ英国ソウル界最高のシンガー、スティーヴ・ウィンウッドののどに圧倒されました。以下トラック・リストです。とりあえず選曲はサイコーっす。
【レコ妖怪向けレビュー】
【レコ妖怪向けレビュー】
「それはお前/全てが真実」(イッツ・ユー~~~~ウ~~、イッツ・オール・トゥル~~~ウ~~)はこの歌のハイライトともいえる部分で、レイさんは’私にとってはこのマジカルなアルバムの中で最もマジカルな瞬間だ’といってます。アルバムの、それも2枚組のアルバムの中で頂点に達する場所が1曲目にやってくるのもどうかと思いますが、レイさんにとってはそうみたいです。このわずか二言の歌詞の説明に、’これは誕生の叫び、エクスタシーと苦痛の幼児の泣きわめきに他ならない’とまでいってます。もちろん歌詞自体よりもロビンの節回しからの連想であって、その音程の降下を’あたかも永遠の胎内世界と浮世の世界の境界を貫通するように、ファルセットから通常の声域へと移動する’と、とんでもない想像力を働かせてはります。でもたしかにこの部分気持ちいいんですよね。ちょっと途中で微妙に音程を修正しながら下がってくるところが好きです。ここからあとはメジャー調になって、なにかを悟ったようなホッとしたような安心感でハッピーな雰囲気が続きます―「僕たちが生きていることよりも不思議/それよりももっと不思議/それよりももっと不思議/なにを考えようと/それよりももっともっと不思議/ハッピー・マン/ハッピー.・マン/ベストを尽くすだけ」 で、ここで歌が終わっていたならまさにハッピーエンドとなるところが、さすが天のじゃくロビンちゅうかISBらしく、今までの輪廻をテーマとした展開から一転、輪廻とは矛盾する(キリスト教的な)’天国行き’を賛美する救世軍の陽気な合唱に移行するわけっす。あと少しなんで歌詞は省略しますが、この部分にも今度はユダヤ教、キリスト教では否定的に扱われる’金(きん)’や’黄金’なんかも出てきて、レイさんの考えでは’これぞ絶美なる矛盾、故意の多義性’の採用だとしています。ひねくりまくりですね。そしてレイさんの見解では、ロビンは少なくとも当時はキリスト教信仰によって断定された整然とした倫理的世界を、’とにかく存在することのまったく言葉に表せない不思議さの拒絶’において不十分なものとして見ていたのではないかということです。しかし!一方でキリスト教信仰を信用に値しない迷信として退けるのは、きわめて重大で不可欠な見識を捨て去るリスクを冒すことなる―なぜならそれは気分を引き立たせる誠実な人間的表現を無視する、あるいは退ける冷酷な合理主義者になることだからだ、といってます。ここはレイさん説の白眉といえる部分やと思います。で、最後にちょっと頭を冷やしてみたのか、「ちょっとオレ考えすぎ?」といったりもしてますが、そこは王道(と思う)といえる芸術論―’真の芸術はしばしば創作者の全く、あるいは漠然としかもち合わせていない意図の内に効果を生ずることがある’をひっぱり出してきて説得力をもたせています。さらにロビンとマイクのインタビューの引用では、「人々が歌の中にもともと存在しないものを深読みしてしまう危険はない?」と聞かれた2人は、「いや、危険はないね。それはみんなのもつ個人的な権利だ―それぞれが独自の解釈をするっていうね」「特定の歌にどういう説明をしようと、それはリスナーの特権だ」と答えています。これはいかにもディランもいいそうな、今では多くのアーチストの一般的な姿勢じゃないですかね?そういう意味ではレイさんのこのけた外れな想像力、アッパレだと思います。以上長くなりましたが”Job's Tears”はこれでオシマイです。ご清聴ありがとうございました。