商標が他人の氏名にあたるとされた例 | SIPO

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審決例(商標):商4-1-8号該当性6

 

<審決の要旨>

『(1)商標法第4条第1項第8号の趣旨について

 ア 商標法第4条第1項第8号の趣旨は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される。したがって、同号本文に該当する商標につき商標登録を受けようとする者は、他人の人格的利益を害することがないよう、自らの責任において当該他人の承諾を確保しておくべきものである(最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決、最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決)。

 イ 商標法第4条第1項第8号は、その規定上、雅号、芸名、筆名、略称については、「著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」として、著名なものを含む商標のみを不登録とする一方で、「他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」については、著名又は周知なものであることを要するとはしていない。また、同号は、人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として規定するものでもない。したがって、同号の趣旨やその規定ぶりからすると、同号の「他人の氏名」が、著名性・希少性を有するものに限られるとは解し難く、また、「他人の氏名」を含む商標である以上、当該商標がブランドとして一定の周知性を有するといったことは、考慮する必要がないというべきである(知財高裁平成31年(行ケ)10037号令和元年8月7日判決)。

(2)本願商標の商標法第4条第1項第8号該当性について

 本願商標は、別掲1のとおり、「THE SHOP」と「YOHJI YAMAMOTO」の文字を上下に表してなる。

 一般に、我が国では、名刺やパスポート、クレジットカード、ウェブサイト等での氏名のローマ字表記において、氏名を「名」、「氏(姓)」の順で表記するところ、本願商標の構成中、「YAMAMOTO」の文字部分は、ありふれた氏である「山本」のローマ字表記を認識させるものである。そして、構成中、「YOHJI」の文字部分のうちの「OH」の部分が、人名の「オー」又は「オウ」の音をローマ字表記する際にしばしば使用されるものであるから、当該文字は「ヨウジ」と読めるものであり、「YAMAMOTO(山本)」と組み合わせた際に「ヨウジ」が名を表すものとして自然に看取し得るものである。

 そうすると、本願商標の構成中、下段の「YOHJI YAMAMOTO」の文字部分は、「ヤマモト(氏)ヨウジ(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり、本願商標は「人の氏名」を含む商標であると認められる。

 そして、原審において説示のとおり、実際に「ヤマモトヨウジ」と読まれる「山本洋二」や「山本洋司」といった者が存在し、その存在は本件審決の時点でも、少なくとも別掲2のとおり確認することができる。

 また、別掲2に掲げる人名は、いずれも、令和2年10月5日付け手続補足書で提出された承諾書に記載された者とは別の他人であると認められ、かつ、請求人は、それら他人の承諾を得ているとは認められないから、本願商標は、商標法第4条第1項第8号所定の、他人の氏名を含む商標であって、かつ、その他人の承諾を得ていないものである。

 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第8号に該当する。(下線・着色は筆者)』(不服2022-20090)。

 

<所感>

審決は妥当なところと思われる。なお、請求人は、「Yohji Yamamoto」が、長年にわたる使用により一定の著名性を有し、ファッションデザイナーの氏名のブランドであると一般に認識されていることなどから、本願商標は、商標法第4条第1項第8号を適用することは妥当ではない等と主張したが、採用されなかった。先般改正された商標法では他人が知名度を有しなければその承諾を必要としないから今なら登録を受けられるかもしれない。その意味ではデザイナーなどの氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界の要望に応えられるであろう。