審決例(商標):商4-1-15号該当性3
<審決の要旨>
『1 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について
(1)引用商標の周知著名性について
請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、請求人は、大正2年2月に創立された創業110年の文房具、事務用品メーカーであり、昭和38年に引用商標「MONO」を付した請求人鉛筆の販売を開始したこと、請求人は、永年に亘り、カタログ及びリーフレットによって、請求人商品に引用商標を使用していること、展示会やイベント等で引用商標を積極的に使用しており、また、展示会やイベント等の模様が各種雑誌に取り上げられていること、請求人鉛筆が31.6%の2位、修正用品(修正テープ、修正ペン、修正液)が41.9%の1位、消しゴムが32.5%の1位と請求人商品は特に高いシェアを誇っていること、全国一般紙や業界誌や文具に特化した雑誌等により請求人商品が紹介されていること等が確認できる。
そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である。
(2)本件商標と引用商標の類似性とその程度について
ア 本件商標について
本件商標は、上記第1のとおり、ややデザイン化された「mono」の欧文字と「bo」の欧文字とを記号「-」(ハイフン)を介して結合してなるものであるところ、本件商標を構成する「mono」の欧文字、「-」の記号及び「bo」の欧文字を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く、むしろ、本件商標の構成前半の「mono」の欧文字と後半の「bo」の各欧文字は、記号「-」(ハイフン)を介して視覚上明確に分離して観察される。
そして、「mono」の欧文字は、「MONO」の欧文字を小文字で表記したものと容易に認識できるところ、上記(1)のとおり、「MONO」は、請求人鉛筆等の請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当であるから、これを小文字で表記した「mono」の欧文字は、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきである。
他方、「bo」は、欧文字2字で構成されるものであり、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる。
そうすると、本件商標は、その構成中「mono」の欧文字を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるということができる。
したがって、本件商標は、その要部である「mono」の欧文字より、「モノ」の称呼が生じ、当該文字は、「モノラルの」の意味を有する英語(出典:研究社 新英和中辞典)であり、かつ、請求人商品のブランド名を表示するものであるから、「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が生じるものである。
イ 引用商標について
引用商標1は、上記第2の1のとおり、「MONO」の欧文字を横書きしてなり、引用商標2は、上記第2の2のとおり、「MONO」の文字を標準文字で表してなるものである。
したがって、引用商標は、「モノ」の称呼が生じ、「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が生じるものである。
ウ 本件商標と引用商標の類似性とその程度について
本件商標と引用商標は、上記ア及びイのとおりの構成よりなるところ、両商標は、構成全体としては、「-」及び「bo」の欧文字の有無において明らかに相違するとしても、本件商標の要部である「mono」の欧文字と引用商標は、大文字と小文字の違いはあるものの、その構成文字を共通にすることから、これらは、外観上、近似した印象を与えるものである。
そして、これらは、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が共通するものである。
そうすると、本件商標と引用商標は、外観において近似した印象を与え、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念を共通にする互いに相紛れるおそれのある類似する商標であるといえ、類似性の程度は高いといえる。
(3)請求に係る商品と請求人商品との関係性並びに取引者及び需要者の共通性について
請求に係る商品は、「文房具類」を含む商品であり、請求人商品は、鉛筆等の文房具類に該当する商品であるから、これらの商品の関連性の程度は非常に高く、取引者及び需要者を共通にする商品である。
(4)出所の混同のおそれについて
上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものであり、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は、外観において近似した印象を与え、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念を共通にする互いに相紛れるおそれのあり、類似性の程度は高いものであり、上記(3)のとおり、請求に係る商品は、請求人商品と商品の関連性の程度は非常に高く、取引者及び需要者を共通にする商品である。
そうすると、商標権者が、本件商標を請求に係る商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、引用商標を想起又は連想するというべきであり、本件商標が使用された請求に係る商品が、請求人である株式会社トンボ鉛筆又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について、混同を生じさせるおそれがあるというべきである。
したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。(下線・着色は筆者)』(無効2023-890003)。
<所感>
審決は無効審判事件に関するものであるが、被請求人がまったく答弁していないところをみると請求人の登録商標(引用商標)を事前に知っていて、それを避ける工夫をして本件商標を出願したとも受け取れる。よって、審決の決定は全体としては妥当なところであろう。被請求人が上記のようなことを十分に意図したうえで「mono」の欧文字と「bo」の欧文字をややデザイン化したり、両文字を記号「-」(ハイフン)を介して結合して一体不可分性を得ようとしてもそれは無理なこととした審決に賛同したい。