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審決例(商標):商4-1-15号該当性3

 

<審決の要旨>

『1 本件商標の商標法第4条第1項第15号該当性について

(1)引用商標の周知著名性について

 請求人提出の甲各号証及び同人の主張によれば、請求人は、大正2年2月に創立された創業110年の文房具、事務用品メーカーであり、昭和38年に引用商標「MONO」を付した請求人鉛筆の販売を開始したこと、請求人は、永年に亘り、カタログ及びリーフレットによって、請求人商品に引用商標を使用していること、展示会やイベント等で引用商標を積極的に使用しており、また、展示会やイベント等の模様が各種雑誌に取り上げられていること、請求人鉛筆が31.6%の2位、修正用品(修正テープ、修正ペン、修正液)が41.9%の1位、消しゴムが32.5%の1位と請求人商品は特に高いシェアを誇っていること、全国一般紙や業界誌や文具に特化した雑誌等により請求人商品が紹介されていること等が確認できる。

 そうすると、引用商標は、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当である

(2)本件商標と引用商標の類似性とその程度について

 ア 本件商標について

 本件商標は、上記第1のとおり、ややデザイン化された「mono」の欧文字と「bo」の欧文字とを記号「-」(ハイフン)を介して結合してなるものであるところ、本件商標を構成する「mono」の欧文字、「-」の記号及び「bo」の欧文字を分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいい難く、むしろ、本件商標の構成前半の「mono」の欧文字と後半の「bo」の各欧文字は、記号「-」(ハイフン)を介して視覚上明確に分離して観察される。

 そして、「mono」の欧文字は、「MONO」の欧文字を小文字で表記したものと容易に認識できるところ、上記(1)のとおり、「MONO」は、請求人鉛筆等の請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものと判断するのが相当であるから、これを小文字で表記した「mono」の欧文字は、取引者、需要者に対し、商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものというべきである。

 他方、「bo」は、欧文字2字で構成されるものであり、出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる。

 そうすると、本件商標は、その構成中「mono」の欧文字を要部として抽出し、この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも許されるということができる。

 したがって、本件商標は、その要部である「mono」の欧文字より、「モノ」の称呼が生じ、当該文字は、「モノラルの」の意味を有する英語(出典:研究社 新英和中辞典)であり、かつ、請求人商品のブランド名を表示するものであるから、「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が生じるものである。

 イ 引用商標について

 引用商標1は、上記第2の1のとおり、「MONO」の欧文字を横書きしてなり、引用商標2は、上記第2の2のとおり、「MONO」の文字を標準文字で表してなるものである。

 したがって、引用商標は、「モノ」の称呼が生じ、「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が生じるものである。

 ウ 本件商標と引用商標の類似性とその程度について

 本件商標と引用商標は、上記ア及びイのとおりの構成よりなるところ、両商標は、構成全体としては、「-」及び「bo」の欧文字の有無において明らかに相違するとしても、本件商標の要部である「mono」の欧文字と引用商標は、大文字と小文字の違いはあるものの、その構成文字を共通にすることから、これらは、外観上、近似した印象を与えるものである。

 そして、これらは、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念が共通するものである。

 そうすると、本件商標と引用商標は、外観において近似した印象を与え、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念を共通にする互いに相紛れるおそれのある類似する商標であるといえ、類似性の程度は高いといえる。

(3)請求に係る商品と請求人商品との関係性並びに取引者及び需要者の共通性について

 請求に係る商品は、「文房具類」を含む商品であり、請求人商品は、鉛筆等の文房具類に該当する商品であるから、これらの商品の関連性の程度は非常に高く、取引者及び需要者を共通にする商品である。

(4)出所の混同のおそれについて

 上記(1)のとおり、引用商標は、本件商標の登録出願時ないし登録査定時において、請求人商品を表示するものとして、我が国の需要者の間に広く認識されていたものであり、上記(2)のとおり、本件商標と引用商標は、外観において近似した印象を与え、「モノ」の称呼と「モノラルの」及び「請求人商品のブランド名」の観念を共通にする互いに相紛れるおそれのあり、類似性の程度は高いものであり、上記(3)のとおり、請求に係る商品は、請求人商品と商品の関連性の程度は非常に高く、取引者及び需要者を共通にする商品である。

 そうすると、商標権者が、本件商標を請求に係る商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者が、引用商標を想起又は連想するというべきであり、本件商標が使用された請求に係る商品が、請求人である株式会社トンボ鉛筆又は同社と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について、混同を生じさせるおそれがあるというべきである。

 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。(下線・着色は筆者)』(無効2023-890003)。

 

<所感>

審決は無効審判事件に関するものであるが、被請求人がまったく答弁していないところをみると請求人の登録商標(引用商標)を事前に知っていて、それを避ける工夫をして本件商標を出願したとも受け取れる。よって、審決の決定は全体としては妥当なところであろう。被請求人が上記のようなことを十分に意図したうえで「mono」の欧文字と「bo」の欧文字をややデザイン化したり、両文字を記号「-」(ハイフン)を介して結合して一体不可分性を得ようとしてもそれは無理なこととした審決に賛同したい。

審決例(商標):商4-1-15号該当性2

 

<審決の要旨>

『(1)商標法第4条第1項第15号該当性について

 ア 商標法第4条第1項第15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には、当該商標をその指定商品又は指定役務に使用したときに、当該商品又は役務が他人の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標のみならず、当該商品又は役務が上記他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品又は役務であると誤信されるおそれがある商標が含まれる。そして、上記の「混同を生じるおそれ」の有無は、当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品又は役務の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきものである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁)。

 イ 「神戸牛」の文字の周知性について

 別掲2で提示した事実によれば、「神戸牛」は、「兵庫県産の和牛の肉」を示すものとして、全国的に名前を知られた有名ブランドであり、一般の全国紙を含む新聞記事やインターネット記事において広く紹介されている事実があるといえる。

 また、引用商標は、兵庫県食肉事業協同組合連合会が、その構成員に使用をさせる商標であって、その商標が使用された結果自己又はその構成員の業務に係る商品である第29類「兵庫県産の和牛の肉」を表示するものとして需要者の間に広く認識されていることを理由に、当該商品を指定商品として、平成19年8月3日に地域団体商標の商標登録(登録第5068216号)を受け、現に有効に存続しているものである。

 そうすると、引用商標は、「兵庫県産の和牛の肉」を示すものとして、本願商標の登録出願日の時点において、本願商標の指定役務の取引者、需要者の間に広く認識されて、一定の周知性を有していたものであって、その周知性は、現在においても継続しているものと認められる。

 ウ 本願商標と引用商標について

 (ア)本願商標

 本願商標は、別掲1のとおり、中央に白抜きで牛の頭部とおぼしき図形を有する赤色の下部に飛び出し線を有する略円形状の図形を左側に配し、当該図形の下部に、「USHI‐EMON」の文字を赤色で横書きし、その右側に「神戸牛衛門」の文字を筆文字風の書体にて、黒色で大きく目立つように横書きしてなるものである。

 そして、本願商標の構成中、大きく目立つように表された「神戸牛衛門」の文字部分の中でも、とりわけ看者の目をひきやすい語頭に位置する「神戸牛」の文字は、上記イのとおり、兵庫県食肉事業協同組合連合会及びその構成員の業務に係る周知な商標と認識されるものであるから、当該文字部分の自他役務識別標識としての機能は高いといえる。

 そうすると、本願商標は、構成中の「神戸牛」の文字部分に相応して「コウベギュー」の称呼及び「兵庫県食肉事業協同組合連合会及びその構成員の業務に係る周知な「神戸牛」」の観念を生じ得る。

 (イ)引用商標

 引用商標は、「神戸牛」の文字を標準文字で表してなるところ、「コウベギュー」の称呼及び「兵庫県食肉事業協同組合連合会及びその構成員の業務に係る周知な「神戸牛」」の観念が生ずる。

 (ウ)本願商標と引用商標の類似性の程度

 本願商標と引用商標は、それぞれ上記(ア)及び(イ)のとおりの構成からなるところ、本願商標はその構成中、大きく目立つように表された「神戸牛衛門」の文字部分において、周知性があり、看者の注意を引きやすい語頭の「神戸牛」の文字が引用商標と同一であって、全体の5文字のうち3文字までを引用商標と共通にするから、両者は外観上相紛らわしいといえる。

 そして、両者は「コウベギュー」の称呼及び「兵庫県食肉事業協同組合連合会及びその構成員の業務に係る「神戸牛」」の観念を共通にするから、称呼及び観念においても相紛らわしいものである。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても相紛らわしいものであるから、両商標は相当程度高い類似性を有するものというべきである。

 エ 引用商標の独創性について

 引用商標の「神戸牛」は、地域の名称である「神戸」の文字と引用商標の指定商品の普通名称である「牛」の文字からなる地域団体商標であるから、その構成自体は独創的なものではない。

 オ 本願の指定役務と引用商標の商標権者の業務に係る商品の関連性及び需要者の共通性について

 本願商標の指定役務と引用商標の指定商品は、役務の提供と商品の製造・販売が同一事業者によって行われ得るものであり、役務と商品の用途、役務の提供場所と商品の販売場所及びこれらの需要者の範囲が一致する場合があるといえる。

 カ 出所の混同を生ずるおそれについて

 以上のとおり、本願商標と引用商標とは、相当程度高い類似性を有するものであること、引用商標は「兵庫県産の和牛の肉」を示すものとして、一般需要者の間に広く認識され、周知性を獲得しているものであること、引用商標の指定商品は本願の指定役務と類似する商品及び関連性が高い商品であって、取引者、需要者層を共通にすることから、本願商標の指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば、本願商標は、その構成中、語頭の「神戸牛」の文字に着目し、引用商標を連想又は想起させることが少なくないと判断するのが相当である。

 そうすると、本願商標をその指定役務に使用するときは、取引者、需要者をして周知となっている引用商標を連想又は想起し、その役務が他人(引用商標の商標権者又はその構成員)あるいは同人と経済的若しくは組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る役務であるかのように誤認し、その役務の出所について混同を生ずるおそれがあるものというべきである。

 したがって、本願商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。(下線・着色は筆者)』(不服2023-14770)。

 

<所感>

審決は最高裁の判例に沿っており、概ね妥当なところであろう。特に本件の場合は引用商標が地域団体商標として登録され、あらかじめその地方では周知であったこともあり、法適用が容易だったように思う。請求人は、本願商標は殊更に「神戸牛」のみに着目されるべきものでなく、「神戸牛衛門」という造語からなる商標、又は、「神戸・牛衛門」なる地名を含む造語からなる商標と認識・把握されるものであるとか、過去の登録例を挙げて、本願商標も同様に判断されるべきである等、主張したが、いずれも説得力に欠け退けられた。

審決例(商標):商3-1-6号・4-1-16号該当性3

 

<審決の要旨>

『本願商標は、「MF-TUBE」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列でまとまりよく表してなるため、一連一体の語を表してなると看取できる。また、本願商標の構成中「MF」の文字部分は、欧文字2字を組み合わせたものであり、「M」及び「F」を頭文字とする複数の語の略語として辞書に掲載されており、また、「TUBE」の文字部分は「管」の意味を有する語(いずれも「ランダムハウス英和大辞典第2版」小学館参照)であるところ、それらを「-(ハイフン)」で結合した本願商標は、構成文字全体よりなる造語を表してなると認識、理解できる

 そうすると、本願商標は、原審説示のような意味合いの自他識別力を欠く語を表してなるものではなく、むしろ、その構成文字全体をもって特定の意味合いを有することのない一体不可分の造語として、自他商品の出所識別標識として機能し得るものである。

 また、当審において職権をもって調査するも、本願商標の指定商品に係る業界において、「MF-TUBE」又はそれに類する文字が、商品の品質、種別等を具体的に表示するものとして取引上一般的に使用されている事実は発見できず、さらに、本願商標に接する取引者、需要者が、当該文字を商品の品質等を表示したものと認識するというべき事情も発見できなかった。

 してみれば、本願商標は、その指定商品に使用しても、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものとはいえず、かつ、商品の品質の誤認を生ずるおそれはない。

 したがって、本願商標は商標法第3条第1項第6号及び同法第4条第1項第16号に該当しないから、それらに該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。(下線・着色は筆者)』(不服2022-21416)。

 

<所感>

審決は、原審の判断を覆した内容となっている。すなわち原審の要旨は「本願商標の構成中の「MF」の文字は、商品の品番、型番等を表すための記号、符号として理解され、「TUBE」の文字は、「タイヤの中側にある、空気を入れたゴム管。」の意味を表す語であって、指定商品「自転車用タイヤチューブ,二輪自動車用タイヤチューブ,車いす用タイヤチューブ」等との関係においては、商品の普通名称を表すものとして認識される。また、本願商標に係る指定商品を取り扱う業界において、欧文字2字が商品の品番や型番等を表すための記号、符号として取引が行われている実情がある。そうすると、本願商標は、商品の品番や型番等を表す語と、商品の普通名称を表す語とをハイフンで結合したにすぎないから、本願商標をその指定商品に使用しても、これに接する需要者等は、自他商品の識別標識としてではなく、「MFの品番又は型番のチューブ」程の意味合いを認識するにとどまり、本願商標は、需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない商標」である。

 上記から審決と原審では主に「MF」の文字の取り扱い、両語を結ぶハイフンに対する見方に相違があることがわかる。この審決は出願人にとってはあきらめずに反論すれば登録になる可能性があることを示唆しているようにも思えるし、出願人に緩い感じのする判断だと思う。

 

審決例(商標):類否162

 

<審決の要旨>

『(1)本願商標について

 本願商標は、「福まん」の文字のうち、「福」の文字の一部を図案化し、ややレタリングされた丸みのある字体で表してなるところ、「福まん」は、辞書等に掲載のない語であり、我が国において特定の意味合いを有する語として一般に知られているとはいえないものであるから、本願商標よりは、その構成文字に相応して「フクマン」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものである。

(2)引用商標1及び2について

 引用商標1は、「福満」の文字を標準文字で表してなるところ、これらの文字に相応して「フクマン」の称呼を生じるものである。

 引用商標2は、「ふくまん」及び「福満」の各文字を上下二段に表してなるところ、「ふくまん」の平仮名は、「福満」の漢字の読みを表したものと理解されるものであり、これらの文字に相応して「フクマン」の称呼を生じるものである。

 また、引用商標1及び2の「福満」の文字部分は、「福」と「満」の漢字を組み合わせたものであって、「福満」自体は既存の語ではないものの、これを構成する漢字の意味合いから、取引者、需要者に対して、「福が満ちる」程の観念を想起させるものといえる。

 そうすると、引用商標1及び2よりは、「フクマン」の称呼を生じ、「福が満ちる」程の観念を生じるものである。

(3)本願商標と引用商標1及び2の類否について

 本願商標と引用商標1及び2を比較するに、外観においては、両者は判然と区別し得るものであり、外観上、相紛れるおそれはない。

 また、称呼においては、両者は、「フクマン」の称呼を共通にするものである。

 さらに、観念においては、本願商標が特定の観念を生じない一方、引用商標1及び2よりは、「福が満ちる」程の観念を生じるものであることから、両者は、観念上、相紛れるおそれはない。

 そうすると、本願商標と引用商標1及び2とは、称呼において共通するとしても、外観及び観念において明確に区別できるものであるから、これらが与える印象、記憶、連想等を総合してみれば、商品の出所について誤認混同を生じるおそれはなく、非類似の商標というのが相当である。(下線・着色は筆者)』(不服2023-13620)。

 

<所感>

審決は、「外観・観念」対「称呼」で前者が優位するとの判断である。前々回の審決(図形+ユメ事案)と同じような内容である。今回は観念も類似しないと判断したが、仮に観念が比較しにくく、対比できない場合であっても判断は変わらないのではないか。

審決例(商標):類否161

 

<審決の要旨>

『(1)本願商標について

 本願商標は、「ナナちゃん」の文字を標準文字で表してなるものである。そして、その構成中「ちゃん」の文字は「人名、または、人を表す名詞に付けて、親しみを込めて呼ぶときなどに用いる。」(「デジタル大辞泉」小学館)の意味合いを有するところ、構成文字全体からは直ちに特定の観念を生じないものの、「ナナという人の愛称」のごとき漠然とした意味合いを連想させる場合もある。

 そうすると、本願商標は、その構成文字より「ナナチャン」の称呼を生じ、「ナナという人の愛称」ほどの漠然とした意味合いを連想させるが、特定の観念は生じない。

(2)引用商標について

 引用商標は、カップに口をつけようとしている様子の人間の横顔を描いた図形の下に「NANA CHA N」の欧文字を配してなる。そして、引用商標の構成中「NANA CHA N」の欧文字部分は、「ナナ チャ ン」と発音できるが、辞書などに掲載されていない語である。他方、引用商標の構成中、図形部分は、カップに口をつけようとしている様子の人間の横顔を描いてなるものの、具体的な称呼や観念は生じない。

 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「ナナ チャ ン」の称呼を生じるが、特定の観念は生じない。

(3)本願商標と引用商標の比較

 本願商標と引用商標を比較すると、外観においては、図形の有無及び文字種の相違により、構成全体としては、印象が異なる。また、称呼においては、構成音を共通にするものの、一連の語として称呼される本願商標に対して、引用商標は「ナナ」と「チャ」と「ン」の間が区切って発音されることから、全体の語調、語感による印象は異なるものになる。さらに、観念においては、いずれも特定の観念を生じないから、比較できないものの、漠然と連想させる意味合いにおいて差違がある。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において印象が異なるから、これらの外観、称呼及び観念等によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、その出所について相紛れるおそれはなく、類似の商標とは認められない。(つまり、非類似の商標である)(下線・着色は筆者)』(不服2023-16711)。

 

<所感>

審決は、上記のように判断したが、取引者・需要者が取引に際し称呼につき納得感が得られるであろうか。特に「引用商標は「ナナ」と「チャ」と「ン」の間が区切って発音されることから、全体の語調、語感による印象は異なる」とした点である。迅速な取引の実情に鑑みれば、文字の前後に多少のスペースが開いていても一連に称呼されるので、全体としては本願商標と同様に「ナナチャン」と称呼されるのではないだろうか。私には類似の範囲をできるだけ狭くしたい意向としか思えない。

 

審決例(商標):類否160

 

<審決の要旨>

『(1)本願商標

 本願商標は、ヤギと思しき動物を擬人化したキャラクター図形(以下「キャラクター図形」という場合がある。)を表し、その下に、キャラクター図形の胴部とほぼ同じ横幅からなり、枠線に沿ってステッチを施したピンク色地の横長長方形内に「ユメ」の文字(以下「文字部分」という場合がある。)を白抜きで表した構成よりなるものである。そして、キャラクター図形と文字部分とは近接して表示されていることや、キャラクター図形の一部に彩色されたピンク色及び赤色が、文字部分に施されたピンク色と同系色であることも相まって、構成全体としてまとまりよく表されているといい得ることから、構成中の「ユメ」の文字は、そのすぐ上に位置するキャラクター図形の名称又は愛称を表したものと無理なく理解、認識できるものである。

 そうすると、本願商標からは、その構成中の「ユメ」の文字に相応して「ユメ」の称呼が生じ、また、構成全体から「「ユメ」という名称又は愛称のヤギと思しき動物を擬人化したキャラクター」ほどの観念が生じるものと見るのが相当である。

(2)引用商標

 ア 引用商標1は、「夢」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は「睡眠中に持つ幻覚。空想的な願望。」等を意味(「広辞苑第7版」株式会社岩波書店)する一般に慣れ親しまれている語であるから、その構成文字に相応して、「ユメ」の称呼を生じ、「睡眠中に持つ幻覚。空想的な願望。」等の観念を生ずる。

 イ 引用商標2は、「YUME」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、一般の辞書類に掲載されている既成の語ではないが、我が国において親しまれた英語読み又はローマ字読みに倣って自然に称呼される「ユメ」の称呼は、「睡眠中に持つ幻覚。空想的な願望。」等を意味(前掲書)する一般に慣れ親しまれた「夢」の語に通ずるものであるから、引用商標2よりは、上記アと同様に「ユメ」の称呼を生じ、「睡眠中に持つ幻覚。空想的な願望。」等の観念を生ずる。

(3)本願商標と引用商標との類否

 本願商標と引用商標との類否について検討するに、外観においては、キャラクター図形の有無及び構成文字の文字種を片仮名と漢字若しくは欧文字と異にすることから、明確に区別することができるものである。

 そして、称呼においては、「ユメ」で同一であり、観念においては、本願商標から生じる「「ユメ」という名称又は愛称のヤギと思しき動物を擬人化したキャラクター」と、引用商標から生じる「睡眠中に持つ幻覚。空想的な願望。」等とは、観念上、明らかに区別し得るものである。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、称呼が共通するものの、外観及び観念においては明確に区別することができるものであって、本願商標及び引用商標の指定商品及び指定役務において、取引者、需要者が、専ら商品及び役務の称呼のみによって商品及び役務を識別し、商品及び役務の出所を判別するような実情があるものとは認められず、また、称呼による識別性が、外観及び観念による識別性を上回るとはいえないことから、両商標が与える印象、記憶等を総合してみれば、商品の出所について誤認混同を生じるおそれのない非類似の商標というのが相当である。(下線・着色は筆者)』(不服2023-7703)。

 

<所感>

審決は、「外観・観念」対「称呼」で前者が優位するとの判断である。ただ観念の対比が判断を左右したように感じる。いずれにしても称呼より外観の類似性を重く見る近年の傾向が反映されている。称呼が同一でも外観を違わせれば類似しなくなるということである。

 これに対して、原審(原査定)では次のように真逆の判断している。「本願商標の構成中の「ユメ」の文字と引用商標1及び2の構成文字は、外観において、片仮名表記と漢字表記の差異もしくは片仮名表記とローマ字表記の差異、及び白抜き文字と標準文字の差異があるものの、いずれも特徴のない書体で表されたものであり、商標の使用においては、商標の構成文字を同一の称呼が生じる範囲内で文字種を相互に変換して表記したり、白抜き文字で表されることが一般的に行われている取引の実情があることに鑑みれば、両者における上記文字種の相違や白抜き文字で表すことが、取引者、需要者に対し、出所識別標識としての外観上の顕著な差異として強い印象を与えるとまではいえません。また、両者は、「ユメ」の称呼及び「睡眠中に持つ幻覚」「将来実現したい願い」の観念を共通にするものです。以上を総合すると、本願商標と引用商標1及び2とは、その外観上の差異を称呼及び観念の共通性がしのぐものといえ、両者は相紛らわしく出所の混同を生ずるおそれのあるものです。」