戦国絵巻燕の城2015「勝鬨」
大阪方の軍勢を率いた和田摂津守は江戸、南青山城目前まで来たところで大雨で足止めを食らっていた。
(まあ、よい。一矢報いるだけだ。)
ほぼ、南青山の連中の天下は揺ぎない。ならば一日でも遅らせてやろう。
今回の遠征をその程度に考えていた。
(我らも天下三位の地位は間違いない。軍勢と、我らの誇る多数の支援の民がいれば、やつらに一泡吹かせられる。)
彼の顔には自信が満ちていた。
(我らは、元々、強いのだ。たまたま、噛みあわせが悪かった。それだけだ。南青山になど負けるはずもない。)
たとえ、今年の戦いが終わった後に国を追われることが決まっていたとしても。
(いや、だからこそ、今日は勝てるのだ。最後に奴等を狩ってやる!)
しかし、雨の上がった南青山城に到着して和田摂津守が見たものは、地平を埋め尽くさんばかりの傘だった。
雨は上がっているのに。
この時、和田摂津守は、やっと理解した。
(そうか、立場が変わったのか)
狩る方から、狩られる側に。
大阪方は、初めて敵軍と民に包囲された状態での戦闘を経験することになった。
―――開戦初頭、畠山の突入で優勢に進めていた南青山軍だったが、疲れもあり、戦いは膠着状態になった。
夕刻、大阪方は最後の反撃に出た。
疲れの見え始めた自軍の若い武将を次々と後方に下げ、大阪方の名だたる武将を投入してくる。
南青山軍も後詰を繰り出し、必死の防戦に努めるが、やがて押されてきた。
防御陣の秋吉と久古が肩で息を切らせながら迫る敵を防いでいると、猛然と突っ込んでくる武将の姿が見えた。
「久古殿、あれは・・・」
「ああ、あれは・・・」
そこには大阪方の猛将、関本の姿があった。
「若造!退けい!」
のけ、と言われても、自身の事など省みず突撃してくる関本の気迫に押され、二人は動けなかった。
「ドケ!」
背後からも同じ事を言われ、二人が振り返る。
だが振り返らずとも、この発音で誰が来たのか充分理解できた。
白馬に跨り、赤い鎧、兜の後ろからはみ出す束ねた髪。
米国から軍視察としてやってきて、居心地の良さの余りこの国の者になってしまった男。
バーネットが馬で2人を飛び越えて関本の前に立ちふさがった。
ジリジリと間合いを詰めていく二人。
だが、一瞬、関本の刃が早くバーネットを捉えた。
ほんの一瞬、身動ぎをする間に陣を突破された南青山軍は、ほぼ互角の戦いに戻されてしまった。
「Shit!」
バーネットは悔しさで、滑り止めの粉の入った袋を地面に叩きつけた。
―――日も暮れて戦いは最後の局面に入っていた。
(この戦、このまま引き分けても天下は取れる。だが・・・)
真中の迷いを感じ取った家老の野村が明るく言い放った。
「ここまできたら、格好良く決めませんか?」
真中はニヤリと笑い、後先考えず、全軍突撃を命じた。
川端が突入し、敵本陣まで迫る。
畠山も包囲を開始した。
だが、文字通り「最後の砦」となった能見が立ちはだかっていた。
状況は圧倒的に不利なのは能見も承知していた。
だが、この後、もう一度戦う機会があるかも知れない南青山の連中に大阪の意地を見せておくのは無駄ではない。そう考えていた能見は戦場の注目を浴びるように叫んだ。
「さあ、次はどいつだ!かかって来い!」
「田中浩康推参!能見!覚悟!」
田中は見せ場とばかり斬りかかった。
能見は受けて立ち、刃をかわす。
能見の刃が田中を掠めた。
「あ痛たたたた!当たった!当たったよ!」
田中は大騒ぎして手勢を引き連れて明後日の方向へ向かっていく。
と、大阪方の右翼に配置されていた江越の陣へ突入していく。
それに釣られて能見の左側を守っていた陣が位置をやや能見の方へ移動してきた。
と、田中の行動に一瞬あっけに取られていた能見は気がついた。
(しまった!田中は囮か!)
陣の移動した隙を突いて、猪の如く突進してくる高井が目に入った。
「能見殿!覚悟ぉ!」
飛び上がり太刀を振り下ろす。寸前のところで能見がかわす。
高井は筋肉に物を言わせて二の太刀、三の太刀を浴びせる。
そこで能見の態勢が崩れた。
四太刀目を思い切り水平に振り回し、能見の刀を弾き飛ばす。
切っ先を顔面に向けると、ガックリと膝をついた。
そして、敵本陣に川端が突入し、戦いは決した。
武将たちは歓喜の声を上げながら集まった。
領民の祝福を受け、真中の体が宙に七度舞う。
苦節14年、南青山城の軍勢はついに天下を取ったのだった。
―――夜更けとなり、日付も変わろうとしたところだが、城内には天下取りの宴席が設けられていた。
喜び合う武将や城内の者たちが集まる。
さて、これより乾杯の発声を誰にするかと言うところだが、皆の意見は一致していた。
数年前から武将たちの取り纏めを任されていた森岡が前に立つ。
(俺なんかより、もっと活躍する奴等ばかりだろうに)
内心、心苦しかったのかもしれない。
この年、目を見張るほどの武功は上げられなかった。
だが、自分が辛くても、明るく振舞うことで城内の雰囲気を明るく纏め上げてきた。
城内の誰もが、領民の誰もが知っていた。
(だが、これが俺の仕事なら、務め上げようじゃないか)
森岡は思い切り笑顔を作り、叫び始めた。
「野郎共!南青山城『らしく!』『笑顔で!』えい!えい!」
「おおー!」
城内は歓声に包まれ、浴びるように酒を飲み・・・いや、文字通り、酒を浴びせあった。
武将たちは初の事で、戸惑いながらではあったが、こういったことには百戦錬磨の城主や家老は武将達があっけに取られるほど楽しんでいた。
―― そして、乱痴気騒ぎの宴が終わり、皆が寝静まった南青山城。
城門から少しばかり足元のふらついた二人の男が出てきた。
川端と、川端に助けられながら歩く山田だった。
「川端殿、ぼかぁね、やりましたよぅ!」
「わかった。よくやったよくやった。分かったから、はやく家に帰ろう。」
いつもなら城下の少し離れた家まで馬で帰るのだが、ここまで酔ってしまうと馬が言うことを聞かないので、今夜は場内に泊まるか、駕篭で帰るように厳達されていた。
川端は苦労しながら何とか駕篭屋の通る大通りまで歩いてきたが、駕篭屋が見つからない。
「さて、困ったなあ・・・」
「川端殿!そば!そばが食べたいれす!」
山田が指差す方向を見ると蕎麦屋が屋台を出していた。
川端は、先ほどから飲まされてばかりで、腹に何も入れてないことを思い出した。
「よし、分かった。蕎麦を食べながら駕篭屋を待とう」
「あい、僕はね、きつね蕎麦がいいれすよ。」
「はいはい、わかった。おやじさん、すまんが、きつね蕎麦と・・・」
そこまで言ったとき、先客がいることに気がついた。
その風体を見て、思わず注文した。
「と、たぬき蕎麦。」
「なんだ、お前らか。」
小さな椅子にちょこんと座り月見蕎麦を食べていた畠山がこちらを見上げていた。
「あれ、畠山様もですか」
「まあな、こんなに遅くては夕餉の支度をさせるのは申し訳ないからな」
「うちも、そんなところですね」
先ほどまで宴に一緒にいた奥方たちは先に帰って寝静まっている頃だった。
「あーおふたりとも惚気てくれますねえ、あーあついあつい。」
山田が手で仰ぐ仕草をすると、二人とも赤い顔をさらに赤くしながら
「うるさい、黙って食え!」
と声をそろえた。
「はーい、谷内も居ないし、独り者は静かに食べますよーっと」
山田は届いたきつね蕎麦を食べ始めた。
・・・少しの間、三人並んで無言で蕎麦を食べる。
「やったなあ」
畠山がポツリとつぶやく。
「そうですね。長かった。」
川端が応える。
「ぼく!ぼくが第一功れすよ!」
山田が手を上げた。
「まあ、そうだが、敵を倒した割合は私が一番だった。」
「数が一番だったのは俺だ。」
「ぼくは、どーんってやっつけましたよ!いっぱい!」
一瞬三人で見つめあい、大笑いした。
「まあ、この3人だけで勝った訳じゃないですから」
「そうだ。城に関わる皆で勝ち取った天下だ」
「そうですよ!それに本当の天下取りはこの後ですから!油断しちゃ駄目です!」
山田が少し酔いが醒めたように叫んだ。
「お、いい事いったな、山田」
「そうだな、油断はいかんぞ、山田」
そういって畠山は山田の丼から油揚げを取って食べてしまった。
「あ!ひどい!楽しみに取っておいたのに!」
「油断はいかんなあ山田。トンビに油揚げをさらわれる。」
「ずいぶん食いしん坊なトンビですねえ?畠山殿。」
「こいつ、言ったな!」
また、3人で大笑いした。
駕篭は来ない。
また飲んで、もう一杯食べて。
また取り留めのない話で笑った。
幸せな時間。もう一度、いや、天下を取って、もう二回楽しめたらどんなに嬉しいだろう。
年齢も、容姿も、武功もそれぞれ違う三人だったが、それだけは一致していた。
しばらくして・・・疲れもたまっていたのだろう。
やがて三人はいつの間にか屋台に突っ伏して眠ってしまった。
屋台の店主が御代も貰っていない大男三人をどうしたものか、番屋に届けようかと思案し始めたとき、編み笠を被った侍が通りかかった。
「やれやれ、仕方のないやつらだ」
「お侍様、何とかなりませんか」
「大丈夫だ、こいつらの扱いには慣れておる。」
そういって店主に多めに御代を渡す。
「お侍様こんなにいただけませんぜ」
「なに、いいってことよ。おやじ、迷惑をかけたな。まあ、こいつらも苦労してここまで成長して、天下を取ったのだ。今夜はこれで勘弁してくれい」
そういって侍は編笠を取り、店主に深々と頭を下げた。
「あ・・・いや、そんな、勿体のうございます!」
店主が平伏しようとするのを片手を上げて制すると、侍はまず、川端を起こし、山田を起こした。
二人は侍の顔をみて、慌てて平伏する。
そして侍は畠山を起こそうとするが、なかなか起きず、しまいには地面に転がってしまった。
「仕方のないやつだ、どれ久々にやるか。それ、起きろ畠山!」
侍・・・いや、今は影でこの国を支えている前城主、小川公は嬉しそうに畠山の上に馬乗りになり拳を振り上げた。
戦国絵巻燕の城2015「勝鬨」完
大阪方の軍勢を率いた和田摂津守は江戸、南青山城目前まで来たところで大雨で足止めを食らっていた。
(まあ、よい。一矢報いるだけだ。)
ほぼ、南青山の連中の天下は揺ぎない。ならば一日でも遅らせてやろう。
今回の遠征をその程度に考えていた。
(我らも天下三位の地位は間違いない。軍勢と、我らの誇る多数の支援の民がいれば、やつらに一泡吹かせられる。)
彼の顔には自信が満ちていた。
(我らは、元々、強いのだ。たまたま、噛みあわせが悪かった。それだけだ。南青山になど負けるはずもない。)
たとえ、今年の戦いが終わった後に国を追われることが決まっていたとしても。
(いや、だからこそ、今日は勝てるのだ。最後に奴等を狩ってやる!)
しかし、雨の上がった南青山城に到着して和田摂津守が見たものは、地平を埋め尽くさんばかりの傘だった。
雨は上がっているのに。
この時、和田摂津守は、やっと理解した。
(そうか、立場が変わったのか)
狩る方から、狩られる側に。
大阪方は、初めて敵軍と民に包囲された状態での戦闘を経験することになった。
―――開戦初頭、畠山の突入で優勢に進めていた南青山軍だったが、疲れもあり、戦いは膠着状態になった。
夕刻、大阪方は最後の反撃に出た。
疲れの見え始めた自軍の若い武将を次々と後方に下げ、大阪方の名だたる武将を投入してくる。
南青山軍も後詰を繰り出し、必死の防戦に努めるが、やがて押されてきた。
防御陣の秋吉と久古が肩で息を切らせながら迫る敵を防いでいると、猛然と突っ込んでくる武将の姿が見えた。
「久古殿、あれは・・・」
「ああ、あれは・・・」
そこには大阪方の猛将、関本の姿があった。
「若造!退けい!」
のけ、と言われても、自身の事など省みず突撃してくる関本の気迫に押され、二人は動けなかった。
「ドケ!」
背後からも同じ事を言われ、二人が振り返る。
だが振り返らずとも、この発音で誰が来たのか充分理解できた。
白馬に跨り、赤い鎧、兜の後ろからはみ出す束ねた髪。
米国から軍視察としてやってきて、居心地の良さの余りこの国の者になってしまった男。
バーネットが馬で2人を飛び越えて関本の前に立ちふさがった。
ジリジリと間合いを詰めていく二人。
だが、一瞬、関本の刃が早くバーネットを捉えた。
ほんの一瞬、身動ぎをする間に陣を突破された南青山軍は、ほぼ互角の戦いに戻されてしまった。
「Shit!」
バーネットは悔しさで、滑り止めの粉の入った袋を地面に叩きつけた。
―――日も暮れて戦いは最後の局面に入っていた。
(この戦、このまま引き分けても天下は取れる。だが・・・)
真中の迷いを感じ取った家老の野村が明るく言い放った。
「ここまできたら、格好良く決めませんか?」
真中はニヤリと笑い、後先考えず、全軍突撃を命じた。
川端が突入し、敵本陣まで迫る。
畠山も包囲を開始した。
だが、文字通り「最後の砦」となった能見が立ちはだかっていた。
状況は圧倒的に不利なのは能見も承知していた。
だが、この後、もう一度戦う機会があるかも知れない南青山の連中に大阪の意地を見せておくのは無駄ではない。そう考えていた能見は戦場の注目を浴びるように叫んだ。
「さあ、次はどいつだ!かかって来い!」
「田中浩康推参!能見!覚悟!」
田中は見せ場とばかり斬りかかった。
能見は受けて立ち、刃をかわす。
能見の刃が田中を掠めた。
「あ痛たたたた!当たった!当たったよ!」
田中は大騒ぎして手勢を引き連れて明後日の方向へ向かっていく。
と、大阪方の右翼に配置されていた江越の陣へ突入していく。
それに釣られて能見の左側を守っていた陣が位置をやや能見の方へ移動してきた。
と、田中の行動に一瞬あっけに取られていた能見は気がついた。
(しまった!田中は囮か!)
陣の移動した隙を突いて、猪の如く突進してくる高井が目に入った。
「能見殿!覚悟ぉ!」
飛び上がり太刀を振り下ろす。寸前のところで能見がかわす。
高井は筋肉に物を言わせて二の太刀、三の太刀を浴びせる。
そこで能見の態勢が崩れた。
四太刀目を思い切り水平に振り回し、能見の刀を弾き飛ばす。
切っ先を顔面に向けると、ガックリと膝をついた。
そして、敵本陣に川端が突入し、戦いは決した。
武将たちは歓喜の声を上げながら集まった。
領民の祝福を受け、真中の体が宙に七度舞う。
苦節14年、南青山城の軍勢はついに天下を取ったのだった。
―――夜更けとなり、日付も変わろうとしたところだが、城内には天下取りの宴席が設けられていた。
喜び合う武将や城内の者たちが集まる。
さて、これより乾杯の発声を誰にするかと言うところだが、皆の意見は一致していた。
数年前から武将たちの取り纏めを任されていた森岡が前に立つ。
(俺なんかより、もっと活躍する奴等ばかりだろうに)
内心、心苦しかったのかもしれない。
この年、目を見張るほどの武功は上げられなかった。
だが、自分が辛くても、明るく振舞うことで城内の雰囲気を明るく纏め上げてきた。
城内の誰もが、領民の誰もが知っていた。
(だが、これが俺の仕事なら、務め上げようじゃないか)
森岡は思い切り笑顔を作り、叫び始めた。
「野郎共!南青山城『らしく!』『笑顔で!』えい!えい!」
「おおー!」
城内は歓声に包まれ、浴びるように酒を飲み・・・いや、文字通り、酒を浴びせあった。
武将たちは初の事で、戸惑いながらではあったが、こういったことには百戦錬磨の城主や家老は武将達があっけに取られるほど楽しんでいた。
―― そして、乱痴気騒ぎの宴が終わり、皆が寝静まった南青山城。
城門から少しばかり足元のふらついた二人の男が出てきた。
川端と、川端に助けられながら歩く山田だった。
「川端殿、ぼかぁね、やりましたよぅ!」
「わかった。よくやったよくやった。分かったから、はやく家に帰ろう。」
いつもなら城下の少し離れた家まで馬で帰るのだが、ここまで酔ってしまうと馬が言うことを聞かないので、今夜は場内に泊まるか、駕篭で帰るように厳達されていた。
川端は苦労しながら何とか駕篭屋の通る大通りまで歩いてきたが、駕篭屋が見つからない。
「さて、困ったなあ・・・」
「川端殿!そば!そばが食べたいれす!」
山田が指差す方向を見ると蕎麦屋が屋台を出していた。
川端は、先ほどから飲まされてばかりで、腹に何も入れてないことを思い出した。
「よし、分かった。蕎麦を食べながら駕篭屋を待とう」
「あい、僕はね、きつね蕎麦がいいれすよ。」
「はいはい、わかった。おやじさん、すまんが、きつね蕎麦と・・・」
そこまで言ったとき、先客がいることに気がついた。
その風体を見て、思わず注文した。
「と、たぬき蕎麦。」
「なんだ、お前らか。」
小さな椅子にちょこんと座り月見蕎麦を食べていた畠山がこちらを見上げていた。
「あれ、畠山様もですか」
「まあな、こんなに遅くては夕餉の支度をさせるのは申し訳ないからな」
「うちも、そんなところですね」
先ほどまで宴に一緒にいた奥方たちは先に帰って寝静まっている頃だった。
「あーおふたりとも惚気てくれますねえ、あーあついあつい。」
山田が手で仰ぐ仕草をすると、二人とも赤い顔をさらに赤くしながら
「うるさい、黙って食え!」
と声をそろえた。
「はーい、谷内も居ないし、独り者は静かに食べますよーっと」
山田は届いたきつね蕎麦を食べ始めた。
・・・少しの間、三人並んで無言で蕎麦を食べる。
「やったなあ」
畠山がポツリとつぶやく。
「そうですね。長かった。」
川端が応える。
「ぼく!ぼくが第一功れすよ!」
山田が手を上げた。
「まあ、そうだが、敵を倒した割合は私が一番だった。」
「数が一番だったのは俺だ。」
「ぼくは、どーんってやっつけましたよ!いっぱい!」
一瞬三人で見つめあい、大笑いした。
「まあ、この3人だけで勝った訳じゃないですから」
「そうだ。城に関わる皆で勝ち取った天下だ」
「そうですよ!それに本当の天下取りはこの後ですから!油断しちゃ駄目です!」
山田が少し酔いが醒めたように叫んだ。
「お、いい事いったな、山田」
「そうだな、油断はいかんぞ、山田」
そういって畠山は山田の丼から油揚げを取って食べてしまった。
「あ!ひどい!楽しみに取っておいたのに!」
「油断はいかんなあ山田。トンビに油揚げをさらわれる。」
「ずいぶん食いしん坊なトンビですねえ?畠山殿。」
「こいつ、言ったな!」
また、3人で大笑いした。
駕篭は来ない。
また飲んで、もう一杯食べて。
また取り留めのない話で笑った。
幸せな時間。もう一度、いや、天下を取って、もう二回楽しめたらどんなに嬉しいだろう。
年齢も、容姿も、武功もそれぞれ違う三人だったが、それだけは一致していた。
しばらくして・・・疲れもたまっていたのだろう。
やがて三人はいつの間にか屋台に突っ伏して眠ってしまった。
屋台の店主が御代も貰っていない大男三人をどうしたものか、番屋に届けようかと思案し始めたとき、編み笠を被った侍が通りかかった。
「やれやれ、仕方のないやつらだ」
「お侍様、何とかなりませんか」
「大丈夫だ、こいつらの扱いには慣れておる。」
そういって店主に多めに御代を渡す。
「お侍様こんなにいただけませんぜ」
「なに、いいってことよ。おやじ、迷惑をかけたな。まあ、こいつらも苦労してここまで成長して、天下を取ったのだ。今夜はこれで勘弁してくれい」
そういって侍は編笠を取り、店主に深々と頭を下げた。
「あ・・・いや、そんな、勿体のうございます!」
店主が平伏しようとするのを片手を上げて制すると、侍はまず、川端を起こし、山田を起こした。
二人は侍の顔をみて、慌てて平伏する。
そして侍は畠山を起こそうとするが、なかなか起きず、しまいには地面に転がってしまった。
「仕方のないやつだ、どれ久々にやるか。それ、起きろ畠山!」
侍・・・いや、今は影でこの国を支えている前城主、小川公は嬉しそうに畠山の上に馬乗りになり拳を振り上げた。
戦国絵巻燕の城2015「勝鬨」完