中国にむげにされロシアに抱き込まれた北朝鮮(コラム) | すずくるのお国のまもり

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◎2年にわたる水面下の中朝対立が爆発…中国にむげにされロシアに抱き込まれた北朝鮮(上)【コラム】
 こじれる中朝関係、なぜこんなことに

 

 

 

 朝中関係が尋常でないことになっている。金正恩(キム・ジョンウン)総書記と習近平国家主席が2018年に中国・大連で一緒に散策したことを記念するために設置された「足跡の銅板」まで無くなった。中国側が、銅板の上にアスファルトを敷いて足跡を消してしまった。朝中首脳の友好の象徴物が除去されるというのは類例がない。新型コロナが終息したにもかかわらず、北朝鮮労働力の中国への新規流入は中断した状態だ。今年1月の台湾総統選挙は、中国の最大の関心事だった。中国が嫌う親米・独立傾向の候補が当選したにもかかわらず、北朝鮮は中国の立場を支持する声明すら出さなかった。中国と日本で同じ時期に強い地震が発生し、どちらも大きな被害が生じた。通常なら、北朝鮮は中国に慰労の電文を送らなければならない。しかし金正恩は日本にだけ「岸田閣下」で始まる電文を送った。少し前には、北朝鮮が、朝鮮中央テレビの海外向け放送に使う衛星を中国からロシアに変えてしまうという「事件」もあった。このような公の破裂音は、朝中(中朝)の実際の対立を巡る「氷山の一角」にすぎない可能性が高い。いつから、なぜ、こんなことになり、これからどうなるのだろうか。
■2年前から異変の兆候…今年に入って表面化
 新型コロナ当時、朝中交流は事実上途絶えていた。その打撃は、対外貿易の96%を中国に依存する北朝鮮の方が大きかった。金正恩は、中国が米国主導の北朝鮮制裁に拘束されることなく北朝鮮を助けてくれることを期待した。しかし中国は、下手に北朝鮮を支援して米国に対中制裁の口実を与えたくはなかった。
 ロシアは違った。2022年2月にウクライナへ侵攻したが、戦況は思うように進展しなかった。すぐに砲弾が足りなくなった。孤立したプーチンが手を伸ばせる場所は北朝鮮だけだった。北朝鮮は22年末からロシアに武器を送り始めたという。その代価としてロシアの精製油が北朝鮮に入った。精製油は国連制裁の対象品目なので、北朝鮮は中国からも容易には入手できない。一昨年、北朝鮮は「対北ビラがコロナウイルスをばらまいている」と荒唐無稽な主張を行った。中国は北朝鮮の非常識な主張に呼応しなかった。反面、平壌駐在のロシア大使館は「北朝鮮の話は正しい」と言った。ウクライナ戦争後、朝ロ関係は勢いに乗った。
 昨年7月、北朝鮮の停戦協定締結70周年軍事パレードで、ロシアはプーチンに最も近い側近の一人、ショイグ国防相(当時)を派遣した。ロシアが北朝鮮の軍事パレードに特使を送るのは異例だ。10年前の停戦60周年のときも、高官クラスの派遣は行われなかった。反面、中国の特使は李鴻忠政治局委員だった。最高指導部の常務委員(7人)を派遣するに値する行事なのに、委員(25人)を派遣したのだ。金正恩は、あからさまにロシア特使ばかりを歓待した。2022年から積もり積もってきた朝中対立が表面化したのだ。

■対北制裁、砲弾支援を巡って朝中に不和
 中国は、米国の一極体制は拒否するが、既存の貿易秩序は維持しようとしている。現在のシステムで莫大(ばくだい)な利益を得ているからだ。逆にロシア経済はエネルギー輸出中心で、比較的単純だ。戦争の泥沼にはまり、体面を取り繕う余裕もない。北朝鮮の武器を得ようと、安保理常任理事国として約束した北朝鮮制裁まで壊している。
 習近平は12年に政権を樹立した直後から、金正恩のことを良く思っていなかった。北朝鮮の核の暴走が北東アジアの均衡を揺るがす、と考えたのだ。北朝鮮の挑発は、米軍を中国の鼻先に呼び込む口実となる。14年に、中国の指導者として初めて、北朝鮮より先に韓国を訪問することで金正恩に警告のメッセージを送った。金正恩は15年、北京に牡丹峰楽団を派遣したが、中国の最高位クラスが観覧しないとなるや公演直前に楽団を呼び戻し、感情的ないさかいを起こした。
 朝中は不信の歴史が深い。中国は、北朝鮮が触発した衝突に振り回されることを警戒する。6・25(韓国戦争)が代表的だ。北朝鮮によるロシア砲弾支援は「バタフライ・エフェクト」を呼びかねない、と懸念している。ウクライナ戦争の長期化で世界経済が動揺したり、朝中ロ結束の様子が韓米日軍事協力を強化させたりすることは、中国にとって不利だ。
 中国は、北朝鮮に「ロシアとの武器取引を自制せよ」というシグナルを送っただろう。しかし北朝鮮は、逆にロシアと軍事同盟まで復活させた。朝中同盟よりも包括的だ。金正恩は今年4月、朝中修好75周年を迎えて中国の趙楽際常務委員(序列3位)の訪朝を待っていた。09年の修好60周年のとき、温家宝首相が工場建設などプレゼントを用意して訪朝した記憶を思い出しただろう。ところが趙楽際は手ぶらだった。金正恩はプーチンの方にいっそう傾き、朝中関係はさらによじれた。反面、中国は、自分たちの「畑」である北東アジアに米国はもちろんロシアが割り込むことも嫌う。

■金正恩・プーチンの冒険主義結合が最も危険
 朝中の悪化と朝ロの密着がもたらすであろう最大のリスクは、金正恩とプーチンの冒険主義が結合することだ。金日成(キム・イルソン)の冒険主義は6・25を招き、プーチンの冒険主義はウクライナを戦場にした。反対勢力なき独裁者であればあるほど、判断を誤る可能性が高まる。北朝鮮の経済は農耕社会レベルだ。それなのに核とミサイルがある。金正恩はプーチンの食糧と武器技術さえあれば、冒険のチャンスをうかがうことができる。プーチンも、金正恩の砲弾支援さえあれば戦争を引っ張っていくことができる。
 専門家らは、ウクライナ戦争と米国大統領選挙が主な変数になるだろうと考えた。戦争が終われば、プーチンの立場からすると、北朝鮮の砲弾より韓国との経済関係の方が重要になると考えられる。米国大統領選挙でトランプが当選すれば、戦争の状況や米朝関係、米中関係などが大きく変わる可能性がある。一部では、金正恩が1950-60年代の金日成のように、中ロ等距離外交を通して軍事的・経済的実利を上げていると語る。しかし、当時はソ連が「主要2カ国」であって、中ソ関係は核戦争を準備するほどに悪かった。今の北朝鮮は、中国が送油のパイプラインを閉めるだけで、10日持ちこたえるのも難しい。金正恩の反中感情のもつれは、長期的には悪手になりかねない。
 金正恩がプーチンと合意した「朝ロ自動車橋」連結も、変数になる見込みだ。朝ロが橋を架けようとしている豆満江の河口部は、中国が東海に出ていこうとしているルートだ。中国の消息筋は「朝ロの新しい橋が完成したら、中国の船は、海に向かうのが困難になる」とし「中国は黙っていないだろう」と語った。
■「ウクライナ終戦、米大統領選が変数」
 朝中がきしみを上げ、朝ロが密着する東アジア情勢に対し、米国など西側も少なからぬ関心を示している。
 米国務省のカート・キャンベル副長官は最近、ワシントンでの対談で「ロシア・北朝鮮間で起きていることに対し中国が多少不安になっているというのは間違いなさそうだ」とし「中国側がわれわれに、こうした点を示唆した」と語った。キャンベル副長官は、米国のアジア政策を総括している。またキャンベル副長官は「中国は(朝ロ軍事協力で)北朝鮮が北東アジアの危機を招きかねない挑発的な措置を取るだろうとみて、懸念している」とも述べた。英国BBC放送も「朝ロ関係の急速な発展に対し、中国が不愉快さを示す兆候がある」と伝えた。その上で、5月に中国を訪問したプーチンがすぐに平壌に向かわず、ロシアに戻ってから再度6月に訪朝したのは、中国がプーチンの北京・平壌同時訪問を望まなかったからだろう-と分析した。ロイターによると、国際的に孤立している北朝鮮・ロシアと、韓米日が主な貿易相手国である中国は立場が違い、中国は成長の鈍化から抜け出すためにも朝・ロとひとまとめにされることを望まない、と報じた。
 ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、朝ロの軍事同盟レベルの新条約は中国の悩みの種に浮上した、と伝えた。中国人民大学の時殷弘教授は、NYTの取材に対し「中国の視点からすると、朝ロ条約は韓米日協力と結合して地域内の対立と競争、摩擦の危険をかなり悪化させた」とし「地域内の軍事化が加速したら、中国の利益は危うくなる」と述べた。反面、韓国政府の高官は「北・中は利害関係が深くからんでおり、ロシアが北朝鮮の頼みの綱にはなり難いということは金正恩も分かっている」としつつ「米国大統領選挙など中長期的状況によって、北・中の関係はいつでも回復し得る」と語った。