ウクライナ軍、包囲したロシア軍部隊を滑空爆弾で攻撃 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ウクライナ軍、包囲したロシア軍部隊を滑空爆弾で攻撃 北東部ボウチャンシク

 

 

 ロシア軍の北東部攻勢の主戦場であるウクライナ北東部ハルキウ州ボウチャンシクで、ロシア兵数百人が市中心部の工場で包囲されている。
 先週末から16日にかけてうち少なくとも30人が投降した。残りの兵士は逃げる場所も隠れる場所もない。そして、ウクライナ空軍は精密誘導爆弾で彼らを狙っている。
 数個大隊規模のロシア軍部隊は、15日前後にPJSCボウチャンシキー骨材工場を占拠した。ボウチャンシクは、2022年2月にロシアがウクライナに対する戦争を拡大する前、およそ1万8000人が暮らしていた小都市で、ロシアとの国境からはわずか8kmの距離だ。
 ボウチャンシクは、ロシア軍が5月10日に始めた北方からの攻勢の最初の主目標だった。この攻勢は最終的に、国境から約40kmのウクライナ第2の都市、ハルキウ市の攻略を狙っているとも考えられた。
 しかし、数万人規模のロシア軍部隊はボウチャンシクを突破できなかった。ウクライナ軍は、精鋭の第82独立空中強襲旅団を含む数個旅団を北方に急派し、応戦させた。支援再開後に米国から急送された弾薬で補充したウクライナ軍部隊は、通り1本ごと、建物1棟ごとの市街戦をロシア軍部隊と繰り広げ、5月下旬にロシア側の前進を食い止めた。
 数週間にわたる熾烈な市街戦を経て、ロシア軍の指揮官たちは思い切った行動に出た。彼らは大人数の部隊に骨材工場の占拠を命じた。工場やその頑丈なコンクリート製建物を足場として、工場のすぐ南を東西に流れるボウチャ川を部隊に渡らせる狙いだったとみられる。この川は、市南部を守るウクライナ軍部隊にとって自然の防御物になっている。
 だが、骨材工場のすぐ西を南北に走るソボルナ通りで行われたとみられるウクライナ側の迅速な攻撃によって、この工場に立てこもるロシア兵およそ400人は孤立化することになったと報告されている。ウクライナの調査分析グループ、ディープステートが随時更新している戦況マップによれば、17日現在、この工場にいる部隊はソボルナ通りの西にいるロシア軍の本隊と切り離されたままだ。
 現在、ウクライナ空軍も戦闘に加わっている。MiG-29戦闘機かSu-27戦闘機、またはその両方が、米国製もしくはフランス製の精密滑空爆弾を工場に向けて投下している。米フィラデルフィアにあるシンクタンク、外交政策研究所のアナリスト、ロブ・リーは、工場の主要建物が最近、ウクライナ側の滑空爆弾で攻撃される様子を捉えた映像を3つ確認している。

 ロシアのある軍事ブロガーはボウチャンシクでの戦闘を、ロシアが拡大して2年4カ月たつ戦争で最も過酷だった2つの戦役、東部のバフムート攻防戦とアウジーウカ攻防戦になぞらえている。アウジーウカでは、ロシア空軍機が滑空爆弾を1日に何十発も投下し、街を徐々に瓦礫の山に変えていった。そうしてウクライナ軍の守備隊は今年2月、ついに撤退に追い込まれた。
 アナリストのWarTranslateが引用・翻訳しているところによると、このブロガーは「悪いニュースは敵がHammer誘導爆弾を多数保有していることだ。これは深刻な問題をもたらしている」と憂慮している。
 フランスはウクライナの戦争努力にAASM Hammer誘導爆弾(編集注:Hammerは英語のhighly agile modular munition extended range=高機動モジュラー弾延伸射程=の頭字語なので必ずしもフランス語読みをする必要はない。「ハマー」)を月50発供与することを確約している。米国も、展開式の翼と衛星誘導装置を付け、モデルにもよるが数百kgの炸薬を搭載する同様の爆弾をおそらく数千発供与している。
 滑空爆弾を最大6発搭載するウクライナ空軍の戦闘機は、低空を高速で飛行し、直前に機首を引き起こして爆弾をリリースすることで、最大40km先、米国製のGBU-39小直径爆弾(SDB)の場合は最大65km先の目標を爆撃できる。前出のロシア人ブロガーは「これらに対抗するのは容易ではない」と認めている。
 工場に身を潜めるロシア兵数百人の上に滑空爆弾を落とすことで、ウクライナ側は、これまで自分たちが味わわされてきたことをロシア側にやり返している。ロシア軍は地上攻撃に先立って、空軍機でウクライナ側の陣地を滑空爆弾で爆撃するのが常套になっている。
 これはウクライナ側を恐れさせてきた。アウジーウカで戦ったウクライナ軍第3独立強襲旅団に所属する軍人、イェホル・スハルは「これらの爆弾はどんな陣地もこっぱみじんにしてしまう」と証言している。
 立場が入れ替わり、今度はロシア軍部隊がおびえ、コンクリートの瓦礫に埋められる側になったようだ。