ウクライナ軍の自爆ドローンが進化か | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎今度はウクライナ軍の自爆ドローンが進化か 戦車撃破に見え隠れする「新技術」

 

 

 ウクライナ各地の工房は軍向けに自爆型のFPV(一人称視点)ドローンを月に10万機以上製造している。相当な数だ。とはいえ各ドローンの重量は900gかそこらしかなく、搭載する弾薬も通常は500g程度の擲弾(てきだん)1個だ。
 つまり、10万機のFPVドローンは「多数」の火力ではあっても、あまり「強力」な火力ではない。FPVドローンは無防備な歩兵にとってはきわめて危険だが、装甲車両は普通、FPVドローンによる複数の攻撃をしのぎ、戦闘を継続できる。
 だが、それが変わりつつあるようだ。ウクライナ軍のドローン部隊は、FPVドローンの破壊力を大幅に高める方法を見つけたらしい。最近、ウクライナ東部ドネツク州で、ウクライナ側の防御線に向けて進んでいたロシア軍のT-80戦車のケースを検討してみよう。
 ウクライナ軍第47独立機械化旅団の偵察ドローンが上空から監視するなか、1機のFPVドローンが重量40t強・乗員3人のT-80の前方を横切って飛んでいく。このT-80は爆発反応装甲のブロックやドローン対策のスクリーンをまとっている。
 FPVドローンは旋回し、T-80に突っ込んでいく。戦車はたいていの場合、FPVドローンの攻撃を受けても軽微な損傷で済む。ところがこのT-80はドローンの直撃後に大爆発を起こし、炎上する。砲塔は車体から吹き飛び、乗員は車体内で焼かれている。
 このFPVドローンの操縦士がたんに運がよかっただけなのか。それとも、何らかの新しい技術が関わっていたのか。米国防総省の国防契約管理局(DCMA)の品質監査官を務めたトレント・テレンコは、後者ではないかとにらんでいる。「ウクライナのFPVドローンの製造者はスウェーデンのRBS56ビル対戦車ミサイルのアイデアを借用したのではないか」と。
 スウェーデンのボフォース社が開発したRBS-56ビルに搭載されている11kgほどの弾頭は、ミサイル下面のセンサーで起爆されると前方ではなく下方に爆発する。そのため、戦車の上面の薄い装甲を狙って攻撃する「トップアタック」ができる。

 T-80を攻撃したFPVドローンは、上方から車体を貫通して弾薬庫を直撃し、壊滅的な誘爆を引き起こしたとみられる。テレンコは「ロシア軍の戦車の弾薬に届きやすくなるように、成形炸薬を下方に傾斜させて取り付けているのではないか」と推測し、「ちょっとした工夫でFPVドローンは冷戦時代の戦車にとってはるかに致命的なものになる」と述べている。
 これはたんなる臆測ではない。ウクライナが支援諸国から受け取っている兵器のひとつに、NLAW携行式対戦車ミサイルがある。重量12.5kgほどのNLAWはスウェーデンのサーブ・ボフォース・ダイナミクス社などが手がけ、RBS-56と同様に弾頭が下向きに爆発する設計になっている。
 ソーシャルメディアには、損傷したNLAW発射機からウクライナ兵がミサイルを取り出す動画も投稿されている。英国の兵器史家マシュー・モスはこの動画に「弾頭をFPV(ドローン)で使用するためのようだ。興味深い」とコメントしている。
 NLAWの弾頭を搭載したFPVドローンは、ロシア軍の不運な戦車兵にとっては即死を意味するものになるかもしれない。
 補足しておけば、ウクライナ軍はドローン部隊にトップアタック用弾薬を提供するために、数千発供与された可能性もあるNLAWの弾頭を流用する必要はない。ウクライナの産業界は、下向きに爆発する弾薬を製造する十分な能力があるからだ。
 FPVドローンと同じように、ウクライナがこうした弾薬も多数の小規模な工房で製造しているのだとすれば、FPVドローンのトップアタック用弾薬も1種類ではなく、いくつかのタイプがあるのかもしれない。
 いずれにせよ、ウクライナ軍はFPVドローンのトップアタック用弾薬をいくらかは保有しているようだ。小さなドローンが大きな戦車を巨大な火の玉に変える方法はほかにあまりない。