ウクライナ、単一弾頭の新型ATACMSも入手か | すずくるのお国のまもり

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◎ウクライナ、単一弾頭の新型ATACMSも入手か クリミアの掃海艇撃沈が示唆

 

 

 ウクライナはロシア海軍黒海艦隊の軍艦をまた1隻撃沈した。
 ウクライナ軍参謀本部やウクライナ海軍によると、18日から19日にかけての夜、前線から南へ240kmほど離れたロシア占領下クリミアのセバストポリ港を攻撃し、黒海艦隊の掃海艇「コブロベツ」を撃沈した。通信アプリ「テレグラム」のロシア側の複数のチャンネルもこの損失を認めている。
「ロシア黒海艦隊にとって再び悪い日になった」。ウクライナ国防省はそう皮肉っている。
 ロシアがウクライナに対する戦争を拡大して以来、2年3カ月にわたる激しい戦闘で、ウクライナ側は戦争拡大前におよそ35隻あった黒海艦隊の大型艦のうち、十数隻を撃沈したり大破させたりしてきた。したがって、黒海艦隊に所属する掃海艇2隻の一隻で全長61mのコブロベツの損失自体は、もはやそれほど注目すべきことではない。
 むしろ注目すべきは、ウクライナ側がコブロベツを撃沈した方法である。ロシア側の情報源によれば、今回の攻撃はATACMS弾道ミサイル2発によるものだった。
 発射重量1500kg前後の地上発射型ミサイルであるATACMSは、地上の目標に対する攻撃に使われるのが普通だ。通常、艦艇に対する攻撃に使われないのには理由がある。基本的に慣性誘導されるATACMSの命中精度は、多くの情報源によると目標から約9m以内とされ、大型弾頭1発で確実に艦艇を沈めるには不十分なのだ。
 ウクライナはこれまでに、米国からATACMSを少なくとも2回にわたって合計で120発以上受け取っている。それには射程165kmのM39型のほか、射程300kmのM-39A1型が含まれていた。両タイプは空中で炸裂して擲弾(てきだん)サイズの子弾を数百個〜1000個近くばらまくので、命中精度の低さはある程度相殺される。
 ただ、M39やM-39A1で艦艇を攻撃した場合、飛散する子弾は艦艇の上面に損害を与えることはできても、艦艇を沈めることはおそらく無理だろう。沈めるには艦体(ハル)を破壊する必要があるからだ。

 コブロベツに対する攻撃に使われたのが実際にATACMSだったとすれば、2つのことが考えられる。
1. ウクライナは子弾搭載型のM39とM-39A1のほかに、それぞれ210kgの単一弾頭を搭載するM48型(射程270km)やM57型(射程300km)のATACMSも密かに受け取っていた。
2. M48やM57は一般に想定されている以上に命中精度が高い
 もしこの通りなら、意味するところは重大だ。まず、M39A1、M48、M57の射程圏内であるセバストポリに停泊する黒海艦隊の生き残っている軍艦も、非常に大きな危険にさらされていることになる。英スコットランドのセントアンドルーズ大学のフィリップス・オブライエン教授(戦略研究)は「ATACMSでセバストポリのロシアの軍艦も除去できるのなら、この基地はロシアにとってほとんど使い物にならなくなるのではないか」と述べている。
 セバストポリや近郊のベルベク飛行場を守っているS-400長距離地対地ミサイルシステムはATACMSの迎撃に失敗しており、このシステム自体もよく被害を受けている。ポルトガルの軍事コンサルタント、ヌーノ・フェリックスは「ロシア軍にはATACMSに対処する能力がほとんどない」と指摘する。
 単一弾頭型で命中精度の高いATACMSはさらに、ロシア南部とクリミアをつなぐケルチ橋にとっても深刻な脅威になりそうだ。ノルウェーのオスロ大学で核兵器問題に関するプロジェクトに携わるファビアン・ホフマン研究員は、M48やM57によってこれほどの精度で攻撃できるのなら、ケルチ橋も「実行可能な攻撃目標」になるだろうと言及している。
 たしかに、現在はロシア占領下のウクライナ南部を通ってクリミアに延びる鉄道が開通しており、ロシア軍のクリミアへの補給路はケルチ橋経由のものだけではない。だが、ウクライナ側はこの鉄道路線を遮断し、ケルチ橋も落とせば、ロシア軍のクリミア駐留部隊への補給を断つことができる。
 フェリックスはATACMSについて「この戦争で鍵を握る土地、クリミアを防御できない場所にするという重大な変化をもたらす」とも書いている。掃海艇の撃沈はウクライナ側にとって、もはやおまけ程度のものかもしれない。