ロシア軍「アウジーイウカ攻略」でも代償大きく | すずくるのお国のまもり

すずくるのお国のまもり

お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ロシア軍「アウジーイウカ攻略」でも代償大きく ウクライナ投入戦車の1割損失

 

 

 ウクライナ東部ドネツク州アウジーイウカ市をめぐる4カ月にわたる攻防戦が最終局面を迎えている。ウクライナ軍守備隊の弾薬 が枯渇するなか、ロシア軍の歩兵は北側と南側から市内に侵入し、守備隊の補給線を脅かしている。
 ウクライナは近々、およそ1年ぶりに都市を失陥する方向にある。ウクライナ軍にとって手痛い敗北になるだろう。もっとも、ロシア軍の勝利はそれよりもはるかに大きな痛みを伴ったものになりそうだ。たとえば戦車の損失だ。破壊され、住む人もほとんどいない数平方kmのアウジーイウカ市街地を占領するために、ロシア軍は1個機械化師団分に相当する戦車を失っている。
 Suyi控(@partisan_oleg)というOSINT(オープンソース・インテリジェンス)アナリストが述べているとおり、旧ソ連軍では1万人規模の自動車化狙撃師団に、少なくとも書類上は戦車が220両配備されていた。現在のロシア軍はソ連の戦力設計をおおむね踏襲する。
 別のアナリストNaalsio(@naalsio26)の集計によれば、昨年10月上旬にアウジーイウカ方面の攻撃を開始したロシア軍の第2、第41両諸兵科連合軍は、これまでに214両にのぼる戦車を失っている。T-72やT-80が大半を占めるが、高性能なT-90も数両含まれる。一方、ウクライナ側のアウジーイウカ周辺での戦車損失数は18両にとどまる。
 ロシア軍はアウジーイウカ周辺だけで、ウクライナに送り込んだ戦車全体の10分の1超を失った可能性がある。
 ロシア側は戦車の損失がウクライナ側の12倍にのぼっていることに関して、ウクライナ側がアウジーイウカ防衛戦に戦車を投入しなかったからだと主張することはできない。ウクライナ側も、自軍最高の戦車であるドイツ製レオパルト2A6を含め戦車を戦闘で使用しているからだ。ただ、レオパルト2A6はのちに、アウジーイウカの北80kmほどに位置する都市クレミンナ周辺を守備する旅団に譲渡されている。
 ロシア側はまた、ウクライナ側に比べて偏って大きな戦車の損失を、伝統的に攻撃側よりも防御側のほうが損害は少ないという論理で説明することもできない。相手に身をさらす攻撃側よりも壕に身を隠す防御側に優位性があるとはいっても、歴史的に防御側と攻撃側の損耗比率はせいぜい1対3程度だからだ。

 ロシア側の戦車の損失が積み上がったのは、単純にウクライナ軍が、地雷や野砲、ドローン(無人機)、ミサイル、あるいは塹壕からの昔ながらのロケット砲などによって、ロシア軍の部隊を打ち負かしてきたからだ。ウクライナ側は、米国からの援助が昨年10月から議会共和党によって断たれ、弾薬が減ってくるなかでも、そうし続けた。
 ロシア側は想定される4倍もの損害を戦車に出し、消耗の罠にはまった。ロシア軍はアウジーイウカを占領するかもしれない。だが、ウクライナ軍の守備隊がいま撤退すれば、ロシア側は、おそらくすぐには補充できないほどの甚大な人員・装備の損害と引き換えに、廃墟を得たという結果になるだろう。
 また、ロシア軍はアウジーイウカ攻略への注力によって、ロシアがウクライナで拡大して2年近く経つ戦争の約1000kmにわたる戦線のほかの方面では、作戦ペースを落とさざるを得なくなっているとみられる。
 問題は、アウジーイウカの守備隊が撤退しない可能性もあることだ。ウクライナ軍の東部コマンド(統合司令部)、あるいは新たに任命されたオレクサンドル・シルスキー総司令官が、守備隊に最後の一兵まで戦うように命じれば、ウクライナ側は消耗面での優位性を失うおそれがある。
 これは以前、実際に起きたことだ。昨年5月にドネツク州バフムートがロシア軍に両翼包囲されたとき、当時、陸軍司令官だったシルスキーはおそらく、廃墟と化したこの都市に守備隊を長く留め置きすぎた。
 ウクライナの調査分析グループ、フロンテリジェンス・インサイトは「バフムートでは当初、ウクライナ側が成功し、ロシア側は大きな損耗を被り、ウクライナ側とロシア側の損耗比率が1対7ないし1対10に達していた時期もあった。だが、状況は急激に変わった」と説明する。「ロシア側がウクライナ側の両翼の制圧にこぎ着け、補給ルートを妨害し出すと、損耗比率はほぼ同等になった」
 現時点では、ロシア側がアウジーイウカ攻防戦に「勝利」しても、ウクライナ側よりも格段に大きな痛みを負った結果にするのに遅くない。一方でウクライナ側が敗北から勝利をもぎ取るには、撤退のタイミングを見極める必要がある。