北朝鮮の原子力潜水艦への評価 | すずくるのお国のまもり

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肥料工場も厳しいのに原潜? 金正恩「危険なバケットリスト」の真実(1)

 

 

 

 北朝鮮の原子力潜水艦開発に対する韓国軍当局の評価はこうした表現に要約される。核・ミサイルの真の「ゲームチェンジャー」としての役割が原潜にかかっている点からだ。北朝鮮が原潜開発にどれだけの成果を出しているのか評価は分かれるが、最近の金正恩国務委員長の動きが尋常でない状況を示唆しているのは確実に見える。
◇北朝鮮「5大課題」の最後に位置した原潜
「2022国防白書」には北朝鮮の原潜に対する韓国軍当局の見解がよく表われている。白書は「北朝鮮が2021年の第8回党大会で核・ミサイル能力強化に向け戦略武器最優先5大課題を提示した」としながら①超大型核弾頭生産②1万5000キロメートル射程圏内の打撃命中率向上③極超音速滑空飛行戦闘部開発④水中と地上固体推進大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発⑤原潜と水中発射核戦略武器保有――を挙げた。
 実際のところ北朝鮮は5大課題が何かを具体的に明らかにしたことはない。この用語が初めて登場したのは第8回党大会が終わった8カ月後の2021年9月、朝鮮労働党機関紙の労働新聞だった。当時新聞は極超音速ミサイル火星8型の試験発射を伝えながら「党第8回大会が提示した国防科学発展と武器体系開発5カ年計画の戦略武器部門最優先5大課題」と説明した。
 5大課題の存在が遅れて明らかになり、第8回党大会で言及された武器開発計画の内容が再び召還された。軍当局は原潜を最後の項目に配置して5大課題を選んだ。ここには北朝鮮の原潜保有は容易ではない課題だが現実に近づく場合には大きな脅威になる可能性があるという含意が込められた。
 金正恩は第8回党大会で直接原潜に対し「設計研究が終わり最終審査段階にある」とも紹介した。その後しばらく消息はまばらだったが、昨年9月に戦術核攻撃潜水艦「金君玉(キム・グンオク)英雄」進水式で久しぶりに言及された。金正恩は進水式の祝賀演説で「今後計画されている新型潜水艦、特に原潜とともに既存の中型潜水艦も発展した動力体系を導入し全般的な潜航作戦能力を向上させる」と話した。
 その後金正恩は先月28日に咸鏡南道新浦(ハムギョンナムド・シンポ)近くの海上で行われた潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)「プルファサル3-31型」の試験発射現場で原潜の話を再び取り上げた。北朝鮮メディアは金正恩が「原潜とその他の新型艦船の建造に関連する問題を協議し、当該の部門が遂行すべき当面の課題と国家的対策案を明らかにしたし、その実行方途に関する重要な結論を与えた」と伝えた。原潜で核攻撃をするという意志が「重要な結論」として具体化されたということだ。
◇「技術水準未達」「ロシアの変数に注目」北の原潜に分かれる視線
 しかし北朝鮮の原潜をめぐっては懐疑的な見方が少なくない。カギは潜水艦に搭載される小型一体型原子炉の確保だ。原潜は濃縮ウランから蒸気を発生させてタービンを回す原理で作動するが、このためには密閉構造の小型一体型原子炉が必要だ。高度な技術で高温・高圧に耐える特殊鋼、配管などを作らなければならないが、肥料を作る化学工場ですら技術不備でまともに稼動できないのが北朝鮮の現実だ。

 必須的に先行しなければならない小型原子炉の地上試験関連状況はまだつかめていない点も注意深く見るべき部分だ。韓国科学技術政策研究院のイ・チュングン名誉研究委員は「中国の原潜の場合、1960年代に開発を始めて1980年代に入り正常稼働したほど高難度技術が要求される。北朝鮮の原潜は先行研究程度は進行しているものと評価される」と話した。
 これに対し北朝鮮の技術開発速度を軽く見てはならないという意見もある。秘密裏に小型原子炉試験を繰り返している可能性を排除することはできない。潜水艦専門家である漢陽(ハニャン)大学のムン・グンシク特任教授は「最高指導者が『最終審査段階』に続き『重要な結論』に言及するほどならば開発に加速度がついたという意味。それだけ力を入れているとみれば良い」と解釈した。
 ロシアの技術支援の可能性も注目される。金正恩が原潜を再び取り上げ始めたタイミングが北朝鮮とロシアの首脳会談直前である昨年9月である点がこうした観測を裏付ける。小型原子炉技術支援などをめぐりロシアと協議が進行中かもしれないという解釈だ。韓国軍当局は上半期中に行われる可能性があるプーチン大統領の訪朝を契機に関連技術支援が可視化する可能性を鋭意注視している。
◇北朝鮮の原潜保有…国際社会の構図揺さぶる
 北朝鮮の原潜保有は国際情勢を大きく揺さぶると予想される。本土が攻撃されても水中からいくらでも反撃が可能な点を示唆することにより核脅威能力を急激に引き上げることができるためだ。
 原潜は理論的に原子炉寿命が尽きるまで無限に潜航できる。速度もやはり時速40キロメートルでディーゼル潜水艦の時速12キロメートルより大幅に速い。原潜がいわゆる「セカンドストライク」の概念の核心に選ばれる理由だ。
 峨山(アサン)政策研究院のヤン・ウク研究委員は「原潜はICBM、戦略爆撃機とともに3大核戦力を構成する。このうち最も脅威になるのはは断然核兵器で武装した原潜」と話す。軍内外では北朝鮮が原潜をベースに核威嚇を「伝家の宝刀」のように振り回しかねないとの懸念が相当にある。
◇韓国は原潜推進したが中断…SLBM対応の必要性
 韓国でも原潜の必要性が着実に議論される。北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に対応するため原潜の長期間作戦能力と追跡能力が便利に活用できるという論理だ。ムン・グンシク教授は「敵の潜水艦を捕らえようとするならこれより1.5~2倍速いスピードを出さなければならない。原潜がその役割を受け持つほかない」と主張した。
 実際に韓国軍当局は2019年に張保皐ⅢバッチⅢをディーゼル・電気推進の在来式潜水艦である3000トンのバッチⅠ、3600トンのバッチⅡとは違い4000トン級の原潜として建造する計画を検討した。バッチとは同じ種類で建造される艦艇群で、ローマ数字は性能改良の順序だ。
 だが原潜をめぐる議論は現在中断された状態だ。効率が落ちるという判断から優先順位が下がったとみられる。ヤン研究委員は「敵の基地近くに長期間待機して敵潜水艦を追跡し打撃するのは確率的に容易なことではない。原潜といっても2週間以内に乗組員を交代しなければならないなど制約がある」と指摘した。
 これとは別に韓米の原子力協定により韓国はウランを20%未満だけで濃縮でき、原子力を軍事的目的に使うことはできない。 協定を改正しない限り90%以上の高濃縮ウランを使う米国の原潜のように高い効率性を担保できないという意味でもある。