ロシアの凶悪ドローン生産、ウクライナの攻撃で停滞した可能性 | すずくるのお国のまもり

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お国の周りでは陸や海や空のみならず、宇宙やサイバー空間で軍事的動きが繰り広げられています。私たちが平和で豊かな暮らしを送るために政治や経済を知るのと同じように「軍事」について理解を深めることは大切なことです。ブログではそんな「軍事」の動きを追跡します。

◎ロシアの凶悪ドローン生産、ウクライナの攻撃で停滞した可能性

 

 

 小型の自爆ドローン(無人機)の「ランセット」は、ロシアがウクライナとの戦争で用いている武器で最も有効なものの1つだ。約64km先の標的を恐ろしいほどの精度で見つけ出して破壊することができる。ランセットは戦車レオパルトや大砲、さらには駐機中の航空機さえも破壊する。ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー総司令官は、現在の戦況に関する最近の論文の中でランセットを問題視している。最初は月に数十機の出現だったが、昨年7月には急増し始める見込みだった。しかしそうはならず、何らかの事情で供給は中断された。
 同月、ロシアのニュースメディアはランセットの製造を手がけるザラ・アエログループの映像を放映した。行動が大げさな最高経営責任者(CEO)のアレクサンドル・ザハロフが、ショッピングモールを改造した巨大な新しい生産施設を電動立ち乗り二輪車のセグウェイに乗って見て回っている。映像には何百機ものランセットが置かれている棚が映っていた。ある記事は、生産は50倍に増える可能性があると指摘していた。これはウクライナにとって悪いニュースのように思われた。だが、ランセットによる攻撃は急増するどころか、著しく減少した。何が起こったのか、当初は手がかりがなかった。
 ウクライナのOSINT(オープンソース・インテリジェンス)グループでロシアでの破壊工作を調査しているMolfarの情報によると、原因はウクライナ軍による標的を絞った攻撃だった可能性がある。
〇ザゴルスク光学機械工場の爆発
 ロシア国営タス通信は昨年8月9日、同国モスクワ近郊のセルギエフポサドにあるザゴルスク光学機械工場(別名ZOMZ)で大規模な爆発が発生したと報じた。報道によると、同工場は法執行機関や産業、医療向けの光学およびオプトエレクトロニクスの装置を製造しているという。1935年創業の同社は国内では高品質の双眼鏡やオペラグラスでよく知られている。同工場のウェブサイトによると、眼科で使う医療機器やエックス線装置も製造しているという。
 爆発の被害はかなりのものだった。30人が病院に搬送され、爆心に近い建物4棟が大きく損壊し、広範囲にわたって窓ガラスが吹き飛んだ。近接する大学の一部や学校2校、スポーツ施設、商店のほか、アパート38戸と自動車4台にも被害が及んだ。
 一部の目撃者はZOMZがウクライナ軍のドローンに攻撃されたと主張したが、それは否定された。タス通信は「予備データによると、爆発の原因はドローンではなかった」と報じた。
 ZOMZでは2022年6月にも原因不明の火災が発生して被害が出たが、昨年8月の爆発は規模が違った。爆発は花火会社ピロロスが使用していた倉庫が原因とされた。
〇濡れ衣か
 ピロロスでは以前にも安全上の問題があった。2019年にベラルーシの首都ミンスクでの花火大会で事故が発生し、観客1人が死亡、10人が負傷。原因は同社にあり、従業員2人が逮捕された。
 ピロロスはロシア国防省に花火を納入する主要サプライヤーであり、1997年に催された、豪華なモスクワ建都850周年記念式典やその他多くのイベントに花火を提供してきた。だが、ロシア紙イズベスチヤによると、国防省への納品が遅れたとして2300万ルーブル(約3700万円)の罰金が科せられ、昨年3月の破産申請時にはさらに3件の請求が検討されていた。
 CEOのセルゲイ・チャンカエフは逮捕されたが、ZOMZでの爆発はピロロスとは無関係だと否定。倉庫に爆発物はなく、爆発は実際には別の建物で起こったと主張した。
 Molfarは、爆発の直前にドローンがZOMZを攻撃したことを示唆する目撃者のコメントをネット上の掲示板で見つけた。
「国内の軍事施設への攻撃についての情報を隠すロシアの慣行を考慮すると、ザゴルスク工場の敷地内での爆発はウクライナ側による計画的な行動だったと推測できる」とMolfarの広報担当は筆者に語った。
 爆発は小型ドローンでは説明できないほどの規模だったが、施設にある爆発物を狙う、つまり「起爆装置を持ち込む」ことでそれが可能になったのかもしれない。

〇精密な攻撃
 なぜウクライナはオペラグラスを製造する工場を標的にしたのだろうか。それは、ZOMZが軍用の双眼鏡やライフルスコープも生産しているからだ。同社の軍事への深い関与が示唆されている。例えば、ロシアの次世代のメッセンジャー爆撃機に関連するZOMZとの少額(約1億円)の契約が政府文書から明らかになっている。これはおそらく光学装置だ。
 ZOMZの爆発直後、ウクライナ人アナリストのドミトロ・スネギリョフは、この工場がザラ・アエロスペース製のクブやランセットといったドローンの部品(おそらくカメラのレンズやその他の光学部品)の製造に関連している可能性が高いとウクライナニュースサイトのフォーカスに語った。メッセンジャーの契約の実績を考えれば理にかなっているかもしれないが、ザラとZOMZの間にはっきりとしたつながりはない。
 筆者はスネギリョフにこの情報の出所を尋ねた。
「特殊業務だ。特定はしない。しかし、ウクライナ国防省情報総局(GUR)ではない」とのことだった。
 ZOMZとザラの関係は証明されていない。だが、爆発は影響を与えたようだ。
〇サプライチェーンの断絶
 ランセットは2019年に発表され、2021年にシリアに配備された。だが、ウクライナとの戦争に投入されたのは遅く、2022年7月まで姿を見せなかった。ロシアの軍事分析サイトLostArmourは、ソーシャルメディアで共有されたランセットの攻撃映像をすべて記録している。これは全体のほんの一部だろう。あるウクライナの情報筋は、ランセットの成功率は約30%としており、映像にある攻撃1件につき、2、3件の失敗や撃墜があると考えられる。
 LostArmourの数字からは、ランセットの攻撃回数には浮き沈みがあることが示されている。昨年初めには月におよそ25回だったが、3月と4月にはほぼ50回になり、7月にはピークの135回に達した。8月も7月の回数に近い126回だったが、それ以降は急増するどころか減少している。9月と10月は50回台で、11月には89回まで増えたが、12月には59回へと再び減った。
 ランセットの生産は急増するどころか減少した。8月に何かが起こり、それによりザラは組み立てたランセットを仕上げることができなくなった。

 ランセットは、エンジンや電子機器を含め、輸入部品が多く使用されていることで悪名高い。ザラが自社製だと明言しているのは機体、電力供給装置、カメラだけだ。ZOMZの爆発はカメラの供給を遮断したのかもしれない。
 ランセットの生産が縮小されたという間接的な確証は、ロシアのアレクセイ・クリボルチコ国防次官からも得られた。クリボルチコは、2023年のロシアのドローン生産は合計3500機に達したと明らかにした。
 米海軍分析センター(CNA)の顧問でロシアのドローン生産の専門家であるサミュエル・ベンデットは、この合計にはランセットや軍用の大型マルチコプターだけでなく、オルランやザラの偵察ドローンも含まれている可能性が高いと指摘する。生産の3分の2が、他の高価なタイプではなく比較的安価なランセットだとすると、ランセットは約2300機となる。これは2023年に投稿されたランセット攻撃の動画の数779本とも合致する。
〇ドローン戦
 ランセットの生産は再び増加しており、1月の動画数は139本と、以前より増加している。だが、昨年8月以降の低迷は、ザラの新工場が特定の部品なしではドローンを生産できないことを示唆している。生産を阻止するのにドローンによる攻撃は必要ないかもしれない。制裁を科し、実行することで、ロシアが国際市場で必要な電子機器を入手できなくなる可能性がある。
 ロシアはなんとしてでもドローンを増産しようとしている。特に推進式ドローンである「シャヘド」に関しては、イランから輸入するのではなく今や国内で生産しており、月に数百機ではなく数千機の生産を目指している。
 ウクライナは、ロシア製シャヘドの増加に対抗するために防空を強化し、同盟国にさらなる支援を求めている。
 おそらく最良の解決策は、ロシアのドローン生産を阻止することで、ドローン問題が発生しないようにすることだろう。ウクライナは長距離飛行が可能なドローンを使った攻撃を数多く実行する能力を持っており、ロシアの石油・ガス施設の攻撃に成功している。ロシアのドローン生産施設も標的のリストに加えるべきかもしれない。Molfarはその多くがショッピングモール跡地にあると指摘している。2024年になり、互いにドローンを使った戦争は戦略的な問題になりつつある。