◎ウクライナ軍総司令官を解任 ゼレンスキー氏発表
ウクライナ・キーウ(CNN) ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、ウクライナ軍のザルジニー総司令官の解任を発表した。後任は2019年から陸軍司令官を務めているオレクサンドル・シルスキー氏。
軍トップの交代は約2年前のロシアによる全面侵攻以来、最も大きな軍人事となる。
ザルジニー氏解任の臆測は先週から広がっていた。反転攻勢が失敗し、ロシア軍の猛攻撃に直面していることを受けて、ゼレンスキー氏とザルジニー氏の間ではこのところ緊張が高まっていた。
正式発表の直前、ゼレンスキー氏はザルジニー氏と「軍にどのような刷新が必要かについて協議した」とSNSのテレグラムに投稿。さらに「そうした刷新を今行うときだ」と書き込んだ。
ザルジニー氏も同日、「22年の任務は24年の任務とは異なる。誰もが新しい現実にも適応しなければならない」と自身のテレグラムチャンネルに投稿。ゼレンスキー氏と「重要かつ真剣な協議」を行い、「アプローチと戦略を変える必要があるとの判断に至った」と書いた。
ザルジニー氏は21年7月に軍総司令官に任命された。情報筋によると、ゼレンスキー氏から新たな職務を提示されたが、断ったという。
両者の間では見解の相違に拍車がかかっているとの見方が出ていた。昨年11月、ザルジニー氏は戦況が「膠着(こうちゃく)状態」にあるとの認識を表明。大統領府の高官は、ロシアを利するだけの言説だとしてこれを厳しく批判した。
また、ウクライナ軍に大規模な動員の措置が必要かどうかを巡っても両者の考えは対立していた。
◎ウクライナ軍トップのザルジニーが「解任」へ、大統領に不信感を抱く「民兵組織」と接触も
<正式な発表はまだないが、ウクライナ軍トップのワレリー・ザルジニー総司令官の解任は確実なようだ。反攻作戦の失敗や軍事支援の滞りの一方で、実は明るい材料も>
ロシア侵攻の前から、ザルジニーと政治指導者との間には意見の相違があった。
ザルジニーは来るべき戦いの準備を進めようとしたが、ゼレンスキー大統領を含む政治指導者たちはロシアによる全面的侵攻の脅威を軽視していた。
ザルジニーは2022年、東部の領土を一時的に明け渡すことで時間を稼ぐことに成功した。
だがウクライナ軍は23年、その東部のバフムートで泥沼にはまり、反転攻勢の要である南部に兵力と資源を十分に振り向けられなかった。
ワシントン・ポスト紙によると、ザルジニーは兵力と武器を追加投入しなければ、ロシアに占領された地域をこれ以上取り戻すことはできないと抗議し、ゼレンスキーとの関係をさらに緊張させた。
「敵が人的資源の動員で相当有利な立場を享受していることを認めなければならない。一方、ウクライナ国家機関は(追加動員などの)不人気な手段を使わずに兵力レベルを引き上げることができない」
と、ザルジニーは2月1日のCNNへの寄稿で述べている。
戦術だけでなく、個人的な対立もある。
首都キーウ(キエフ)を訪れた複数の専門家によると、2人の間の緊張関係は容易に感じ取れる。
ザルジニーの名前がメディアで何度も取り上げられ、22年にタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれてからは特にそうだ。
「本人は目立たないようにしているが、政治的才能もある」
と、研究者のコンスタンティン・スコルキンは昨年12月、カーネギー国際平和財団への寄稿で指摘した。
「ゼレンスキーに不信感を抱く民兵組織やナショナリストとも接触を保っている」
ザルジニーは11月のエコノミスト誌とのインタビューで戦争が膠着状態にあると公に認め、関係はさらに悪化した。
21年にザルジニーを軍トップに抜擢したゼレンスキーの決定は、ウクライナにとって旧ソ連時代との決別と受け止められた。
ザルジニーは冷戦後に軍人となった新世代の1人。ソ連赤軍の所属経験がない独立後初の軍トップでもある。
後任候補の1人とされるオレクサンドル・シルスキー陸軍司令官は、旧ソ連の陸軍士官学校出身でザルジニーより8歳上。
ワシントン・ポストによれば、戦術的重要性の低いバフムートの死守にこだわる作戦に関与し、一部の兵卒や下士官から嫌われている。
ウクライナ軍トップのザルジニーが「解任」へ、大統領に不信感を抱く「民兵組織」と接触も|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)