朝日、次期戦闘機エンジンはロールスロイス製になるかのように報じる
朝日新聞が、航空自衛隊のF2戦闘機の後継となる次期戦闘機の開発について、政府はエンジン部分を英国と共同開発する方向で最終調整に入ったと報じました。
(リンク切れの際は注目記事1842参照)
それによれば、このような経緯が書かれています。
1.6月に英国で開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)の際に開かれた菅義偉、ジョンソン両首相の会談でエンジンの共同開発についてのやりとりがあった
2.同月下旬には防衛省の担当者が訪英し、エンジン部分を含めた協力について英側と協議。両国で最終調整を行っている
3.次期戦闘機の技術支援する企業に、国は米ロッキード・マーチン(LM)社を選んだ
4.開発については米国との協力を中心としつつ、エンジンや電子機器などは「開発経費や技術リスクの低減のため」、米英との「協力の可能性を追求していく」方針になっている
5.課題は米国を含めた3カ国の連携。LMとは既に実務協議に入っているのに、防衛省内では「エンジンだけ切り出して英国と協力して、ちぐはぐにならないか」(関係者)との懸念もくすぶっている
戦闘機開発の経緯について良く分からない方は、以下のリンクから、私が書いた過去記事リストに飛びますので、よろしければどうぞ。
既報と組み合わせれば、RRが得意分野で技術提供に踏み切ったと分かる
さて、一見この記事のあおりだけを読むと、せっかくIHIが開発したXF-9が生かされず、ロールスロイス製エンジンを積むことになると思わされますね。
そう感じた方は、以下の記事をお読みください。
【次期戦闘機】防衛省、開発スケジュールを自民党国防議員連盟に提示
この記事で触れましたが、ロールスロイス(RR)から技術移転を受けることになると思われるのは、エンジン全体ではなく、エンジン排気ガス冷却装置と、スタータ・ジェネレーター(電力発生器)になると思われます。
なぜならRRの持つエンジンで、(単独開発では)XF-9が生み出す15t級の推力の出せるものはないのです。
RRは、アメリカとF35のエンジンを共同開発していますが、それはエンジンそのものではなく、F35Bで搭載しているリフトファン(エンジンとともに、機体を空中に浮かせて垂直離着陸できるようにする部品)部分の提供です。
だからF35のエンジンはRR製とは言えないのです。
そして話を戻すと、エンジンは何と言っても推力が大きいほど性能がよく、使い勝手も良くなるので、わざわざ開発がほぼ完了しているXF-9を捨てて、これから開発することになるロールスロイス製を導入する意味はないでしょう。
(イギリスでは次期戦闘機「テンペスト」開発構想があり、それに向けたエンジン開発をRRが行っている)
XF9-1試作エンジンの構造/出典:防衛装備庁
ただエンジン排気ガス冷却装置と、内蔵型スタータ・ジェネレーター(電力発生器)は有用なので、部品取入れと言う形で、エンジンをブラッシュアップすることが出来るでしょう。
RR技術を取り込めば、ミサイル攻撃を受けない無敵戦闘機になり、その高性能エンジンをイギリスに持ち込みたい思惑か
それを導入すれば、通常なら高温になる排気ガスが冷却されて、赤外線センサーでも熱源探知されにくくなります。
そうなると、赤外線追尾センサーを持つミサイルからも『ステルス化』されますので、これを導入すれば次期戦闘機がレーダー探知されてミサイルを撃たれても、センサーが捉えられず、撃墜不能になる事でしょう。
つまりこれを導入すれば、ドッグファイトにでも持ち込まれないと、次期戦闘機はいかなる攻撃も受けない、ほぼ無敵戦闘機に出来るかもしれないのです。
また現在のXF-9のスタータ・ジェネレーターは、上の図にある通り、エンジンに付属する形で取り付けられていますが、それが内蔵できるなら、その分エンジンの直径は実質小さくなり、その分機体をスリムにするか、その分を他のものを内蔵するスペースに活用できるようになります。
それを燃料タンクに振り分ければ航続距離が延びますし、武器庫にするなら、攻撃力が増すことになります。
いいことづくめですね。
エンジンがイギリスとの共同開発になるという事は、イギリスがその技術を提供する気になっているという事でしょう。
そしてイギリスも大推力エンジンを得て、独自の新鋭戦闘機開発に用いたいという思惑だと思われます。
第5世代戦闘機に使える15tクラスエンジンを保有する国は、他にはまだアメリカとロシアしかないので、これから大推力、しかも第5世代戦闘機以上に使用可能な戦闘機搭載用のエンジンを開発するには、相当なリスクがあります。
その点、XF9は既に試作の段階で15tの推力を達成しており、量産までにさらにブラッシュアップが期待できるエンジンです。
それならば日本が欲しがる技術を提供して更なる高性能エンジンに仕上げ、ライセンス生産の権利を得るか、あるいは好条件で輸出を受けるかした方が、イギリスにとってメリットが大きいでしょう。
エンジン排気ガス冷却装置と、内蔵型スタータ・ジェネレーター(電力発生器)の技術だけでは、作ることは出来ませんから。
国際共同開発で「ちぐはぐ」を心配するようなら、そもそも合意に達するはずがない
そして「エンジンだけ切り出して英国と協力して、ちぐはぐにならないか」という意見は、技術的な話ではなく、政治的な話ですね。
そもそも国際共同開発は、その合意あっての話で、それがないなら始めからそうなりません。
そして次期戦闘機開発の主導を握るのは、当然開発主体国である我が国で、アメリカと言えど、イギリスが共同開発に加わるからと、ちゃぶ台返しには出来ないでしょう。
確かにF2戦闘機の開発の際は、日本がまだエンジンの開発が出来なかったので、その足元を見られて様々不利な条件を付けられました。
しかしその際問題となったエンジンは今回開発に成功しており、今更アメリカが難癖をつけても、応じなければいいのです。
それならばアメリカを共同開発から外して、イギリスと開発をするよと返せば、アメリカも開発を止められません。
そうして次期戦闘機開発に噛まないなら、アメリカが関わらないところで、下手をするとアメリカ製以上の戦闘機が誕生することになりかねません。
それは避けたいところでしょう。
逆にアメリカが共同開発に加わっていれば、共同開発国の権利として、ライセンス生産の権利を要求できるというメリットがあります。
そうすれば次期戦闘機と同じ性能の戦闘機をアメリカでも作れますし、これを土台にアメリカ独自の改良を加えて、低リスクに世界最強戦闘機を保有できるという思惑もある事でしょう。
あるいは日本仕様オリジナルから、アメリカの戦術上必要のない機能を削除して、その分をアメリカの戦術に合う機能に割り振るという考えを持っているかもしれません。
共同開発に加われば機体の細かな技術情報が手に入るため、どこにどういう改良を施せばいいか、詳細まで適切に検討できるはずですから。
例えば長大な航続距離を持たせると思われる次期戦闘機ですが、アメリカがそこまで望まないなら、内臓燃料タンクを小さくして、その分武装強化するとか、機体を補強して、艦載機化する改良を施すようなことを考えるかもしれません。
それこそF35Bのように、垂直離着陸出来るような改良を施すなら、逆に日本が導入してもいいですね。
すぐ改いずも型や次期艦載機搭載型護衛艦に、導入できるでしょう。
そのためには、F35Bのエンジンが搭載できるように、予め設計しておくといいですね。
そういう事をアメリカとすり合わせておけば、共同開発も有意義になるでしょう。
今回の情報は、米英とともに共同開発が進んでいることを示すもの
今回の情報は、テンペスト開発の下で日本の技術だけ取り込み、主導権を握るというイギリスが当初の思惑が潰れ、日本に技術協力することで高性能エンジンにし立てて、それをテンペストに導入する方針に切り替わったことを示すものと見て良いでしょう。
その辺を朝日は読み誤っているか、あるいは「次期戦闘機はRR主導でエンジン開発される」という印象操作をしようとしているかの、どちらかに見えます。
いつもの朝日を考えると後者のようにも思えますが、「エンジンだけ切り出して英国と協力して、ちぐはぐにならないか」のような事を言っているようでは、先に説明した事が理解できていない事が丸わかりで、次期戦闘機、あるいは技術についての分析が足りていないように感じます。
いずれにせよ今回の情報で、イギリスとも開発が進められていることが確認出来ました。
そしてイギリスとの交渉も、日本優位で進み、日本の求める技術も取り込めそうなことも。
良いことだと思います。