「蘭蝶」の世界 | 斎藤英喜の 「ぶらぶら日記」

「蘭蝶」の世界

日曜日。雨模様の一日。
午後から祇園甲部の「ぎおん桃庭」で開かれた香綸会第二回。

新内志賀(重森三果)さんの演奏を聴きに行きました。二月の第一回目以来です。

 

  

 

本日の演目は『若木仇名草』(蘭蝶)です。
「蘭蝶」といえば、新内の十八番で、通常は有名な「縁でこそ~~」の部分だけですが、本日はなんと一時間かけたフルバージョンが聴けたのでした。

 

思い返せば、新内の「蘭蝶」は、とおい昔の学生時代に「日本芸能史」みたいなレコードで聴いて、それ以来、新内って、いいなぁとファンになっていました。さらに新内は荷風の世界とも繋がっているので(笑)
 

という思い入れのある「蘭蝶」のフルバージョンが生で聴けるなんて!!もう感激の一言。
 

手元にある『日本音曲全集・富本及新内全集』(昭和二年刊)の本文を読んで

「予習」してました(笑)。

   
 

あらためてこの三角関係のドロドロ世界の描き方って、どっかで聞いたことがある。

そうだ、これは山口百恵の『絶体絶命』だ!!
ということで、昨夜から妻とその話をして盛り上がっていたのでした(笑)

 

  

重森さんの熱演のあとに、そんな僕の感想をお伝えしているシーン。

えっと、呆れている重森さん。
 

それと予習で読んだ本文では、出だしのところに『唐詩選』を典拠とした漢文調の記述があって、そのあとに「固い言葉は表向き、その内証は柔らかな、神の教へし色の道…」なんていう一節があるのでした。
 

『日本音曲全集』の注では、これはイザナキ・イザナミの「故事」とあって、イザナキ・イザナミ神話を「恋の道」の起源とする近世の神話だ、という感じで感動していたのでした。
 

ただ、これは本文がいろいろと違いがあるようで、重森さんによれば、最近の本文は、その部分が省略されているのだとか。
 

なんてことも新内を語る演奏者の方から直接教えいただけるなんて、なんて素晴らしい!!
 

さて、「蘭蝶」の世界。
本妻のお宮さんから「別れてくれ」と説得されて別れる決心をする愛人の此糸さん。

でも彼女が「死」を決意していることを察知した蘭蝶は、一緒に死ぬことになる。

まさに結末は「心中」です。
 

なんで最後は一緒に死ぬのかと不思議に思いますが、これは此糸とともに死のうと約束していたので、もし此糸さんだけが死んで自分があとに残ったら「そなたを殺して俺ひとり,世に長らえて人中に、何と顔が向けられよう…」というのが死の理由。
 

つまり「義理」が心中に展開していくのです。これはまさに江戸の世界ですね。
公演のあとでは聴いていた女性たちは「蘭蝶はひどい男だ」という感想でしたが、

いやいや彼は立派な男だと、と僕は思いますね。
 

ということで「蘭蝶」をめぐって、つい熱くなってしまいました(笑)
それにしても重森さん、ふだんお話されるときは可愛らしい「アニメ声」(笑)なんですが、

 

演奏のときの声はまったく違う。此糸さんとお宮さんのふたりの女性の声も、その性格がわかるような声使いをされるのは、感動でした。

 

   


次回は八月。楽しみにしています。