陳那の論理学の基本的形式(推論式)は、「三支作法」といわれます。
陳那以前の論理式は、「五分作法」といわれる、5つの要素で構成されている式が主流といわれていますが、陳那はそれを踏まえつつも、論理的に詰められた形式に修正・完成させたということができるでしょう。
三支作法という名前からわかるように、この推論式は3つの要素で成り立っています。その3つの要素は次の通りです。
1.宗(paska):主張、命題
2.因(hetu):理由
3.喩(udaharana):例え、実例
これだけですと、その論理式の意義があまり伝わってこない印象がありますが、さらにブレイクダウンした構造があります。特に「3.喩「」のところに焦点が当たりますが、そのブレイクダウンした構造は次の通りです。
1.宗
2.因
3.喩
3-1.同喩(類似の例、たとえ)
3-1-1.喩体(全称判断:「およそすべての○○は△△である」ということ)
3-1-2.喩依(実例)
3-2.異喩(非類似の例)
3-2-1.喩体(全称判断:「およそ◇◇でないものは●●でない」ということ)
3-2-2.喩依(実例)
しかし、このように抽象的に構造を記述してもイメージしにくいので、例を当てはめて考えてみたいと思います。
【例1】
1.宗:「声は無常なり(音として発せられる言語は無常である)」という主張
2.因:「所作性(作られたるものという性質)のゆえに」
3.喩
3-1.同喩
3-1-1.喩体:「およそ所作なるものは無常なり」
3-1-2.喩依:「例えば瓶のごとし」
3-2.異喩
3-2-1.喩体:「およそ常住なるもの(無常でないもの)は非所作なり」
3-2-2.喩依:「例えば虚空のごとし」(常住である虚空は、作られたものではない)
【例2】
1.宗:「かの山に火あり」という推論
2.因:「煙のゆえに」
3.喩
3-1.同喩
3-1-1.喩体:「およそ煙を有するものは火を有する」
3-1-2.喩依:「例えばかまどのごとし」
3-2.異喩
3-2-1.喩体:「およそ火を有せざるものは煙を有せず」
3-2-2.喩依:「例えば湖水のごとし」
【例3】
1.宗:「あの車の中に犬がいる」という推論
2.因:「ワンワンという鳴き声のゆえに」
3.喩
3-1.同喩
3-1-1.喩体:「およそワンワンという鳴き声がするところには犬がいる」
3-1-2.喩依:「例えば犬ポチがいる隣家のごとし」
3-2.異喩
3-2-1.喩体:「およそ犬がいないところからは、ワンワンという鳴き声はしない」
3-2-2.喩依:「例えば犬がいない近くの電話ボックスのごとし」
例1、2は仏教書でよく紹介される例。例3は私が作成したものです。
参考文献:「インド人の論理学」(桂紹隆著)、「東洋の合理思想」(末木剛博著)、「講座仏教思想第二巻 認識論 論理学」(服部正明他著)、「講座大乗仏教9 認識論と論理学」(桂紹隆他著)、「インド仏教の歴史」(竹村牧男著)