- More Light/Primal Scream
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Primal Scream,5年ぶり10作目のアルバム。
前作Beautiful Futureは、「なんとなく」作られたような、煮え切らなさを感じたアルバムだった。悪くはないんだけど、自分たちの最高傑作を作ろうという意志は見えず、プライマルがついにピークを過ぎたバンドになってしまったのかとやや寂しい気持ちにもなった。
そして、近年はスクリーマデリカ再現ライブなど、キャリアを総括する活動が続き、マニも抜けてしまったこともあり、テンションの高い作品はあまり期待していなかったのが正直なところ。
しかし、先行公開されていた2013を聴いたときに、何か心に引っかかるものがあった。退廃的な空気を作るサキソフォンと攻撃的なギターが暴力的なグルーヴを描いていく。前作にはなかった不健康な享楽性が、ここで復活している。そして、これがアルバムのオープニング・チューンとなっていて、アルバムのテンションをかちあげている。
2曲目River Of Painでは一気に漆黒のグルーヴを見せる。パーカッションとベースラインの雰囲気が「悪魔を憐れむ歌」を想起させる。途中の壮大なストリングスといい、内包しているエネルギーが止めどなく溢れてくるような曲だ。聴いていると思わずニヤニヤしてしまう。ここにある「ゾクゾク」する感じこそが、かつてのプライマルにあったものなのだ。
3曲目、ポップ・グループのマーク・スチュワートが参加しているアジテート・ソングCulturecide、4曲目Hit Voidからは一転して、スペイシーなロックンロールへと舵を取る。この辺の変化自在な感じも、まさにプライマル。
その後もオリエンタルなリフが印象的なSideman,21世紀型サイケ・パンクのRelativityなど多彩なナンバーが収録されている。サウンドのトーンは、ドラッギーなギターにカンやノイ!に影響を受けたというやや無機質なハンマー・ビート、そこにサックスやピアノ、パーカッション、そしてノイズがやや乱暴にアクセントをつけているといった感じ。そのフォーマットの中で、これだけ振れ幅の大きい内容になっているのはおもしろいが、アルバムの流れという面ではどうか、という不安が見えてくる。
だが、そんなアルバムの最後をがっしりと束ねるのがラストのIt's Aright,It's Okだ。おそらくバンドのニューアンセムになるであろう、ゴスペルライクなロックナンバー。「なんとかなるさ、大丈夫」と繰り返し歌うボビー。この包容力に、先ほどの不安が一気にストンと落ちる。すべてのナンバーが収束していって、ここで頂点に達するという見事な流れになっている。ボビーの確信犯的な薄ら笑いさえ見えそうだ。
器用にまとめるのではなく、自分たちのロックへの熱量を100%伝えたいという、そんな意志が漲ったアルバム。ピークがどうのこうのと言うよりは、バンドのクリエイティヴなパワーがとてもいい状態にあることを証明している作品です。
(08/08/13)