ジェイムス・イハ、14年ぶりのセカンド。ファーストをリリースした頃は、まだスマパンのギタリストとして活動していたのだけど、ファーストのライナーノーツでは、ツアーやレコーディングで毎日のようにディストーション・ギターを弾いていると、その反動でプライベートな時間はアンプを通したくなくなるいうような発言をしていた。それを読んでとても納得したのを覚えている。
隠れた名盤と言われるファーストであるが、個人的にはそれほど聞き込んだというわけではない。流麗なアコギの調べと、イハの頼りなげな歌はそれなりに好みではあったが、ちょっとまとまりすぎのような気もした。
で、スマパン脱退後はティンテッド・ウィンドウズやパーフェクト・サークルなどでギターを弾いていたものの、さほど目立った活動をしていなかったように見える。シンガーソング・ライターとして確かな力を持ちながらも、この長き空白の時があのファーストは偶然の産物だったのかと思わせるようになった。
そこでいきなりの新作リリース。オープニングのMake Believeの朴訥としたアコギのイントロを聴くと、確かに14年前にタイプスリップするような気持ちになる。変わっていない、と一瞬思う。しかし、聞き込んでいくうちにそうではないことがわかる。
ギタリストらしく、ギターとの相性の良いグッドメロディーを基調にするという所は変わらなくても、表現スタイルは驚くほど多彩になっている。そして、深みを増している。浮遊するシンセ音に柔らかなメロディーが展開していくチルウェイヴっぽいSummer Days、ニュー・ウェーヴの影響を感じさせるTo Who Knows Where、ブルースやジャズの香りを漂わせるAppetiteなど、振れ幅の大きいサウンドに挑戦しているが、アルバムのトータル感を損なうことなく、前作よりもずっとイハという「人間」が感じられる作品になっている。
今はディストーション・ギターへの反動という所ではなくて、もっと素直なポジションで音楽に取り組んでいるように見える。そういうニュートラルな気持ちで表現していることが彼の音楽性をさらなる開放へと導いたのではないだろうか。Geminiでは思いっきりオーバードライブなギターが炸裂しているし、アコースティックなサウンドへのこだわりがない方が、彼のポテンシャルを測り知るには良いと思う。
個人的には「ヨルダン・ザ・カムバック」、「アンドロメダ・ハイツ」期のPrefab Sproutに近いものを感じる。星屑をつかみ取れるところに居るんじゃないかっていうような、澄んだ世界に息づく音楽。前作同様に長く愛される名盤になるかどうかはわからないが、今作の方が僕はずっと好きである。
★★★★(10/05/12)