細野晴臣,38年ぶりの全曲フルヴォーカルアルバム。「Hosono House」以来となる今作品。個人的には大好きなアーティストであり,子どもの頃からあこがれの人であったが,最近の作品からはやや遠ざかっていた。
でも久しぶりに,細野さんが歌っている,しかも全曲歌っているということで,「これは聴かねば」と思い手に入れた。アルバムタイトルに「Hosonova」とあるように,今回はボサノヴァに挑戦。これまでロック,テクノ,エキゾチック・ポップ,アンビエントetcとほとんどのジャンルに挑戦している印象を受けるが,ボサノヴァと聞くと,なんだかとても新鮮な響きであるように感じられた。
アルバムの内容は,確かにボサノヴァテイストの曲が多いが,それだけにはとどまっていない。僕が感じたのは全編に流れるブルースのフィーリングである。脳天気に明るく終わることがなく,悲哀だとか,無常観みたいなものが底辺で河を造っている。それは,はっぴいえんど作品にも感じる物である。だから,単なるおしゃれなサウンドやムードを醸し出すだけのボサノヴァになっていない。何とも「細野サウンド」としか言いようのない,芳醇で味わい深い世界が広がっている。
サウンド面を支えるのは,鈴木茂、林立夫、佐藤博といった昔からのおなじみの面々だけではなく,今売れっ子の高田漣や伊賀航、そしてSAKEROCKの伊藤大地など,演奏力だけでなく,創造性あふれるプレイのできるミュージシャン。なので,細野さんがやりたい物に対して,彼らが少しずつ色づけをしているような感がある。細野さんの音楽を世界観を壊すことなく彼らが再構築しているようにも見える。
カバーが5曲でオリジナルが7曲。個人的にはオリジナルが秀逸だと思う。軽妙且つ哀愁あふれる「悲しみのラッキースター」,深みの極みといった極上のサウンドが聴ける「ローズマリー・ティートゥリー」など,アコースティックなサウンドを主体にしているが,「ロンサム・ロード・ムーヴィー」での鈴木茂のロックなギターは最高にかっこいい。若造には絶対出せないフィーリングがある。「ただいま」「バナナ追分」ではあの星野源と共作。「ただいま」は星野源のソロアルバムに収録されたヴァージョンとはまた違った側面を見せ,ムーディーな演奏と歌声を披露している。
アルバム発売前に震災があり,一時はアルバムをリリースするどころか,音楽をやること自体に意義を見いだせなくなっていたという細野さん。でもこのアルバムを聴けば分かる。細野さんがどれだけ音楽に恋い焦がれた人間かということが。
★★★★☆(01/06/11)