Sex With An X/The Vaselines | Surf’s-Up

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 The Vaselines、実に21年ぶりとなるフルアルバム。それこそ、カート・コバーンが彼らの音楽を大々的に取り上げることがなければ、「グラスゴーの伝説」という範疇で終わっていただろう。あのカートが、Molly's Lips,Son Of A Gun,Jesus Doesn't Want me For A Sunbeamをカバーしたことはロックファンなら知っているだろうが、初めて聴いたときにThe Vaselinesのカバーだと気づいた人はどれくらいいるのだろう。このリフレインを多用したメロディーラインは両者共通だし。
 昨年彼らのキャリアをほぼコンプリートしたベスト盤がリリースされ、またサマソニ出演によって初めての来日も果たした。その前年にチャリティー・イベントで再結成を果たした彼らは、そのまま勢いと再評価の波に乗る。ライブを重ねていくうちに、新曲がやりたいと思った彼らはついに21年振りとなるニュー・アルバムを完成させた。


 驚くべきはそのサウンドスタイル。全く21年前と変わらぬサウンド。キャッチーで聴いた途端に口ずさめてしまうメロディー シンプルなギターサウンド、フランシスとユージンのたどたどしげな歌声・・・まさに王道のヴァセリンズサウンドであり、正統派グラスゴーサウンド。


 クスリ、セックス、デブ、悪魔など刺激的な言葉を並べ、際どい世界観を歌っているのも同じ。でもやはり特筆すべきは21年前に真空パックしたものを、今開けたんじゃないかというくらい瑞々しいメロディーだ。ポップ、リリカル、メランコリックと様々な表情を見せるメロディーラインは奇跡的な美しさを持っている。これだけ年数が経っていながら、全く手垢にまみれた感じがない。まさに、鋼のようなピュアネスでもってメロディーが紡がれている。


 個人的には、セックスの歌なのにどこか牧歌的なSex With An X、Duran Duranの名前を引き合いに「80年代は嫌い。最低だから」と吐き出すI Hate The 80'sなどポップめの曲が好き。ラウドで初期TFCのようなサウンドの曲も好きだが、僕はポップな曲調の方がVaselinesとしてのマジックをより感じる。


 現在ではすっかり「あり」な選択肢となった再結成。成功を収めているバンドも多いが、ここまで期間が空いているのに全く変わらないってやっぱりすごい。自然体というか、全く気負いがないんだろう。でも、自信は漲っている。二人で音を出せば、それはもうVaselinesの音。そういう境地にたどり着くことを、数多のバンドが目指している中、男女関係のもつれで解散し、ひょんな事から再結成したユニットがそこで燦然と輝きを放っている。


 カートに聴かしてやりたいなぁ、これ。


おすすめ度★★★★☆(19/09/10)



アルバムの予告映像