Travis6枚目のアルバムは、自主レーベルRed Phone Boxからのリリース。環境が変わったからなのか、前作からのインターバルも短く、サウンドプロダクションもこれまでと大きく変わっている。
オープニングである「Chinese Blues 」から、腹にズシッと来るドラム、重々しいギターリフで、これだけ聴いたら絶対誰もTravisだとは思わないだろう。メロディーラインはややメランコリックな線を残しながらも、硬派な1曲に仕上がっている。そして、2曲目「J. Smith 」ではクラシカルな野太い男性コーラスまで入るという、男臭いというか意図的に重く仕上げようとするねらいが感じられる。そして、3曲目「Something Anything 」は、これまたやや乱暴なギターリフで、メロディーはかなり面影があるものの、これまた感傷に浸るような余地なくタイトに仕上がっている。
つまりは、頭からの3曲だけでも、かなり今までにはないプロダクションが見られる。前々作「12memories」も当時は「スタイルを大きく変えた」と評判になったが、今作はその比ではない。
従来のTravisが好きだという人は6曲目「Last Words」からやっと安心できる。これはまさに「Travis印」とも言えるメランコリアが爆発する1曲、次の 「Quite Free 」もこれまでの彼らから全く違和感がない、アコースティックな温もりを持った1曲だ。また、ボーナストラックの「サラ」もピアノだけのシンプルな演奏ながら心にしみる。
というように、ガラリと印象を変えた曲と、ステレオタイプな曲とがこのアルバムには混在している。個人的にどちらが好きかと聞かれたら、やはり従来のタイプが好きと答えるだろう。
それはつまり、これまで彼らが生み出してきた作品が抜群のクオリティーを誇っているからだ。極上のメランコリア、繊細なアレンジ。傑作「The Man Who」から「叙情派ロック」みたいな言葉が生まれるほど、Travisはその道のど真ん中を歩いてきた。そしてまた、その後を通れるバンドもいなかったと思う。数多のフォロワーを生み出しながら、彼らに追随できるほどの力を持ったバンドはそうはいないだろう。
それだけ今までの作品が自分にとってインパクトがあるだけに、アルバムをトータルで見るとまだやっぱり馴染んではこないのが正直な感想。それでも、このバンドに対する自分の信頼は微塵も揺らがないが。
おすすめ度★★★☆(10/08/08)
J.Smith
Something Anything
Song To Self