新作を出すごとに過剰なまでの期待をされるアーティストの一人がBeckだろう。それでも、デビューしてからすでに10年以上。相変わらずBeckの新作は、ロックの最前線であり、試金石である。
Beckの作り出す作品は、音の紡ぎ方に特徴があって、過去の遺産的なものと新しいものをうまくミックスさせながら作ってきたようなところがあったと思う。そのセンスが爆発したのが「Odelay」。その後も、フォークやファンク、ヒップホップなど行き来しながらも、最終的には彼にしか作り出せない音へと昇華させていくのは実に見事で、表現者として理想的な道を歩んでいるなと思う。
しかしながら、今作ではその繊細な作業が割とシンプルに行われたのではないかと思う。相変わらずいろいろなタイプの曲が存在するが、音数はBeckの作品の中では少ない方だと思う。はっきりとはわからないが、例えば今までだったら1曲仕上げるのに10のアイディアが必要だとしたら、今作では7,8のアイディアで作り上げているような印象を受ける。それゆえに、今作の楽曲からは生身のBeckがよく伝わってくる。聴いていると歌声や、歌詞の内容なんかがすごく気になる。これは初めてのことかもしれない。
全10曲、34分というサイズはBeckにしては少々物足りない感じもするが、「物足りない」と思わせるところが逆にいい。何度もリピートし、聞きこんでしまう。
ただ、この作品もそうであるが、一つだけ全く変わらないこと。それは彼の書く柔らかなメロディー。圧倒的な才能がこの作品でも如何なく発揮されている。彼が今後どういう方向に進んでも、この部分は変わらないと思う。
おすすめ度★★★★☆(08/20/08)
Orphans