簡単にストーリーを説明すると、ベトナム帰還兵であるモスがハンティングの途中、殺人現場に遭遇し、そこで大金を見つけ、逃走を図る。しかし、おかしな髪型の殺人鬼による、容赦ない執拗な追跡が始まる。そして、この事件に当たるのが、いささか年老いた保安官。
殺人鬼アントン・シガー役のハビエル・バルデムの存在感だけで、十分成り立ってしまうくらい、この殺人鬼を中心としてストーリーは進んでいく。
アントン・シガーが使う武器は、家畜の屠殺用のエアガン。これを使ってドアノブをぶっ壊し、いささかもためらうことなく相手の頭を打ち抜いていく。まぁ、実にたくさん殺しまくる。「ナチュラル・ボーン・キラーズ」で殺人鬼を演じたウッディ・ハレルソンが殺し屋の役で出てくるが、実にあっさりと殺されてしまう。
どんな人間であっても、彼の前では単なる「殺す相手」にしかすぎない。話し合いで解決しようとしても、アントンは全く受け付けようとしない。なんだか具合の悪くなるような圧倒的な暴力。思わず背筋が寒くなるのだが、実際問題全く意味をなさない理由で物事が進んでしまうのは殺人だけではなく、我々の社会自体で日常茶飯事のごとく起こっているように思う。当然ながら、この事件を追う保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)には簡単に理解できない。理由なき殺人も、そしてなぜが殺人を犯した場所に戻ってくることも、全く理解できないのだ。
簡単に言ってしまうと、アントン・シガーは今の壊れたアメリカの象徴であり、ベルは古き良きモラルが存在していた社会の象徴なのだろう。原題の「NO COUNTRY FOR OLD MEN」という言葉が物語るように、良識的な生活を営んできた人々の悲痛な思いがそこにはある。ラストのベルの語りをよく聞いてほしい。
これほどまでに壊れた世界で、我々はどうやって生きていくのか?この映画にはその答えはない。