五月の初めにレーティング選手権に出場したことが、今では遠い日の出来事のように感じる。
すっかり忘れていた存在だったが、先日我が家に棋譜集が送られてきた。今までは楽しく並べる側の人間だったのだが、今回は並ばれる側である。非常に嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。ここでどう指したか、なぜこう指したのかと並べてくれている人を考えさせるのだろう。いやあお恥ずかしい。
というわけで需要はないかもしれないが、一局一局を違った視点で振り返ってみようと思う。肝心の棋譜に関してはぜひ購入してみてくださいということで。
一回戦 VS信澤さん
全国大会初戦ということで舞い上がっていた対局。信澤さんは久しぶりの全国大会だったようで、互いに対局前緊張してますと会話をした。信澤さんは関東予選に出場する予定だったそうだが、大雪のため行けなかったらしい。自分はその関東予選を突破していたので、なんとも複雑な心境。それでもよく勝ち抜いたねと褒めていただいた。私も調子がいい時は強い人にだって勝てるのである。
対局が開始すると少しこちらが自信ありの局面になった。ピョンと2九の桂馬が手順に4五まで捌けたからである。しかし実際の形勢は違った。相手の美濃囲いがなかなか堅く、どうも一筋縄ではいかない。考えているうちに自信が無くなり、勝負手で迫らざるを得なくなった。この時点で対局観の差で負けていたということだろう。
終盤になると私の視線に血が映った。そう、信澤さんの指から血が流れていたのである。月下の棋士なら血染めの熱局として一話のネタになるかもしれないが、あいにく形勢は一方的。そのまま押し切られてしまった。
二回戦 VS門屋さん
門屋さんとは棋道館時代に指してもらったことがあったのだが、忘れていたと思う。何せ9年も前のことだ。最近では道場対抗戦でお姿を見ることができた。棋道館の頃はスポーツ新聞をじっくり読む姿が様になっていたが、今は小中学生の指導に力を入れているようだった。実際、今大会の中に門屋さんの教え子さんがいたような気がする。確信は持てないが……
対局の内容は意外にも私の会心譜となった。攻めた。とにかく攻めた。盤上のありとあらゆる形がすべて私に味方したようだった。ここまでの快勝は珍しい。ただ、ここで満足してしまったのが私の甘さというべきであろう。
三回戦 VS田代さん
お名前は聞いたことはあった。近将道場で上位にいた方だ。対局数が異常に多かった気がする、いわゆる将棋廃人だ。
「今でもネットで指しまくってるんですよ」
ハハハと笑うその姿は本当に将棋が好きであることが伺えた。
対局の内容は実に情けないものとなった。自分の序盤の知識がいかに欠如しているかがわかる内容。それでも粘ったが、実戦的には勝てない将棋となってしまった。
なお、後日24で対戦する機会があった。そこではリベンジを果たしている。本当に勝つタイミングがおかしい。
四回戦 VS工藤さん
東北で有名な方。私とは何にも接点が無いと思っていたのだが、共通の友人がいた。
岩手高校に在学していた西田さんである。私が通っていた将棋教室の先輩であり、まさかその名が出てくるとは思わなかった。感想戦ではその話題やらで花が咲いた。それだけ将棋は語るところがなかったということでもあるのだが。
ちなみにこの対局は私の2014年度最低将棋ランキングで堂々の第一位に君臨する。まあとんでもない将棋だった。まさに最低。ストレスで悩んでいる方は工藤さん側を持ってぜひ気持ち良く並べてもらいたい。幸い私が後手だったのが救いか。
五回戦 VS下西くん
ここから二日目。前日最終局で立ち直れないレベルの内容を残してしまった私にとって、ここは名誉挽回のチャンスだった。
まさに熱戦。二転三転。互いに頭を抱えながら迷うような手つきで駒を進める。どちらも決め手を逃したからか、ため息が多かった。
実際のところ30秒将棋ではなかなか勝ち切れなかった気もする。私がはっきり良かった局面もあったのだが、下西くんの気迫にやられた。いやあ怖かった。
190手近く指してしまい、昼食休憩がずれ込む事態に。このラウンドは全体的に長引く将棋が多かったようだ。それだけ各所正念場がきたと言える。
六回戦 VS東山さん
最終局。なんとか2勝はしたかったのでこの将棋は負けられなかった。それが普通は空回りすることが多いのだが、不思議と力が抜けていい将棋になった。指したい手が指せてそのまま勝つ。これほどの喜びはない。
東山さんは私が小学生の頃から存在は知っていたのだが、対局は初めてだと思う。あの頃と比べると自分も曲がりなりに成長しているんだなと感じた。
戦型は相掛かり。私の初手2六歩に対し、ノータイムで8四歩と受けて立ってくれたのは嬉しかった。将棋もイケメンだった。
通算成績は2-4。まあ自分なりの目標は達成できた。何よりいい経験になったし、多くの方とお話できたのが良かった。
今大会は準優勝者の生川くんが話題となった。今並べている最中なのだが、強豪相手に圧勝したりと驚きを隠せない。
いつか私も台風の目になってみたいものだが、それには実力が足りないのでまた勉強しようと思う。